第31話 ドッジボールの夢の後で
「トロくせーんだよ!」
久々に小学生に戻る夢を見た、よりによって
場面は小学校の校庭、ドッジボールをしていた。
私はドンくさいほうだったが、なぜだかドッジボールの球は
「
全部、
——これは夢だ——
夢の中でわかっていたが、今日に限ってなかなか目が覚めない。
「うりゃあああっ、オマエみたいなヤツなんて結婚できるわけねーんだ!」
「ッッ!」
当たりそうになったところで目が覚めた。
またドッジボールの夢を見てしまった、
どうにかしたいことがあってもどかしいときや焦っているとき、必ずといっていいくらい見る夢な気がする。
よりによって
今日は日曜日、出勤だ。
そして、久々に遅番・つまり閉館時間まで働く日、今朝見た夢のせいか憂鬱だ。
仕事中目があったタイミングで会釈くらいしようとは思ったものの、今日の仕事内容が重要事項でしかも緊急項目だったため、それどころではなくなってしまった。
気づけば早番が上がる時間がきてしまったようで、
「お先に失礼します、お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
私は思わず立ち上がった。
『あとで連絡するわね』
小声で耳元でささやく。
『はい、先日はありがとうございました』
やっと礼が伝えられた。
なんとなく、この勢いだと断りにくそうな気がしてきた、もしもあちらが私を気に入ったらどうしよう…。断ってくれたらいいのだけど…。
少しばかり憂鬱になったが、今日中に片付けなければならない案件に引き続き取りかかったため、一瞬忘れられた、ついでに今朝の夢のことも…。
やっと仕事を終えられたのは、閉館時間を30分ほどすぎていた。
基本パート勤務者は残業が禁じられていたが、
「おつかれー、ありがとうな、
このひとことで、やっと今日の業務から解放されたことを知る。
午後8時30分。
軽くデスクを片づけてから事務所を出る。
今日は荷物がないので更衣室へは寄らずにエレベーターへと直行、このまま帰宅すると10時すぎてしまうので、近場で軽く晩ごはんをとることにした。
真っ先にデリッツィアを思い浮かべたが、先日あんなことがあった後では行きづらい。
私自身印象が薄いほうなので店の人は覚えていないのかもしれないけれど、なんとなく気が進まなかった。
茶房ロータスだったらサンドイッチくらいの軽食があったことを思い出し、足を運んだ。
時短営業するよう東京都からいわれてるようだが、ロータスだけは平日は遅くまで営業していると噂を聞いたので、とりあえず行ってみる。
木の枠で縁取られたガラス戸に『営業中』の札がかかっていてホッとする。
「いらっしゃいませ、お好きなお席どうぞ」
マスターのバリトン調の落ち着きのある声を耳にし、安堵する。
彼の声は癒し効果があると誰かが言ってたな…。
朝から夢見が悪く今日一日長いんじゃないかって覚悟していたが、意外とあっという間に時間がすぎた。
私はミックスサンドイッチとウインナーコーヒーを注文した。
ホットケーキにも心惹かれたが、それが夕食なのは体によくないと思ってサンドイッチにしたのだった。
ハムサンドに卵サンドにはそれぞれ野菜が入っていて、疲れた体にはとてもおいしく感じられた。
あっという間に食べ終えて一息つきながらウインナーコーヒーを啜っていると、新たに客が入ってきた。
「いらっしゃいませ、お好きな席どうぞ」
私はボックス席に座っていたので、どんな客が入ってきたか見えなかった。
が、しばらくして男女がコーヒーを注文する声が聴こえ、それが
「久しぶりにここ来るな、良かったよ空いていて」
「さっきのお店じゃ食後のコーヒーのお値段高すぎるものね」
どうやら二人はどこかで夕食をとった後で、
ここへ来たらしかった。
「それにしてもあの子になんて伝えたらいいのかしら?まさかカンちゃんのほうから断ってくるなんて」
すぐに私のことだとわかった、この段階では『あちらから断ってくれたんだ、良かった』と思っていたのだけど…。
「つじもっちゃんもね〜、女の子ウケしない見た目だし贅沢は言わないほうなんだけどねー、今回ばかりはダメだったようだよ?」
「どうして?いい子じゃなーい」
「やっぱ趣味合わないのダメなんだってさ、一緒に酒飲めないとつまんないし、カラオケ好きのほうがいいんだとさ」
「趣味かぁ」
「いや、それだけじゃなくさ、つじもっちゃんにとっちゃ、あの子のキャラが受けつけなかったみたいだよ」
「なにそれー!」
「おとなしすぎるんだってさ、主体性がなさそうでやりにくいと。それに打てば響くような反応するタイプでもないし、悪いけどありゃ婚活難しいよ」
この言葉にガツンとやられてしまった。
やはり私ってダメなんだ…。
断ろうと思ってた人から断られ、しかも自分のマイナス面を指摘されたのが、かなりショックだった。
——でも、私だってあの人のこと生理的に受けつけないって思ったじゃない、それよかうんとマシな理由じゃない!——
そう思って自分自身を慰めようとしたけど、
今朝見た夢をまた思い出し、しばらく浮上できなかった。
「それは、はっきりあの子には伝えにくいな。まぁ、どのみち彼女は断れないタイプだから、もしカンちゃんが気に入ったら気に入ったで面倒だったんだけどね」
「最初から紹介しないほうが良かったんじゃないか?」
「そうね…でもあの子、なんか切羽詰まってるみたいだったし、カンちゃんいい人だからなんとかしたくて…」
「こればかりは縁だからしょうがないよ」
「そうね」
私、そんなに切羽詰まっているように見えたのかな?
なんか焦って婚活しているように見られていたのは恥ずかしいし、ショックだった。
ミックスサンドイッチもウインナーコーヒーもすっかり平らげてはいたのだけど、店を出るに出られなくなってしまった。
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