第35話 気に入られた!?


陽子ヨウコちゃんの幼なじみの紹介話に期待したものの、まさかの母親つきで不発に終わり…。


そう思っていたのに、翌日衝撃的な話が待っていた。



『昨日はごめんね』



と、陽子ヨウコちゃんからのメール、昨日帰宅してから散々お詫びメールがきたのにまた?と思っていたら、その続きの文面にショックを受ける。



『どうやら先方さんはミドリのことを気に入った様子』



えっ、、、なんだって!?



『私ほぼしゃべってないのに』



そう返信した。



『うん、おとなしいほうがいいんじゃないかな?おばさんいわく、よっちゃんがミドリのこと気に入った、って話だけど、実際わかんないの。あれからよっちゃんと連絡取れないし』



昨日の夜、陽子ヨウコちゃんからのメールで『よっちゃんのおばさんがちょっとお節介ってわかってたけど、あんなヤバい人だと思わなかった』という内容がきた、最近こんなんばっかな気がする。

まさか気に入られるなんて…でも、本当に本人から気に入られたの?

干渉してきそうな人が姑になるようなとこへは嫁には行きたくない。



『断りたい』



正直に伝える。



『大丈夫?ちゃんと自分から断ることできる?』



断ろうにも連絡先がわからない。

昨日 陽子ヨウコちゃんが彼に「連絡先教えてくれる?携帯の電話番号でもメールかLINEでも」と振ったとき、「ごめん、今ケータイ壊れてんだわー」と、断られたのを思い出す。

「もうこの子ったら、何年も前から携帯壊れてんのに放置してるんだから!」と、長谷岡ハセオカ夫人が苛立っていたのもついでに思い出す。


普通に社会人として壊れた携帯電話を放置したままでいられるなんて、ありえる話なんだろうか?



『連絡先がわからない』



そう返すと、



『だよね…私も彼に直接つながる連絡先を知らないのよ。私からおばさん通して断ってもいいけど…あのおばさんの性格だと、直接理由を聞かないと納得しないと思う』



理由なんて言えるわけがない。

昼休みは陽子ヨウコちゃんとのメールのやり取りで終わる、今日は日曜日で早番の日だけど、昨日の件で精神的に疲れていたので、本当は休憩時間はゆっくりしたかった。



——しかたないな——



午後の業務をこなすために事務所へと戻る。

現在の勤務先であるこの複合商業ビルは、来年には建て替えの予定がある。

最近の業務内容はそれに関連することばかりで、なかなか忙しい。

すでに退店しはじめる準備をしているテナントが続々と出ているのだが、なんだかんだ閉館日までは時間があるため空き店舗だらけにするわけにはいかない。

が、閉館までの期間限定出店となるとリスクがあるのかどこも及び腰で、なかなか誘致がうまくいかないようだった。

誘致をするのは私ではなく大田原オオタワラをはじめとする営業チームなのだが、話がまとまらないピリピリ感がこちらにまで伝わってくる。


近々入店予定なのは、100円ショップの大手チェーン店にファストファッションブランド、

そして、大手コーヒーチェーン店だった。

それでもまだテナントに空きがあるため、閑散としそうな予感がする。



「あーあ、小金持ちなお年寄り最後の聖地と言われたこのビルも、こうなっちゃうとはねぇ」



小畑オバタ一美カズミがぼやく。

ここで私はいやなことに気づく。

なんだかんだパートの身分の私は、ビル建て替え期間中の保障がない。

恐らく一旦は契約が切られる形になるため失業状態になるのだが、次どうするか全く考えていなかった。

来年にはどうなっているのだろう?

どこか新たな仕事見つけ働けているのかな?

婚活がうまくいって、誰かと一緒にいるのだろうか?

全く想像ができない。

同じパート勤務の佐和子サワコはすでに次を考えているようで、イメージコンサルタントになるために資格まで取ったって話だし、婚活だって美人の彼女ならすぐ決まるだろう。


本当にこの先どうしよう…。

早く結婚相手見つけなきゃ!と焦る気持ちが募るが、逃げるようにして決めたくはない。

もしかしたら私は婚活より先に再就職活動をしたほうがいいのかもしれない。


気づけば夕方4時、早番の退勤時間だ。

今日一日長く感じた。



——疲れたな——-



とぼとぼと事務所を出、エレベーターに乗る。

途中の階からお客様が乗ってくる、ほぼ全員が年配の女性だ。

結婚となると、母親を亡くした人以外は姑が存在する。

相手選びも大変なのに、姑が避けたいタイプとなると本当に婚活って大変だ。


一番最後にエレベーターを降りてエントランスへ向かう。

今日のインフォメーションは三笠ミカサ真紀子マキコと30代前半の松井マツイ芹香セリカだ。

松井マツイ芹香セリカはもうじき結婚退職するとのこと、お相手とはマッチングアプリで知り合ったという噂だ。



——マッチングアプリかぁ、勇気あるなぁ——



実は先日一瞬マッチングアプリをダウンロードしたのは、彼女の結婚報告が影響していた。

けれども佐和子サワコが以前”ヤリモク”の男に遭遇し大変な目に遭ったのを思い出し、

慌ててアンインストールをしたのだった。



「おつかれ〜」



先に声をかけてくれたのは三笠ミカサ真紀子マキコだった。



「お疲れ様です」



続きて声をかけてきたのは、松井マツイ芹香セリカ



「お疲れ様です」



私も挨拶を返す。



「そういえばさっき、ミドリを訪ねてきた女の人いたのよ、名前はええと…なんだっけ?



三笠ミカサ真紀子マキコのこのセリフにイヤな予感、まさか長谷岡ハセオカ夫人がやってきた!?



「ハヤセヨウコさんと名乗っていましたよ」



松井マツイ芹香セリカが助け船を出すかのように教えてくれた。

良かった、長谷岡ハセオカ夫人じゃなかった。



「そうそう、そんな名前だった、やーね!すぐ忘れちゃうなんて」



三笠ミカサ真紀子マキコはそう言ってペチっと自分の額を叩いた。



「4時にあがること伝えたから、そろそろみえるんじゃないかしら?」



何の用事だろう?と思ったけど、昨日の件についてとしか考えられなかった。



「そうなんだ、ありがとう」



私はそのまま陽子ヨウコちゃんを待つことにした。



「お友達?」



今日は日曜なわりにヒマらしく、まだ仕事中であるにも関わらず三笠ミカサ真紀子マキコに話しかけられる。



「はい、小学校時代からの友人で」



「へぇ、そんなころから続いている友達がいるのね、すごいな!」



小学校のときから続いている友達がいることを伝えると、大抵驚かれる。



「あら、お見えになったわよ」



三笠ミカサ真紀子マキコの視線の先を見ると、陽子ヨウコちゃんが入ってきた、



「あっ、ミドリ!もー、さっきからずっと連絡してるのにぃ〜!」



陽子ヨウコちゃんのこのひとことで、慌ててスマホを確認する、バッテリーがなくなっていた。



「ごめん、充電なくなってたみたい」



「やっぱりね、そんなことだろうと思った」



今日の彼女はカーキ色の半袖カットソーにベージュのロングスカートで涼しそうだ、それもそのはず、今日の最高気温は30度を超える予想だったから。



「今日なんか約束してたっけ?」



昨日の今日で、覚えはなかった。



「いや、急にごめんね。ちょっと話したいことがあってね…あ、先程はどうも…」



陽子ヨウコちゃんは2人のインフォメ嬢に会釈をする。



私は三笠ミカサ真紀子マキコたちにお疲れの挨拶を告げ、陽子ヨウコちゃんと一緒にビルを出た。



——なんだろう?——-



イヤな予感しなしなかった。














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