第48話 永沢藤子の婚活苦労話

約束の時間に近づいてきたので。先に待ち合わせ場所であるおばんざい屋『菜っぱ屋』へ入店した。



「あの、あとからもう一人来ます」



若い女性店員は「かしこまりました」とにこやかに受け、座席に案内してくれた。

店内さほど混んでいなかったのもあり、運良く個室に案内された。


永沢ナガサワ藤子フジコは、6時10分すぎに現れた。



「ごめんねー、待たせてしまって」



サラサラとした黒髪のロングヘアにふんわりとしたオフホワイトのトップスにネイビー地に白い小花柄のロングスカートが、彼女らしい装いに見えた。

最近彼女垢抜けたわよねと、小畑オバタ一美カズミが話題にしていたのを、ふと思い出した。



「お疲れ様です、お忙しい中お時間つくっていただいて申し訳ないです」



私は席から立ち上がりお辞儀をしようとしたが、



「ああ、いいのよ、そんな固くならなくても」



永沢ナガサワ藤子フジコに止められる。



「まだ注文してないわよね?」



「はい」



私は飲食店へ行くとだいたい迷ってすぐには決められないのだが、今日は早めに入店しメニューを見ていたので注文するものは決まっていた。

二人ともドリンクは冷たいお茶で食べ物はおばんざい三品セットで、私はそれにプラスだし巻き卵、永沢ナガサワ藤子フジコは季節の小鉢を注文した。



「実は私ね、二十代のころから婚活していたの」



単刀直入に本題に入ったのと婚活が二十代からという発言に、軽く驚く。



「はじめのうちは人の紹介やら合コンやら親戚が持ってきたお見合い話に乗ったりしたのだけどね、ご縁がなかったのよねー」



こういうときどう反応していいのかわからない、「はぁそうですか」というわけにもいかないし、ひたすら次の言葉を待つしかなかった。



「結婚相談所もね、3回くらい変えたかな?」



「えっ、3回ですか!?」



これには驚いて思わず声に出してしまった、結婚相談所は入会するだけでも相当お金がかかるはず…。




「最初はね、大手の相談所に入会していたのだけどね、まぁ何というのか、やりかたがとても強引なとこでね」


ふと姉のアカネの旦那さんの昭司ショウジさんを思い出していると、



「マッチングした人とお会いして、3回デートした時点で結婚する気ありと判断されて、成婚退会料を払うよう迫られたのよ」



なんと!昭司ショウジさんがいた結婚相談所と同じ話が聞けるとは思わず、驚いてしまう。



「あの、そこの相談所って、もしかしたらダイヤモンドマリッジですか?」



気になったので、昭司ショウジさんが働いていた社名を出してしまう。



「あら、よくわかったねー、もしかして利用したことあるの?」



やっぱりそうなのか…。



「いえ、義理の兄が昔働いていて、そういう強引なやり方が気に入らなくて退社していたので…」



「そう…やっぱり働く人もストレスよね。初めての結婚相談所がそれでだいぶ心が折れたのよね、消費生活センターに相談することになったり色々あってね」



ええっ、そんな大事おおごとに!?

トラブルが起きたときに消費生活センターとやり取りするような芸当は、私にはできそうもない。

婚活方法の相談、やっぱり今回も参考にならないのかなぁ…。



「二度目に利用した結婚相談所ではね、一年在籍して結婚できなければ退会させられてしまうシステムだったのよね」



「えっ!?」



いつもは反応が鈍い私だけれど、これには驚いて声をあげてしまった。



「結婚できないのに相手に色々条件求めるなんて思い上がってるとか、結婚相手に選ばれないのは人間のクズとか、ずいぶん心折れるようなことまで言われてね、まぁそんなだから二度と相談所使うもんか!って思ったりね」



それはひどすぎる!

でも、そこまで人格否定されるようなこと言われちゃ、私は二度と立ち直れなくなって結婚諦めるだろうなぁ…。

永沢ナガサワ藤子フジコは鋼のメンタルの持ち主なんだろうか?

そんな私の心のうちを見透かしたように、



「実は私はね、こう見えてもメンタル弱いのよね」



なんて言うものだから、さらに驚いてしまう。



「そこまでひどいこと言われて、どうやって立ち直ったんですか?」



素朴な疑問だ。



「しばらくは落ち込んだわよ、そこの相談所はすぐ退会し、結婚諦めていた時期もあったのよね。幸いそのとき仕事に必要な資格試験を受けることになって勉強が忙しくなって少しは気が紛れたのだけど、最後の相談所…というより婚活部なんだけど、そこに出会うまでは結婚したくても諦めていたのよね」



結婚を諦めてしまうようなひどいこと言われた後に再び婚活はじめようと決意させた婚活部って、どんな感じなんだろう?



「私の結婚が決まった婚活部ってね、占術センジュツを使うシステムでね、普通の相談所より成婚率が高いの」



聞き慣れない言葉を耳にし、一瞬頭の中が混乱した、戦術センジュツ

婚活を成功させる作戦でも教えてくれるのかな?と思っていたら、



「あ、占いといっても怪しいものではないから安心してね、高い壺買わせたりとかないから」



ああ、戦術センジュツではなく占術センジュツかぁ、と、納得したものの、それはそれで不安になる。



「お待たせしました」



ここでウェイトレスが現れ、注文した料理が次々と運ばれる。

どれもとても美味しそうで楽しみにしていただし巻き卵もあったのだけど、占術センジュツを使った婚活部って怪しくないの?なんかヤバくない?ムリヤリ勧誘されないよね?と、不安に感じ箸が進まない。



「最初のきっかけはね、ちょっと仕事で悩むことがあって占いに行ったの。婚活部以外に占いカフェもやっていて、そこにふらっと寄ったのがはじまりだったの」



婚活部以外に占いカフェ?ますます怪しく感じてしまう。

それにしても、占った内容は結婚についてではなく、仕事だったのか…。



「そのついでに何だか結婚運までみてもらって、ご縁がありますよと言われたの」



婚活部も兼ねている占いカフェなら、そう言って勧誘とかもあるのだろうな…そう思っていると、



「でもそのときは、とくに婚活部の勧誘はなかったのよね」



意外な発言にまた驚いてしまう。



「ああ、そもそも私ね、昔ある占いで結婚は絶対にムリと言われたことがあったのよね、それで2つめの相談所でなかなか決まらずひどいこと言われて諦めていたから、占いカフェでご縁がありますよって言われたとき、本当に嬉しかったのよね」



相談所のひどい発言だけでなく、占い師にまでダメ出しされていたなんて!

私だったらめちゃくちゃ落ち込んで、結婚どころか人生そのもの諦めるかもしれない。

そこから立ち直って結婚が決まるなんて、やっぱり永沢ナガサワ藤子フジコは希望の星だ。

ただ、希望を持ったきっかけが占い、というのが、このときの私はまだ警戒心があった。


運命の扉が、そっと開いたとも気づかずに…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚活、はじめました。 帆高亜希 @Azul-spring

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ