第15話 ストーカー予備軍!?美人はつらいよ
今日は早番だったので4時あがり、バレンタインデーということもあり、
タワマンではないけれど、ヴィンテージ感漂う素敵なマンション、最寄り駅が都内のオシャレな街として有名なとこにあるから、お高いんだろうな…。
実家がお金持ちで、
改めて住む世界がちがう人と仲良くなれた自分に驚いてしまう。
なんとなく気後れしつつ、
『はあい』
明るく澄んだ声とともに自動ドアが開く。
エントランスには背の高い観葉植物が飾られ、ホテルのロビーのようだ。
目的のフロアーに降り立ち、
インターフォンを鳴らすとすぐにドアが開いた。
「いらっしゃい」
今日の
上下ベルベット風素材のオシャレな部屋着で、上が薄いグレイッシュなピンクで下が濃いめのグレー。
こういった部屋着は普通ダサくなりがちなのに、
「お邪魔します」
ショートブーツを脱いで部屋へあがる。
勧められるままモコモコしたネイビーの客用スリッパを履く。
洗面所で手洗いとうがいを済ませ、リビングに入ってから手土産のチョコレートを渡した。
「あの、これ…」
品のあるゴールドの紙袋をおずおずと手渡す。
私ってば、なんでバレンタインデーに片思いの相手に渡すようなノリなんだろ?…って、今までそんな経験ないんだけど、このモジモジしてしまう性格をなんとかしたい…。
「わあ、ありがとう♪私の大好きなブランドのチョコ〜!」
私も彼女のようにストレートに物事表現できたら良かったのになぁ…。
「あ、私からもバレンタインのプレゼントがあるんだ〜、今コーヒー出すね」
「お構いなく」
待っている間、スマホがブルブルと震えた。
イヤな予感がして確認すると、やっぱり元カレからのメッセージだった。
――やめてよ、もう!――
読まずに削除すりゃいーのに、ついメッセンジャーを開いてしまう。
『あれ?なんで返事くれないかな?俺が結婚してんの怒っちゃった?』
いや、結婚してることそのものより、結婚してるのに元カノである私に連絡してきてんのが問題なんだけど?
なんだかアタマが痛くなってきたので、そっとメッセンジャーを閉じた。
「お待たせ〜」
タイミングよく
気づけば部屋中コーヒーの良い香りが漂っていた。
「これ、私からのバレンタイン。手作りでごめんね」
コーヒーとともに出されたのは、ナッツの入ったチョコレートのケーキ。
木のお皿に英字のペーパーナプキンがセンス良く敷かれ、その上に細長くカットされたケーキが3つ程ちょこんと乗っかってた。
手作りでごめんねだなんて…。
改めて
「久々にブラウニー焼いたの」
ブラウニーなのか、ガトーショコラだと思ってた、いまいち区別がつかない。
「いただきます」
私はマスクを外し、まずコーヒーを頂いてからブラウニーを口へ運んだ。
美味しい!
「すごく美味しい!プロ並みじゃない?」
私はスイーツが大好き、
「ありがとう、レシピ通りにつくったから、美味しくできたの」
手作りブラウニーがあまりにも美味しくてがっついていると、コーヒーを飲んでいた
「あのね、そのまま食べていていいから、話訊いてね」
来た!
きっと
「単刀直入に質問するけど、
やっぱりね。
私はブラウニーを飲み込み、コーヒーをひとくち飲んでから答えた。
「あんまりピンと来なかったかな」
彼の失礼な発言についてはとりあえず言うのをやめた、もしかしたら
え、もしかして、ホントに気に入っちゃった!?
それならしょうがない、あんまり関心できないとこもあるけれど、祝福するかな…と思っていたら、
「
と、吐き捨てるように発言。
「…なんかあったの?」
やっぱり何かしらあったのだろうな。
それにしても、
受け付けの
「まぁ、ひとことで言えば、ちょっとヤバめな人なんだよね。私のインスタ特定されちゃって、いきなりメッセンジャーきたの」
「ええっ!?」
私はビックリした、
「私バカだからさぁ、全体公開しちゃってたんだよね〜。顔出ししてないし、アカウント名も私だと想像できないもの選んだつもりだったし」
なんかSNS怖い。
「単に挨拶とかだけなら良かったんだけどさー、いきなりプロポーズされたからビックリしちゃったのよ」
「はぁ?マジで!?」
アラフォーにもなって『マジ』ってコトバは使わないようにしていたのだけど、あまりのことに思わず口をついて出てしまった。
予想をはるかに上回っていた…。
「いきなりずっと好きでした、結婚してください、なんてメッセージ送ってくるんだもん、ビックリしちゃったわ。実際に会ってまだ2回なのに」
これまたすごいな、モデル時代からファンだったとはいえ、知り合いになって交際もしていないのにプロポーズなんてするかな?
「どうやってインスタ特定できたのかなぁ?」
素朴な疑問だ。
私のフェイスブックみたく顔出し&実名じゃないのに、どうやってわかったんだろう?
「それがさぁ、
ここでまた
思わずコーヒーを吹きそうになる。
私のフェイスブックが元カレにバレたのも、彼女が作成したろくでもない動画がきっかけだったりする。
「コロナ前の最後の女子会をインスタにあげてたんだよね、ウチらが映ったのはアップしてないんだけど、手元がバッチリ映っちゃってたんだよね〜!
「なにそれ、ヤバっ!」
またアラフォーになってから使わないように気をつけていたセリフを吐いてしまった、あの動画がここまで影響与えるなんて…。
「即ブロックしてメッセンジャーはスルーしたんだけどね、さっき職場から連絡あったの」
あ、もしかしてもう受け付けにやって来たこと知ったのかな?
「私しばらく受け付けやらないことになっちゃった」
「ええっ!?」
なんかさっきから衝撃的な話ばかり聞かされている。
「代わりに
これは驚きの展開!
「
「うん、そう…」
「って、彼女受け付けできるの?」
インフォメーションの受け付け業務はある程度の研修期間が必要で、誰もができるものではないような…?
「ああ、それね、実は
それは初耳!
「え、そうなんだ〜!」
「彼女もストーカー被害に遭って急遽受け付け業務をやめたの、私はいわば後釜なんだよね」
知らなかった…。
既婚者だけど、ストーカーされるのもムリはないなと思った。
「過去にストーカーされてたんなら、またその人が現れたらどうすんの?」
受け付け業務を経験者と交代するのはいいアイデアと思ったけど、過去にストーカー被害に遭ってるなら意味がないような…。
「私もそう思ったんだけどね、なんか彼女をストーカーした男って別の事件で逮捕されていて、今出られないんだって」
これまたスゴい話!
「マジで!?一体何やらかしたの?!」
また『マジ』というセリフが口をついで出てしまった。
「渋谷だか新宿だかで通り魔事件起こしたんだって。
「怖っっ!!」
なんだかますます人が怖くなり、婚活やめたくなってきた…。
「なんかさ、イヤんなるよね。ターニャんとこへも私の住所教えろって、しつこかったみたいだし…」
まるでストーカー予備軍だ。
「そんな人に見えなかったのにね」
「うん、本当に色々と衝撃的すぎて疲れちゃったわ」
そりゃあそうだろうな、婚活ドライブでペアになった男に拉致られるし、思ってもいなかった人物からしつこくはされるし…。
「ところで私に訊いてもらいたい話あるって、なぁに?」
そういえば私も元カレが意味不明に接触してきたんだった…。
元カレとの間に起きたことを
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