第49話 婚活無料相談会へ行ってみる
今、私はとても緊張している。
「大丈夫、そんなガチガチにならなくても」
先程から
彼女が利用した結婚相談所で無料相談会が開かれると聞いて思い切って行ってみることにしたのだけど、何せこの性格だから初対面の人に会うのもドキドキする上に敷居の高そうな結婚相談所へ話を聞きに行くのも緊張する。
ふと、宗教やマルチ商法の勧誘話を思い出してしまう。
友人知人に「話があるから」と誘われて足を運んだら行った先にもう一人いて、ガッチリ囲まれて逃げにくくなる、というもの。
幸い私は人見知りで、「久々に会わないか」連絡きても何とか断ってきたし、
「無理な勧誘はないから、安心してね」
私の胸中を察したのか、
午後に都内の電気街として有名な場所がある最寄り駅で待ち合わせをし、今向かっているところだ。
——逃げられなかったら、どうしよう——
ちょっと相談してみようかな?と思いここまできたはずなのに、急に不安になってしまっている。
さっきから
「ここなの」
案内されたのは、小ぢんまりとしたごく普通のマンションだった。
——ここ、普通のマンションだよね?そこで結婚相談所だなんて、大丈夫なのかなぁ?——
マンションなので、当然看板なんて掲げられてはいない。
段々緊張感が増してきてる。
エレベーターを降りると玄関がいくつか見え、
「こんにちは、どうぞ中へお入りください」
対応に出てきたのは、年のころ
——受け付けの人かなぁ?——
ヘアスタイルはボブで私と近い系列の薄めの顔立ち、服装はカジュアルで親しみやすさを感じさせる雰囲気だった。
室内は一見マンションの一室のようだけれど、所々サンキャッチャーに万年竹が飾られ、これはこれでまた別の怪しさを感じるものなのかもしれないけれど、陽に当たったサンキャッチャーがキラキラしてきれいだった。
「どうぞ、こちらにおかけください」
白いテーブルに椅子があり、勧められるままに着席する。
これでもう逃げられない気がした。
「初めまして、私は風水鑑定士で婚活部長の
受け付けの人だと思っていた女性が今回の相談員とわかり、なんだかホッとする。
結婚相談所勤めの女性のイメージは、化粧が派手で押しの強そうなオバサンを想像していた。それが普通の人だったので、ここで少し緊張がほぐれた気がした。
名刺を渡されたので受け取る。
名刺デザインもわりとシンプルめで、これもまたひとつ安心できる気がした。
——あれ?——
ここでひとつ違和感を覚える。
無料の婚活相談会と聞いていたので、自分以外に人がたくさんいるものだと思い込んでいた。
知らない人がたくさん集まっているような場所は苦手だけれど、こうして自分しかいないのもなんだか怖い。
——いや、大丈夫、大丈夫!
そう自分に言い聞かせる。
「えー、お話はだいたい
語り口もごく普通の会話の延長といった印象で、心配していた威圧感は全く感じられなかった。
「まずこちらにご記入お願いします」
一枚の紙とボールペンを渡される。
名前に生年月日だけでなく、様々な質問項目があった。
希望する男性の年収や年齢差に職種、結婚後に住んでもよい場所の範囲まで記入した。
——なんだか病院の問診票みたい——
希望する年収についてはよくわからなくて、
とりあえず空欄にして飛ばすことにした。
——あんまり高望みしちゃうと結婚できなさそうだもんね——
相手の身長に対するこだわりは自分が背が低いのもあり、とくに希望はない。
これもまた回答に困って空欄にした。
職種についての希望はよくわからなくて手が止まってしまう。
——普通に正社員として働いてくれてるなら、なんでもいいかなぁ——
就職氷河期世代で一度も正規雇用をされたことがなかったので、あまりぜいたくは言えないのかもしれないけれど安定は欲しい。
とりあえず『正社員であれば職種はこだわらない』と、記入した。
結婚後に住んでもよい範囲は、なるたけ実家から遠くへは住みたくなかったので首都圏を希望する。
最後に絶対に譲れない条件はあるのか記入しなきゃならなかったのだけど、とっさには思いつかなくて手が止まってしまった。
「書けないなら無理しなくても大丈夫ですよ」
「ええと、
突然の質問に私は面食らった、至極シンプルな問いかけなのだけど、とっさには答えが出ない。
なんでなんだろう?
ずっと自分はいつか時がくれば誰かと巡り会って結婚して子供を産んで…そんな人生を歩めると思っていたのに、気がついたら2022年現在、アラフォーになっても独り身だったのが現実だ。
日々すごすのに一杯一杯で余裕なかったのが、コロナ禍で自宅待機になって考える時間が増えたときに急に不安を感じたのが本音だ、
こんなこと言ってもいいのだろうか?
ここで
「コロナ禍で独り身でいるのに不安になっちゃったんだよね?」
思わず「はい、そうです」と即答、一瞬まずい答えだったかな?と、恐る恐る
「なるほどそうなんですね、ここ2年ばかりはそういう方たくさんいらっしゃいます」
と、にこやかだったので、ホッとした。
「うちのシステムなんですけど、3ヶ月で30万円です」
ええっ!?3ヶ月で30万?!
そんなに早く結果が出せるわけない!!
どうしよう、やっぱりやめようかな、でも断りづらい…。
——
隣に座っていた
「私の場合はね、もちろん3ヶ月で縁は見つからなかったのだけどね、その後は制限なくお見合い組める上に成婚退会料もかからないから、根気よく続けられたのよね」
この紹介所でのことを教えてくれた。
「
譲れない条件ってなんだろう?
少し考えてすぐに思いついたのは、
「できれば実家の近くに住みたいので、それを受け入れてくれれば…」
さらっと言葉が出た。
他はなんだろう?
「あ、あまり年が上すぎても下すぎても、どう接していいのかわからなくなります」
本音をいえば、同い年くらいがいい。
「他は、ええと…」
咄嗟には思いつかない、というより自分の場合『こういう人はイヤだ』というのがはっきりしている割に『こういう人がいいな』という希望が思いつかなかった。
「へぇ、
「あ、私は学歴は別に…」
自分自身そんなに高学歴ではないので、相手に望んだりはできない。
「身長は気にしません、私よか低い男性そうそういないと思いますし…あ、年収は…平均くらいあればいいかなって…」
本音をいえば高収入であるにこしたことはないが、若くはない上に
「
——今時の平均年収って、一体どれくらいなんだろう?——
こうして自分が全くなにも考えていなかったことに気づき、相談会に参加しているのを恥ずかしく感じてきた。
「ええっと、だいたい500万くらいでしょうか?」
適当に答えた後私は、俯いてしまった。
それに対する
この後はほぼ私に対する質問とシステムに関するザックリとした説明で、恐れていた勧誘は全くなかった。
結局この日は色々質問をされ、相談所についての説明をかんたんに聞いただけで、入会することはなかった。
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