第32話 めげずに次いこう、次!

遅番の後に一人で入った喫茶店で、小畑オバタ夫妻と鉢合わせてしまった私。

鉢合わせたとはいえ私の話題が出ていて、帰るに帰れなくなってしまっていた。


延々私にどう伝えるか話し合っていて、聞けば聞くほど落ち込んでしまったのだった。

やっと彼らが腰をあげ店を出たころには、閉店時間が迫っていた。

幸い終電には間に合ったのだけど、自宅につくころには日付けが変わってしまっていた。



——疲れた——



シャワー浴び終えてすぐ眠りについた、今夜は夢を見ずにグッスリだった。

翌日も出勤で、今日は早番。

遅番の翌日に早番なのはただでさえきついのに、昨日遅くまで職場付近にいたのは痛手だった。



——眠い…——



あくびを噛み殺しながら通勤、事務所へ入ると小畑オバタ一美カズミが待ち構えていた。



「おはよう」



「おはようございます」



昨夜偶然聞いてしまっていたので、覚悟を決める。



「単刀直入に訊くけど、どうだった?辻本ツジモトさんは?」



きた!私は用意していた回答を伝えた。



「いい人だなぁって思います。でも、趣味が合わなさそうなので、申し訳ないかなぁと…」



これが正解かどうかわかないけれど、とりあえず自分が考えた精一杯な断り文句だ。



「そう…それは残念」



喫茶店ロータスで聞いてしまった話では、小畑オバタ夫妻から見て、もしかしたら私がお相手に対しまんざらでもないのでは?ということを懸念していた。

あのときロコツにイヤな表情を見せていなかったようだ。

確かに相手のキャラは好感高く感じていたのだけど、まんざらでもなさげに見えたのは心外だった。


これで小畑オバタ一美カズミからの紹介話はおしまい、ホッと一安心…。



昼休み。

今日もお弁当を作る余裕はなく、職場近くで購入したコンビニ弁当だ。

今日はいつもの女子会メンバーとは休憩時間が被らないようだ。

黙々と弁当を食べ終え、お茶を飲みながらスマホをチェックすると、何件か連絡がきていた。

大抵ショップからのお知らせだったが、陽子ヨウコちゃんからEメールがきていた。



—-あれ?陽子ヨウコちゃんって、LINEやってない人だっけ?——



タイトルは、『そういえば』

タップして内容を確認する。



『そういえばあの後ご近所さんに会ったんだけど、そこの息子さんがまだ独身なんだって。年齢はウチらの2コ上で私の幼なじみでもあるんだけど、どう?会ってみない?』



陽子ヨウコちゃんは小学校は同じでも住んでいる町は違っていたので、彼女のご近所さんがどんな人なのかは知らなかった。

ひとつの紹介が不発に終わったばかりだったけれど、



『お願いします』



反射的に返信していた。

我ながらどうしちゃったんだろう?と思う。

今までの自分だったら、落ち込んで次に進めなくなっていたはずだから…。

これまでなにかに挫折してしまうとそこからなかなか這い上がれない自分がいたが、最近猛進している感じがする。

焦っているだけなのかもしれないが、停滞するよりはうんと良い気がした。



『先方の都合を訊いてまた連絡するね、ミドリは基本、土日祝日って休みじゃないよね?』



こないだの土曜日に陽子ヨウコちゃんに会いに行けたのは、たまたま休みだった。




『あとでシフト送るね』



『よろしく』



こうして次なる出会いへ一歩足を踏み出したのだった。



——お相手はウチらの2つ上かぁ、ってことは、早生まれの私にとって3つ上かな?それくらいなら大丈夫かな——



私はあまり年上すぎる男性は苦手だったりする。

先日はかなり緊張した。

小畑オバタ一美カズミは45才、恐らく旦那さんの友達は50代、小畑オバタ一美カズミの旦那さんは彼女を通して何度も会っていたから慣れていたけれど、辻本ツジモト氏は初対面だったため、固まってしまった。

年上男性が苦手とわかっていても紹介してもらったのは、慣れれば大丈夫かもしれないと思ったから。

けれども婚活する上で先日のようになってしまうのは、とても不利に感じた。

今度からは紹介話があってもまず年齢を確認することにしよう…。

陽子ヨウコちゃんの幼なじみなら、大丈夫って気がしてきた、今度こそうまくいくんじゃない?と、淡い期待をいだく。


ダメもとで声をかけてみて本当に良かったなと思った。


まだお昼休憩は終わっていなかったけれど、

早めに食堂を出て事務所へと戻る。

自分のデスク横にかけたバッグからスケジュール帳を取り出す。

いまだにスマホ使いこなせず、スケジュール帳を使っていたりする。

早速今月の休みの日を陽子ヨウコちゃんに送信した、LINEではないから既読もつかないため気になるが、きっと早いとこ返信してくれるだろう。


最近よくないことばかり続いたけれど、めげずにいられる自分が我ながら信じられない。

ここで諦めたら後がないと心のどこかで感じているから、がんばれるだけなのかもしれない。


その日の午後は午前中の疲労感はどこへやら、すっきりしたような気持ちで仕事をこなせたのだった。













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