第22話 紹介って、どうよ?
3月になった。
勤務先のビルのエントランスに妙な貼り紙をされて以来、元カレからの嫌がらせが少し続いた。
職場側の配慮で勤務時間をずらしてもらったのもあって直接顔を合わせることはなかったのだけど、以前の退勤時間帯にビルの前でウロついていたらしく、たまたま外回りから帰ってきた
先日貼り紙をされてしまった後に「名誉毀損で訴えたら?」と
——さすが、慣れているというかなんというか…——
もちろんそんなことは言えない。
中傷メールや電話はそれぞれ上司やベテランのオペレーターさんがそれなりに対処してくれたとのことで、静かになった。
「弁護士に相談するみたいなこと伝えたらチョロいもんよ、すぐ引き下がってくれて良かったわね」
と、
そんな
例の
「なんで?タチアナさん、関係ないじゃん?」
タチアナさんはウクライナ出身のロシア人。
それが原因で妨害が発生し、クライアントを守るためにイベントが中止になったとのことだった。
ちなみに誘われていたのは、
もう婚活はしばらくいいや…と思ってはいたけれど、梅の花を観るのは楽しみだったので、少しガッカリだった。
「ごめんね、しばらくイベントは中止みたい」
「しかたないよ、あやまらなくてもいいのに」
今日は二人とも早番だったので、職場近くの喫茶店ロータスでまったりお茶していた。
「私さ、失恋しちゃったんだよね」
「ええっ」
本当に他に好きな人がいたのね!
それにしても、
「多分、
ああ、そうか、それでロシア侵攻の影響で
「彼の好きな人がさ、ウクライナ人なんだって。しかもそれがマリウポリ出身だとかで、彼女の支えになりたいからってキッパリ断られちゃった」
なんとタイムリーな!
そうは思ってもそんなこと言えるはずはなく、失恋した人に対しどう声をかけたらいいのかわからず、「そうなんだ…」しか言えなかった。
きっとすぐいい人に出逢えるよって慰めの言葉は使いたくなかった、私だったらあんまり言われたくなかったので。
「本当は落ち込んでるんだけどね、婚活は待ったなしだから、今度タチアナさんが紹介してくれる人に逢ってみるつもりなんだ」
切り替え早っ!
「え、でも、なんか侵攻の影響でストップしてるんじゃないの?」
私は素朴な疑問を口にしてみる。
「ああ、中止になったのはイベントだけね。イベントは会員以外の一般の人も募集をかけているから、アンチの人の目にも触れてしまうから」
そういえば
「私も入会しようかな」
思わずつぶやく。
色々イヤになって婚活はいいや…と思っていたはずなのに、
なんだかんだこのままお一人様でいることに不安を感じるから…。
「本当に!?確かに紹介次々あるし、他の結婚相談所みたいな圧力はないみたいだけど、ほとんど外国人だよ?日本人男性の登録はあっても、彼らの目的は外国人女性だし、それでもいいなら話しておくよ?」
そういえばそうだった、タチアナさんとこの紹介所は国際結婚を銘打っているだけあって外国人の登録が目立ち、日本人男性が登録していたとしても、私なんて見向きもされないだろう。
思わずため息が出た。
「そっかぁ、やっぱダメかな」
とくに外国人恐怖症というわけじゃないけど、元々コミュ症なとこあり、日本人相手でも緊張するのに外国人が相手なんて!と思っているので、タチアナさんの紹介所に入会するのはためらわれた。
「あ〜あ、そんなんじゃ
聞き覚えのある声が耳に入り声の主を確認すると、なんと
「わ、なによ、いつからそこにいたのよ!」
「アンタらが入店する前からずっといたよ、ここの席にね」
そう言って
「アンタら婚活中なのマジだったんだな、
私たちの選んだ座席もボックス席で、椅子はベンチ式になっていた。
「違うわ!ウチらがしてるのは婚活であって、男漁りなんかじゃないわ!」
「まぁまぁ、ムキになりなさんなって。オレの友達紹介してやろうか」
出会いがないから飛びつきたいとこだけど、
「なに、その上から目線な言い方!結構です、
「独身なのは真面目なやつばかりなんだよな〜、これがさ!オトコばかりの職場で出会いがないっつーの?真面目な上にそれじゃあ結婚も厳しいだろうなってタイプなんだがな」
真面目だとどうして結婚が厳しくなるのかなぁ?
普通の女性なら、真面目な人と結婚したいものだと思うけど…。
「ふ〜ん、男ばかりの職場ねぇ…」
彼女は日頃から相手の人柄が良くて気が合っていれば、最低限の収入があるのなら何だろうと構わないって発言をしていたけれど、実際過去の彼氏の職業を聞くとカメラマンだったりサッカー選手や脚本家、声優さんに会社経営者などなど、華やかだった。
「アンタはいいだろ、出会いに不自由しないだろうから。オレは
「アンタとはなによ!」
なんでちゃん付けで呼ばれなきゃなんないんだ…とは思ったものの、
「会ってみようかな…」
少しでもあるチャンスは逃したくない。
本当は初対面の人は緊張するし面倒だったから逃げたかったけど、どう出会えばいいのか考えつかなかったのもあり、お願いする気になる。
「えっ、マジで!?」
私の発言に
いや、最近そんなセリフばかり耳にしているような気がする。
「そう来なくっちゃな」
「ちょっと待った!
「いや…目立つアンタが参加したら、
ごもっともな指摘を受けてしまう。
ああ、そういえば私って典型的なモブだった…。
「なに言ってんの!何で私がこの年になるまで独身だと思ってるの?そりゃあ男見る目はなかったかもしれないけどね、恋愛と結婚は別だと言ってるのは、女だけの話ではないから!オマエは恋愛すると楽しいけど、結婚は違うって散々だったんだから!」
え、そうなの!?
美人でスタイル良くて性格も良い
全く男の人ってわからない、華やかさにかける地味な女には目もかけないくせに、かといって
普通が良いのかもしれないけど、その普通がよくわからなくて難しい。
「まーな、あんま目立つ女を嫁にしたくないってヤツもいるからなぁ。フツーがいいって意見多いかもな」
「なによそれー!」
これまた
「オンナだって同じだろ?ブサイクすぎはイヤなクセに、イケメンすぎても引くだろ?あ、
言われてみれば!
私はそんなメンクイなほうではないものの、あまりにもキモすぎる男の人はいやだ。
自分が望んでいるのは『普通の人』だ…。
「ちょっ、人のこと面食いみたいに言わないでよ!」
「ま、地味好きなやつ探してみるよ」
あれれ、なんだかこの話流れそう?
ちょっと残念…。
ここで
「あ、もしもし?今大丈夫?…オレ?ああ、おかげさまで元気だよ〜?」
店内で通話するとは。
チラとマスターのほうを見るも、全く気にしてないようだった。
「オマエさ〜、昔から地味なオンナがタイプだったよな?今も変わってねーの?」
なっ!
もう連絡してるのか!?
あまりのフットワークの軽さに驚いてしまう。
「うわー、ビックリだね、言った先から連絡してるし」
「そうだね…さすが営業マンなのかな」
腰が重くなかなか行動できない私にはうらやましい話だけど、なんだか疲れそうな気もする。
「オッケーだって、いつにする?」
通話を終えた
「早っ!」
「ああ、もし
「ちょっと!さっきから微妙に失礼だよね?」
「ははは、
「そりゃあそうだけど、なんかあなたの物言いって、カンにさわるのよねー」
その後ぐだぐだと二人は言い合いしていたけど、こうして
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