第30話 トラウマ?子供時代を思い出す
「キャラ的にいい人だけど、生理的に受けつけない?ダメよ、そんなのと結婚しちゃ!」
今日は土曜日、珍しく公休日だったので、小学校時代からの友人の
4年前に結婚した彼女は旦那さんとの間に子供が一人いる。
昨日から
「うん、でも昨日の私、人見知り出ちゃってだいぶ失礼だったのに、イヤな顔ひとつしなかったんだよね」
受け付けないと思うとこあっても、慣れるかもしれない。
贅沢ばかり言ってたら結婚逃すんじゃないかってのも恐怖だった。
「あのねぇ、
「アレって?….あっ…!」
アレと言われて一瞬なんのことかわからなかったが、すぐに意味がわかり顔が赤くなる。
「生理的に受けつけないタイプとセックスなんてできないでしょう?それに、相手の体臭がイヤだったんでしょう?それって、重要よ?」
委員長タイプだった
「体臭、そんな重要?」
ケアすれば良い問題なのでは?と思う。
「超重要だよ、女はね、嗅覚がうんと優れてるの。自分が好ましいと思った体臭の持ち主と結婚すると幸せになれて、良い遺伝子が残せるんだって。逆に不快な体臭だと思う人とだと、その結婚生活は不幸なものになるんだって」
初めて聞いた説だ。
「え、そうなの?」
「まぁ怪しげな説だなとは思ったけど、一理あると思う」
「ちゃんとはっきり断れる?」
そう、私は物事をはっきりと断るのが苦手だ、小学生のときから友達だった
「自信ない…」
私って、どうしてこうなんだろう?
「なんか
「…私もそう思う」
「やっぱ、アイツのせいかな?」
「アイツって?」
突然なにを言われたのかわからない。
「ホラ、
このひとことで、イヤなヤツを思い出してしまった。
「もしかして、
「そう、
久々に聞く名前のせいで、昔の思い出が一気に蘇った。
小学校入学したときから6年間同じクラスで、私の名字は
——そういえば、隣だったこともあったよな——
ぶるっと身震いする。
大概自分より後ろの席だったことが多かったので、常に後ろから突かれていた。
隣の席になると、「ゲッ、
「アイツってさ、たいしてイケメンでないのにやたら走るのだけは速かったよね〜」
「…うん…」
思い出す、小学生のうちは走るのが速い男子がヒーローで、女子にも人気がある。
一方の私は、早生まれゆえなのか、なにをするにもドンくさくて体もあまり丈夫ではなく、加えて内気な性分だったので、彼からすれば格好の餌食だったのかもしれない。
何度泣かされたかわからなかった。
「なんかさー、クラス替えあってもあなたたちずっと同じクラスで最悪だったよねー」
「まさか6年間一緒になるって、自分でも思わなかった」
「もしかしてさ、3年4年のときタイヘンだったんじゃないの?」
図星だ。
「うん、
正直に伝える。
「それはかわいそうだったね!小学校のときってさ、とにかく走るのが速くてうるさいヤツの天下だったよね〜」
そのとおり、誰しもカースト上位にいる男子には逆らえないもの、ヘタすりゃ彼のすることを支持するかのように一緒になって笑われたりマネされたりして、なかなかつらかった。
「私がね、なんかイヤだなって思ったの、
「いや、いじりでもさ、やられた本人が不愉快に感じたならいじめだと思うよ?」
「本当は私がやり返したり言い返したりできたら良かったのだけど、なんかごめんね」
「なんで
さっきまで忘れていたのに、記憶のフタが開いたかのように次々といやなことを思い出す。
給食を食べ終えるのが遅い私のデザートを取り上げたり、体操着を隠されたり、図工の時間に
「オマエのせいでアイツにしめられたじゃねーかよ!チクんじゃねーよ、あやまれっ!」
こちに非がないのにムリヤリ謝ることを強要されたり、本当に散々な目にあった。
しまいには、
「言い返せないオマエが悪いんじゃん」
なんて投げつけるように言われ、もしかして悪いことしてなくても謝ってしまうクセは、これが由来なのかも?という気さえした。
「でもさ、不思議なんだよね、
長いつき合いなだけあり、
私は2、3個くらい年上の男性ならまぁ大丈夫だが、それ以上年上になると苦手意識が芽生えてしまう。
なぜなんだろう?考えてしまう。
ここで急に
それは、小学校3・4年の時の担任だ。
当時二十代後半の男性教師で、
忘れかけていた記憶が掘り起こされる。
「うーん…強いていえば、3・4年の時の担任の影響あるかなぁ?」
「3・4年の時の
「そう、
「なにそれ!最悪じゃん!!」
「うん…
あのころを思い出す。
授業中に教科書を読むようよく指名された。
緊張して普通の声量が出ずに小声になってしまったところ、
「もっと大きな声を出そう」
強要されたり…。
それはまだ良いほうで、
「なんかそれが原因ぽいね…お父さんはどう?悪いけど、なんか怖そうな人って思い出しかないけど?」
父親のことに触れられちょっと心外だったけど、子供のころ
「あ、確かに怖いね、決して暴力をふるったりはしなかったけどね」
父は勤勉で真面目ではあるけれど寡黙で、笑っているところを見たことがなかった。
「
「そういや、そうだったね…お母さんにはいつも、お父さんは大変なお仕事してるから家にいる間は静かにしてなさいって、厳しく言われてたわ」
「そっかぁ、父親とたまたま当たった担任がそれじゃ、怖くなるのもムリないかなー?」
なんだかこじつけのような気もしたが、そうかもしれない。
さらにいえば実質女子しか集まらない短大卒で、男に免疫がなくなる材料は揃っている。
「どっちにしろ会社の先輩から紹介された人はダメじゃない?生理的に受けつけないだけじゃなく、だいぶ年上でしょう?」
「そうだけど…私より9個上だったかな…」
実際、なんて断っていいのかわからない。
でも、それ以前に、あちらが私を気に入るとは限らない、断られてしまう可能性だってある。
——いっそ、向こうから断ってくれたらいいのに——
自分で相手を見つけられないから紹介に頼るしかないのだけど、こんなんじゃ先が思いやられる気がした。
「
それは小学校時代も周りに散々言われたセリフだ。
「それはないと思うよ?」
本当にないと思う、時たま親の仇を見るかのようによく睨まれていたし、なにやら人格否定されるようなことまで言われていたので…。
「いや、アレは好きな女子にイジワルするタイプよ。その証拠にアイツ結婚したのに奥さんに捨てられたんだって」
「えっ?本当?」
思わぬ情報に驚く。
「本当、本当!アイツ馬鹿だからさ、自分の奥さん友達の前でけなすようなこと言ってしまって、嫌われたみたいよ?慰謝料もだいぶしぼられたようで、ザマアって感じだけどね」
なんとまあ…。
過去に自分をいじり倒した相手がそんな目に遭っていたとは…。
離婚したとはいえ、奥さんになった人がかわいそうな気がした。
「
いい子かどうかはともかく、本当にいい人に巡り逢いたい。
気づけばもう40歳なのに、先は長い気がした。
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