第11話 佐和子が大ピンチ!?雨の中のカーチェイス!

予定では、佐和子サワコ小柴コシバ氏の車に置いていった荷物…タチアナさんに渡すものを取りに戻り、

タチアナさんの車で一緒に帰ることになっていた。


かなり雨足が強かったので、私たちはまだ車へは戻らずにサービスエリアの出入り口付近で待機していた。


佐和子サワコは荷物を取るのに車の中へと入っていった、そういえばカバン以外にもうひとつ紙袋のようなものを持っていたなと思い出す。

小柴コシバ氏の車は全体が真っ黒で、いかにもヤンチャ系(ってマイルドな表現だけど)な人達が好んで乗り回すようなイメージのある車種だ。


と、ここで、急に小柴コシバ氏が車を発進させた!



「うわっ!」



真っ先に声を挙げたのは、山本ヤマモト氏。



「なんだ、いきなり発進させるかな〜」



ドジな人を見つけたかのように笑っていたけれど、次の瞬間窓から顔を出した佐和子サワコが叫んでいるように見えた、多分目一杯声をあげているのだろうけど、小柴コシバ氏の車の爆音にかき消されてなにを言ってるのか聞こえない。

もしかしたら、助けてと叫んでいるのかもしれない…。



「あれ、ヤバいですっ!」



とっさに私は叫んだ、もしかしたら小柴コシバ氏は強引に佐和子サワコを送るつもりなのでは?と思いもしたけれど、それ以上のことが起きるようなイヤな予感がした。

他のメンバーの大半が呆然としていたが、やがてタチアナさんがスマホをカバンから取り出してどこかへ連絡しはじめた。



「ダメですね、つながらない」



小柴コシバ氏に連絡したのか、それとも佐和子サワコに連絡したのか?

先程まで始終にこやかだったのが、困惑した表情へと変わっていった。



「警察に連絡したほうがいいのでは?」



こう提案したのは、山本ヤマモト氏。

ここで先程から空気のようだった沼津ヌマヅ氏が、



「警察に通報したのでは間に合わないかもしれません、僕が追いかけます!…宮坂ミヤサカさん、行きましょう!」



こう申し出たので、一同驚いた。

見た目からしておとなしそうなこの男性が瞬時にこのような決断をするとは、誰もが思わなかったんだろうな…。

私もこの時ばかりは珍しく後先考えずに、



「はい」



と即答し、傘もささずに駐車場へ小走りし、沼津ヌマヅ氏の車へと滑り込んだ。

タチアナさん含む他のメンバーがなにか言っていたような気もしたけれど、とにかく急がなきゃという気持ちを優先させた。



助手席に滑り込んでから真っ先にスマホを確認した、予想通り位置情報知らせてくれていたのだけど、うまく説明ができない。



「あの、これ…」



沼津ヌマヅ氏に画面を見せたが、



「運転しながら見ることできないから、説明してくれたら有り難い」



と、言われてしまう。



――どうしよう――



私も少しパニクっていたので、とっさにどうしたらいいのかわからなくて、困ってしまった。

私は地図を読むのが得意じゃない。



――あ、そういえば…――




何気なくスマホの音量をあげてみる、



『左方向へまっすぐです』



良かった!予想通りナビしてくれた。



「Mapかな?そういえば、音声ナビ機能があったんだね、使ったことないや」



沼津ヌマヅ氏が私に向かってにっこり笑みかけたので、少しドキッとした。

ずっと無表情な人だと思っていたから…。



「追いかけて、彼女を助けよう」



なんか、この人いいかも!

誰かがピンチになったときに咄嗟に動けるのってなんて頼もしいのだろう!



「完全にスピード違反だな…申し訳ない、清川キヨカワさん助けるためにこちらもスピードあげます!」



こちらが返答する暇もなく沼津ヌマヅ氏は一気にスピードをあげた。

このときの私はスピード違反で捕まったらどうしようとは全く頭に思い浮かばず、ひたすら佐和子サワコの無事を願っていた。

思っていたより交通量が少なかったのは幸いだったけど、雨が降る中での猛スピードドライブは後から考えたら顔面蒼白ものだった。

ナビが次の信号を直進することを告げた、遠目でも小柴コシバ氏の車が赤信号で停車するタイミングだとわかったので追いつきそうだとホッとしたそのとき、



「えっ、、やだ!信号無視!?」



ぶっちぎりで信号無視をしたので、愕然とした。

チラと運転席を見る。



「ったく!とんでもないヤツだ!」



沼津ヌマヅ氏の表情は怒りに燃えていた。



――信号無視したらイヤだけど、佐和子サワコを一刻も早く助けたいし…――



けれども幸い自分たちが信号に当たるころには青に変わったので、停車することなく追いかけ続けられた。

小柴コシバ氏との車間距離はなかなか縮まらなかったのだけど、この信号のおかげでやっと車の中が見える距離に近づいた。

佐和子サワコは後部座席にいて、こちらを見ていた。

多分車が発進したばっかの時は、助手席にいたのだろうな…。

あんな猛スピードの中でどうやって後部座席へ移動したのか不思議だった、ケガをしてなきゃいいのだけど…。

ここで小柴コシバ氏の車がさらにスピードをあげたので、佐和子サワコはバランスを崩し座席に倒れ込んだようで姿が見えなくなった。



「こっちが追いかけているのに気がついたな!しかたない、宮坂ミヤサカさん、しっかり捕まって!」



「はいっ」



私は即答し、アシストグリップに捕まった、生まれてこのかた車に乗ってこういうものに捕まったことなんてなかった…。

車間距離は縮まったり広がったりの繰り返しで、そのうち通報されるんじゃないかと思うほどカーチェイスを繰り広げているように感じられた。

私は左手でアシストグリップに捕まりながら右手でスマホを見ていた、本当はいつも左手でスマホを操作しているから右手だと使いづらかったのだけど、助手席は左側にあって必然的に捕まるのも左だったからしかたない。

佐和子サワコからはとくに連絡はなくGPS発信のみなので、こちらも定期的に電源落ちないようクリックするだけだからまだ良かった。


私は日頃あまり車で遠出しないからわからないのだけど、小柴コシバ氏の車が佐和子サワコの家の方向へ向かっていないのは明らかだった。



――どこへ行くつもりだろう――



もしかしたら小柴コシバ氏の自宅かな?なんて思ったけど、今日が初対面の人間がどこに住んでいるかなんてわからない。

なんてあれこれ考えめぐらせてるうちに、ナビはとんでもない所を示していた。



「あっ、、、!」



私は思わず声をあげた。



「どうした!?」



「車はラブホに停車しました!」



言った後で急に恥ずかしくなったがしかたない、佐和子サワコを助けるためだから…。



「あの野郎!」



沼津ヌマヅ氏は吐き捨てるようにつぶやき、車のスピードをさらにあげた。



「わわっ」



私は思わず声をあげた、今の振動で後頭部がヘッドレストにぶつかた。

たいして痛くはなかったのだけど、少しショックだった。




――こんなの佐和子サワコのピンチに比べたら、なんてことない!――



沼津ヌマヅ氏の車は小柴コシバ氏が入って行ったと思われるラブホテルの駐車場へと入って行った、このときの私は佐和子サワコを助けることで頭がいっぱいで気にしていられなかったのだけど、あまりよく知らない異性と車でこういう所へ入るのは、

後にも先にもこの時だけだった…。




















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