第16話 元カレはヘンタイ!?私の黒歴史

佐和子サワコから沼津ヌマヅ氏の件や三笠ミカサ真紀子マキコの衝撃的な過去を聞かされついでに、自分の人に言えないような体験を打ち明けることになった私。



「ぁ…」



緊張でもしたのか、声がかすれてしまった。



「あ、ごめんね、コーヒー全部飲んでたのに気づかなかった、おかわりいる?それともなにか他のものがいい?」



空になったコーヒーカップを見た佐和子サワコが慌てた。



「大丈夫、ありがとう」



とくに喉が乾いていた訳でもなかったので、断った。



「気を使わせちゃってごめんね、これから話すこと、まだ誰にも言ってないんだ」



友達がいない訳じゃない、でも、子供のころや学生時代から知っているような長年付き合いのある間柄には、かえって打ち明けられなかった。



「話したくないならムリしなくてもいいよ」



いや、むしろ誰かに聞いてもらいたい。

佐和子サワコは社会人になってから仲良くなった友達だから、かえって話せる気がした。



「あのね、元カレがね、突然接触してきたの」



どこから何を話そうか迷ったけれど、とりあえず今起きていることから伝え始めた。

佐和子サワコは目を丸くし、驚いたような表情を見せた。



「なんかミドリの恋バナ、初めて聞くかも………って、ごめん、口を挟んで。続けて」



アラフォー女二人が恋バナするのって傍目にはイタいんだろうな、けど、私たち独身だし、恋バナという程ときめくような甘い話ではなかった。



「ずっと放置してたフェイスブックで接触してきたんだよね、私、本名登録で微妙に顔出しして全体公開しちゃってたから」



「うわ、ミドリはフェイスブックだったか、なんかSNS気をつけなきゃねー」



本当にうかつすぎた。



「初めてのひとなんだけど、ぶっちゃけキモいから思い出したくなかったんだよね」



私は思い切って核心に触れることを語り出した、正直言って初めての恋愛でトラウマになっているのなんとかしたいっての、あるかもしれない。



「だいぶ昔にパン工場のバイトで知り合った人だったの」



少し前までは元カレのこと思い出すだけで過呼吸起こしてた、今は大丈夫になってきたからこうして話せるようになったのかもしれないな…。

佐和子サワコは大きな目を見開いた。




「そうなんだ」



元婚約者にDV受けた挙げ句、浮気された佐和子サワコに比べりゃたいしたことないかもしれないけれど、私にとっては忌まわしいことだ。



「私にとって初めの相手だったし、元カレもそれわかってて、最初は優しくしてくれたんだけどね」



ああっ、こんなこと人に話すなんて!

こういうネタのガールズトークはいつも聞き役で話したことなかったから、顔が赤くなりそうな勢いだ。

一般に色恋沙汰がお盛んになる年頃のときだって、自分から人に話したことはなかったのに…(って、そもそも自分に浮いた話が全くなかったのもあるが)

佐和子サワコは口を挟まず黙って聞いていてくれている。



「私ってさ、カラダ小さいし童顔でしょう?なんか元カレ、ロリのがあったみたいで、慣れてくうちにセーラー服を着せられるコスプレさせられるようになっちゃって…しまいにはスクール水着まで着せられそうになったの」



思い切ってぶっちゃけてみたけど、めっちゃ恥ずかしすぎる!


だいたい学生時代の友達って、おとなしいか真面目系ばかりで、彼氏ができてもセックスを話題にするようなコはいなかった。

今の勤務先の女子会メンバーの中で既婚者の小畑オバタ一美カズミ三笠ミカサ真紀子マキコがたまにそれらしいこと話をしていたけど、その話題には乗れなかった。

なんか、恥ずかしくて佐和子サワコと視線を合わせられない…。



「ないわ〜、そりゃないわ〜…正直言うとさ、私も昔つき合ってた彼氏とコスプレやったことあるけどさ、さすがにスクール水着は引くわね〜」



佐和子サワコもコスプレ経験あるのか…。

まさか、それが普通じゃないよね!?

私は恥ずかしかったけど、別れにつながったある出来事を打ち明けることにした。



「私が拒否ったからなのかな、元カレ、出会い系で中学生とやり取りしていたのを知っちゃったんだよね」



正直思い出したくなかった、けれどもどういうタイミングなのか、元カレから連絡がきてしまい、イヤでも記憶がよみがえってしまった。



「マジで!?なにそれ、ヤバすぎ!!」



佐和子サワコが声を荒げた、多分彼女も日頃『マジ』とか『ヤバい』というワードを使わないようにしている様子、こういった感じのセリフが出たのを初めて聞いた気がする。



「うん、やり取りだけじゃなく、実際逢ってたみたいなんだよね。はっきり言って浮気どころか犯罪だし、すごくショックだったんだよね」



元カレとの忌まわしい出来事を人に話す日がくるなんて。

……「ごめん、オレやっぱホンモノの若い女の子のがいい」、こんなようなこと言われ、あっちから別れ告げられたんだっけ……。

自分から別れ話ができなかったことも私の中では黒歴史だった。



「それはひどいね、別れて正解だよ!ってか、ありえなーい!何それ!」



佐和子サワコは大きな目をさらに見開き、嫌悪感を顕にした表情となった。

彼女のこんな表情かおは初めて見る。



「うん、しかも私から別れ話する前にフラれちゃったし、ほんっとに思い出したくなかったの、なのに…」



私はスマホを取り出した、元カレをブロックしたいのだけど、やり方がわからないから教えてもらうつもりだ。



「うっ…」



メッセンジャーを開いた途端、へんな声を出してしまった。



「どうしたの?」



あれから元カレからのメッセージが怒涛のように届いていたとは、気がつかなかった(だいぶ前に通知しないように設定してもらっていた)



奴からのメッセージは想像以上にヤバい。



『俺、離婚するんだ。もちろん君の為だよ』



えっ、なに考えてんの!?

私の為に離婚だなんて、冗談でもやめてもらいたい。



『やっぱり俺にはミドリしかいない、いくつになっても変わらない君は理想そのもの』



なに言ってんだ、コイツ…。

その後の文章もアタマの痛くなるような内容で、気分が悪くなってきた。



「どうしたの?顔色悪いよ?」



佐和子サワコに心配されてしまう。



「見てよコレ、気持ち悪すぎ!ブロックのやり方教えてもらおうと開いたら、こんな長文メッセージ送りつけてきた」



もちろん全部は読まなかった。

佐和子サワコは私からスマホを受け取り、ざっと目を通した。



「うわ〜、なんだこれは〜!後半なんかポエムってるし」



「えっ、ポエム?」



「うん、君のあどけなさを残したかわいらしい顔、学生と言っても通用するビジュアルは、理想そのもの。俺のこれからの人生を君に捧げるよ……って、なんかウチの勤務先こっそり覗き来たっぽいよ!?」



「ええっ!?やだ!」



いつの間に、怖すぎるんだけど!

私はパート勤務でわりと早上がりなシフトもあるから、そのとき見つけられたのかもしれない。



「なんかこわ〜!沼津ヌマヅ氏以上にヤバめじゃない?」



いやいや、沼津ヌマヅ氏もなかなかだと思うけど?

とりあえず、ブロックのやり方を教わる。



「メッセンジャーからはね、右上にあるビックリマークをクリックしてね、スクロールしてくと下のほうにブロックの項目があるでしょう?」



なるほど…。

私はフェイスブックをほぼ放置しているので、ヘタなとこ触るどうなるかわからないため、とりあえず予想をつけていじることは全くしない。

佐和子サワコがいて良かった。



「でも勤務先知られちゃってんのはマズいね〜」



それは本当に予想外だった、どうやって特定したのかなぁ?



「もしかしたらさ、白間シロマ百合江ユリエの動画かなぁ?」



「えっ、なんで!?」



それはさすがに考えすぎじゃないかって気がしたけど、



「元Jリーガーと婚約していた元読者モデルの私が働いている商業ビルって、ネットで検索すればすぐ出るみたいなのよ」



そういえばそうだった、うちのビルのオーナーが集客数を増やすためにあえて彼女を雇って宣伝しているフシがあるって、聞いたことあった…。



「なんかごめんねぇ」



「そんな…、佐和子サワコが謝ることじゃないって」



非正規で今後も独りで生きていくことに不安を覚え婚活をはじめたものの、出だしからいきなりこれでは正直いやになる。

どうしよう、もう婚活なんてやめて今まで通りのようにやっていこうかな?と、挫けそうになる。



「なんかさ、ミドリも私もしょっぱなからこれじゃ、この先不安になるよね〜!でもさ、人生悪いことばかりじゃないからさ、次いこうね!」



佐和子サワコはどこまでもポジティブで、うらやましいほどだ。

なんとなくホッとし、小学校時代からの友達である陽子ヨウコちゃんにもう一度相談してみることにした。













































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