第28話 コミュ障で人見知りな私、緊張しまくる

小畑オバタ一美カズミの旦那さんとその友人が私達より遅れてやってきて、席についた。

当然のように私の目の前に今日紹介される男性が座り、緊張が走る。

良い人そうなのはわかるのだけど、昔から年上の男性は苦手だったりするから…。



「もー、こいつってばハクション大魔王ソックリでしょー?そういうボクも春風亭昇太シュンプウテイショウタで〜すっ!」



小畑オバタ一美カズミの旦那さん…清介セイスケさんはそう言って右手でぺちっと自分の額を叩いた。

その様子はおかしくてたまらなかったのだけど、昔から初対面の人が一人でもいるとどんなに面白いことがあっても笑うことができないほうだったので、こらえた。



「あれ?ウケなかった?」



清介セイスケさんは残念そう。



「あ、この子多分人見知りしてるんだとおもうわ、そうよね?」



小畑オバタ一美カズミが慌ててフォローしてくれる。



「…はい、すみません…」



申し訳ない気持ちになる。



「謝んなくっていいって!気にしないで!」



ハクション大魔王、いや、辻本ツジモト氏は気さくに笑いかけてくれた。

このひとことに私は少しホッとした。



——この人、悪くないかも——



「とりあえずなにか飲み物注文しましょう」



小畑オバタ一美カズミはそう言ってテーブルの隅に立てかけてあったタブレットを真ん中に置いた。

最近はメニューは冊子ではなくタブレットに切り替わっている飲食店が増えていて、ちょっと時代の流れについていけない気がする。



「とりあえず生ビール、ジョッキで!」



辻本ツジモト氏が口火を切ったのをきっかけに、



「ボクもそれにしよっと」「私もそうするわ」



小畑オバタ夫妻は即決、私は慌てる。



「あの、ソフトドリンクって、なにがありますか?」



私はお酒は苦手だったりする。

全くダメというほどではないがとくにビールの苦味が苦手で、お酒を注文するとしても甘い味するサワーかカクテルで、それも最近は飲まなくなっていた。



「えっ、飲まないの!?」



辻本ツジモト氏、なんとなく残念そう。



「はい、すみません」



ついつい謝ってしまう。

ここは謝るとこじゃないとわかっているのに…。

私は冷たい緑茶を注文することにした。

小畑オバタ一美カズミは手慣れた様子でタブレットに注文を打ち込み、ほどなくしてドリンクが運ばれてきた。



「とりあえずかんぱーい!」



乾杯の音頭をとったのは辻本ツジモト氏、ノリがよいタイプらしい。

緑茶を飲むためにマスクを外し、辻本ツジモト氏の体臭が鼻についた。

アルコール臭と汗の混ざったようなニオイで、この距離までにおってくるのは飲ん兵衛であることが察せられた。

瞬時、『このニオイいやだな』と思ってしまったがすぐ打ち消した、それだけで人を判断するのは良くないと思ったので…。

辻本ツジモト氏はジョッキの生ビールをゴクゴクと音を立てて一気に飲み干し、



「プハーっ!もう一杯!」



そう言ってタブレットで注文した。



「料理はどうしましょうか?」



小畑オバタ一美カズミはタブレットを見つめる。



「キミらに任せるよ」



と、清介セイスケさん。

何事も人に任せられるのは苦手だが、小畑オバタ一美カズミが一緒に選ぶなら安心だ。

枝豆に揚げ出し豆腐にお刺身盛り合わせ、串焼きをオーダーすることになった。



「あの、だし巻き卵もいいですか?あと、自家製わらび餅も」



私は思い切って自分が食べたいものを伝える、



「あ、好きだもんね、卵。甘いものにも目がないわよね」



小畑オバタ一美カズミを交えた女子会ではいつも私は卵料理とスイーツを必ず頼んでいる。

先日の太田原オオタワラの友人紹介のときはそれどころではなかったが、本当はイタリア風オムレツが食べたかったことを今になって思い出す。



「へぇ、卵好きなんだ〜、ウマイよな、卵って!甘いもんは酒飲むようになってから食わなくなったけど、久々に食ってみようかな」



辻本ツジモト氏のこの同意するような言動に好感が持てたが、テーブルの真ん中にある仕切りとして使われている透明なアクリル板に飛んだツバが付着したのに気づいてしまい、不快感を覚えてしまった。



——感じのいい人なんだけどな——



太田原オオタワラの友達とは比べ物にならない。



「あっ、紹介がまだだったわね!こちら宮坂ミヤサカミドリさん」



そういや自己紹介がまだだった。



「はじめまして、よろしくお願いします」



本当はもう少し自己をアピールするすべを学んだほうがいいんだと思う。

でも私にはこれでいっぱいいっぱいだ。



「ミヤサカミドリさん、どういう漢字かな?」



どうやら辻本ツジモト氏はコミュニケーションは上手なほうらしい、気詰まりしないですむ。



「ミヤサカのミヤは宮殿キュウデンキュウで、サカは…」



「あっ、名字じゃなく下のほうの名前の漢字訊いたつもりだったんだ、すまん」



うわ、恥ずかしい…。ここでつい反射的にすみません、って言いそうになるのをこらえる。



「ミドリは、翡翠ヒスイスイで…」



自分のミドリという名前の漢字を他人に説明するの、いつも少し難儀する。



「ええと、上が羽で下が卒業の卒です」



こう伝えると大抵の人にわかってもらえる。



「なるほどね、カンムリが羽ね、いい名前だね」



いい名前と褒められるのは嬉しいが、漢字の上の部分と表現してしまった自分が恥ずかしい。



「恐れ入ります」



とっさに普通にありがとうございますと言えず、こんな堅い言葉で返してしまう。



「そんなかしこまらなくていいよ」



辻本ツジモト氏は優しかったが、いつものように緊張してしまっている。



「あらあら、この子緊張しちゃってるみたいね」



隣に座っている小畑オバタ一美カズミが私の緊張をほぐそうと背中を撫でてくれた。



このタイミングで個室の扉をコンコンとノックする音が響き、



「失礼します、お待たせしました」



という言葉とともに料理が次々と運ばれてきた。



「ご注文いただいている自家製わらび餅ですが、今お持ちしてもよろしいでしょうか?」



「あ、すみません、食後でお願いします」



「かしこまりました」



いけない、タブレット注文だと口頭で食後にとお願いできないんだった!

些細なことなのに、とんでもないミスをしたような気分になってしまい、消えてしまいたくなる。



——ああ、もうこんな自分イヤ!——



私こんなんで本当に結婚できるんだろうか?






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