第26話 紹介話に食いつく


一夜明けて今日は土曜日、残念ながら普通に出勤だ。

佐和子サワコも私も早番で、朝顔を合わせた途端に昨日お持ち帰りした料理の話になった。



「おいしかったよね〜」「やっぱりその場でアツアツ食べたかったよね〜」「昨日の分払うね」



私は佐和子サワコが払った金額の半分である二千五百円をポチ袋に入れたものを渡す。

するとそこへ、



「昨日はごめんなさいっっっ!!」



両手を高く合わせた太田原オオタワラが割って入ってきた。



「こちらこそごめんなさいね、どーにも私、ムカムカしてきちゃって」



佐和子サワコはいつものように美しい笑顔を見せる(キラースマイルと名付けたくなった)



「いや、アレはないわ。同性のオレも聞いてて不愉快だったし…まさかアイツあそこまでヤベー奴とは思わなかった、マジですまん」



類友だったらやだなと思っていたけど、どうやら違う様子。

もし太田原オオタワラ村高ムラタカ氏みたいだったなら、きっと三笠ミカサ真紀子マキコともうまくいかないだろうな。



「あ、これ返すわ」



太田原オオタワラが五千円札を佐和子サワコに渡す。



「いいわよ、あの後店長さんが私達の分包んでくれて美味しく頂いちゃったし、途中で帰って場を悪くしちゃったし」



佐和子サワコは断って受け取ろうとしない。



「いや…あんなクソ紹介したの悪いからさ、受け取ってよ!ヤツからも金せしめてるし」



金額ばかり気にしていた吝嗇ケチそうな村高ムラタカ氏からお金を回収できたのは、すごい気がした。

それは佐和子サワコもそう思っていたようで、



「え、あの人からお金もらえたなんて驚きね」



そう言って結局太田原オオタワラから五千円札を受け取り、私にポチ袋を返却した。



「さっきからなんだか面白そうな話してんじゃん」



ここで話に割って入ってきたのは、小畑オバタ一美カズミ、ふと気づいたけど、私たちの会話は事務所内に響き渡っていた。

なんという痛手!

小畑オバタ一美カズミはコロナ前よく一緒にご飯食べに行ったメンバーのリーダー的存在で、こういった話題は見逃さないタイプだった。



「あっ、一美カズミさん…」



佐和子サワコはしまった、という表情を見せる、こういう状況は後で女子会で根掘り葉掘り訊かれるパターンだったので…。



小畑オバタさんだけでなく事務所内筒抜けだからな、朝礼始めるぞ!」



追いうちをかけるかのように、井澤イザワ部長のひとこと。

ううう…これは私にとって大きなダメージ、

その場にいた人全員に婚活しているのを知られてしまったなんて!

顔から火が出そうだった。


恥ずかしくてどうにかなりそうな私の意思とは関係なくいつものように朝礼は始まり、仕事を開始する。

今日は土曜日だったのもあり、お客様からのお問い合わせメールを確認するのに忙しかった。

おかげで午前中はあっという間に時間がすぎたように感じ、すんなりお昼休憩が取れた。


いつものように食堂へ向かい空いている席についてお弁当を広げる。

今日は朝買ってきたコンビニ弁当だ。

昨日お持ち帰りしたイタリアンは帰宅後たいらげ、その後で今日のお弁当を作る気になれず寝てしまったのだ。

朝早く起きてお弁当を作るということもできなくて、職場近くのコンビニへ久々に行ったのだった。

フタを開けたところでいきなり隣に誰かが座った、小畑オバタ一美カズミだ。



「おつかれ〜!」



「お疲れ様です」



ああ、これはもう、昨日のこと色々訊かれちゃうんだろうな…。

小畑オバタ一美カズミは自分の弁当箱を開ける。

彼女のお弁当はいつも美味しそうだ。

チラと横目で見ると、俵型のおにぎりがきれいに並び、野菜の肉巻きに卵焼きや煮物など、渋めながらも食欲をそそるような彩りだった。



「もしかして、太田原オオタワラから男紹介されたの?」



そらきた、やっぱり…。



「はい」



誤魔化しようがないので、観念する。



「今朝の会話の様子だと、うまくいかなかったみたいね」



隠してもしょうがないので、昨夜のことを軽く伝えた。

紹介され数分も経たないうちに失言だらけで女性蔑視的、メイクや服装にまでケチつけられたことをまんま伝えた。



「うわー、それないわー!」



小畑オバタ一美カズミもドン引き。



「ウチのダンナの友達でね、独身いるけど会ってみる?ただし、ビジュアルは期待しないほうがいいけど」



きた!

今までの私だったら人見知りするため断ってきたけど、結婚したくて出会いがないなら食いつくしかない。



「お願いします、私見た目気にしないんで」



実際面食いではない、自分だってこけしに似てると言われるようなビジュアルなので、贅沢は言えない。



「じゃあ、話進めるわね」



自分的には大躍進だと思う、人からの紹介話を受けるだけでなく、ここのところ『私って男運悪いのかな?』と思ってしまうようなことばかり、これまでだったらへこんで引きこもってしまうところを前へ進もうとしているのだから…。




——あっ、着てく服どうしようかな?また佐和子サワコに相談しなきゃ——



このときはまだ、希望に満ちあふれていた気がする…。








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