第36話 よっちゃんの事情
勤務先ビルに
——まさか話を進められちゃうの?——
昨日紹介されたはいいけど、まさかのお相手の母親つきだった。
私のこと気に入ったって話だったのだけど、気に入ったのは男性本人ではなくその母親かもしれないということだった。
「突然でごめんね、
「うん…」
ご飯食べながら、昨日に関する話があるのだろうと察せられた、うちの親に連絡するとは根回しがいい。
「実はね、よっちゃんから連絡きて、今待たせてるの」
当の本人が来てるとは思わず、
「えっ!?」
驚いて聞き返してしまった。
「あの人来てるの!?」
「ああ、安心して、よっちゃんだけでおば様はいないから」
それ聞いてホッとする。
「地元だとおば様に会う危険あるから、駅前ビルのレストランにしたから」
「え、もう行く店決まってるの?」
「うん、もうすでによっちゃんも待ってるから」
連れて行かれたのは、チェーンの老舗洋食店だった。
半個室になっている座席に案内されると、すでに
「こんばんは、昨日は悪かったね」
今日の
「いえ、こちらこそ緊張してろくに会話返せなくてすみません」
やはり私のことを気に入ったというのは彼ではなく母親なんだなと確信する。
「とりあえずなにか飲み物を注文しましょう」
私たちは3人ともアルコールは頼まず、
飲み物がきてひと息ついたところで
「昨日は驚いたでしょう、うちの母親がついてきたもんだから」
「…ええ、まあ…」
「先に
この告白に対し私がなにか反応する前に
「なにそれ!」
声を荒げる。
「
「最初から言ってよー!
「いや、本当に申し訳ない…ボクも母親に突然話振られたの一昨日だったし、何せあのとおり強引な人だから」
話を振られたのが紹介の前日?なんだかどう反応していいのかわからず、固まってしまう。
「ごめんね、私がおばさん通してよっちゃんに伝言したのもいけなかったのね」
「いや、しかたないよ、うちの母親があそこまで干渉するとは知らなかったでしょう?だってボクが一人暮らしするのも許さないような人だからね」
人のこと言えないけど、なぜいい年して親元にいるのか事情がわかった、これでは結婚しても同居を強いられるのだろうな…。
「あら、
突然こっちに振られる。
「えっ?うん、大丈夫」
なにが大丈夫なんだかよくわかんなかったけど、他に返しようがない。
「君らには本当に申し訳ないと思ってる、昨日母親がついてくるのを止めなかったのって、わざとドン引きさせて断ってもらおうと考えたんだけど…」
ここで
「
そう、私は断るのが苦手な
「そーよ!ここはよっちゃんがおば様を説得してよ!つき合ってる人がいるってちゃんと伝えて…」
「いや…もう10年くらい前に母親に紹介して反対されたんだ」
「えっ、そんな長くつき合ってんの!?なんでまた反対なんてされてるの?」
ここから先は
「
「ええっ!?ダンナと子供いるって…不倫じゃん!そりゃあ反対されるわよ!」
「人の話最後まで聞いてよ、彼女は旦那からのDVにずっと耐えていて、一時期うちで匿ってたりもしたんだ、ホラ、君も知ってのとおり、ウチの母親はおせっかいな世話焼きだから」
私も一瞬目の前にいるこの男性が不倫でもしたのかと早合点したが、事情を聞いて妙に納得。
「なるほどねー!それで同情したよっちゃんに恋心芽生えたってワケね、わかりやすいわ」
「彼女がDV夫と婚姻中は関係持ってなかったんだけどね、無事別れた後につき合いはじめ、結婚考え母親に報告したら、反対されただけじゃなく、引き裂かれたんだよ」
「マジ!?引き裂かれたってなによ?」
「まぁ反対理由は相手が年上バツイチ子持ちってわかりやすい理由なんだが、ボクの知らない間に彼女に会って別れるよう説得したみたいなんだ」
「そこまでするー!?」
「一時期向こうから去って別れていたのだけどね、ボクはどうしても諦められなくて探したんだ」
——色々大変そうだな…そういう相手いるなら、何か理由つけて断ってくれたらいいのに——
そう思っていると、
「
「はい、なんでしょう?」
「厚かましいかもしれませんが、そちらからお断りしてもらえませんか?」
やはり、そうきたか…。
「ちょっとよっちゃん!なに考えてんのよ!断りたいんなら、自分で言いなさいよ!」
私がなにか答える前に
「そうしたいのは山々なんだが、キミもわかってるだろ?ウチの母親しつこいから、なぜダメなのか根掘り葉掘り訊くだろうから…あまり頑なに断ると、彼女とのことがバレるから」
確かにあの母親は色々大変そうだ、そう思ったのだけど…。
「あの、断るの別にいいんですけど、何と断れば良いのでしょう?」
話を聞く限り、
「
「自分でなんとかできるなら、とっくにそうしてるよ!うちの母親説得するのは至難の業なんだって!今彼女の娘が就職決まったばかりで、もしつき合ってるのがバレた日にゃ、なにするかわからんし!だったら、知り合いになったばかりの
穏やかそうに見える
それにしても、お相手にそんな大きな娘さんがいるなんて…。
改めて、バツイチ子持ちでも色恋話があるとこにはあるのだと、思い知らされる。
「それにしたって…」
それに対し
「あの、私からお断りしますね、
なんだかここは私が引き受けなきゃならないような気がし、
「ウソになるかもしれないけど、他に良い条件の人が現れたということにしとけば引くんじゃないかな?」
それはそれでどんな人かしつこく訊かれそうな気がしたけど、さっきからドリンクだけで腹ぺこだったので、とりあえずそうすることにした。
話は一旦落ちついたので、料理を注文した。
迷わずオムライスセットをオーダーし、おいしく頂いた。
食事代は全て
ふと、これまで男の人と食事に出かけて奢ってくれたことって少ないのでは?ということに気づいてしまった。
また婚活が不発に終わってガッカリしたけれど、今回の件は自分に落ち度はなく仕方のないことだから、すぐ次へいけるような気がした。
この後もっと大変なことになることも知らずに…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます