第10話 波乱の婚活ドライブ
ミスターヌーボー氏の名前は
あまりにも緊張しすぎて、
勝手知った相手なら沈黙は苦痛にはならないのだけど、こういう関係性の場合どうしたらいいかわからず、なんだか気まずかった。
集合場所からサービスエリアまでそう時間はかからなかったのだけど、私には数時間にも感じた。
サービスエリア内にあるフードコートでお昼ご飯を食べることになったのだけど、
あいにく緊張しすぎてお腹が空いていなかった。
「なにを食べますか?」
「すみません…私、あんまりお腹が空いていなくて…」
正直に答える。
すると
「少しでも食べたほうがいいですよ」
一緒に食事をしたら顔が見える…ってことは、私の顔も見られてしまうのか!
うわぁ、どーせ顔見られないと思ってメイクしてきてないよー!と思ったら、
後ろから
「ごはん食べる前にちょっとトイレ行かない?」
これがなんだか私にとって助け船に感じ、
「あ、そうだね……あ、
とりあえず
とくに尿意を感じていたわけではなかったけれど、行けば行ったで用は足せるもので、
「いやあ〜、参ったわ〜」
「え、どうしたの?」
「私と一緒にドライブしてる人がさ〜、馴れ馴れしいのよ!私のこといきなり
「えっ、それはイヤだね、ありえないわ…」
なんとなく、予想していた通り。
「お昼ご飯は高齢の親に近いうち会うからご一緒できない…って断ったのに、オレも同じだからと言われて、まるで通用しないのよ〜」
「うわ、それはタイヘンだね」
高齢の親と同居している私も他人と一緒に飲食するのは基本NGなんだけど、食欲がないから何とか逃げられそう…とはいえ、喉が乾いてはいるので、不可避になりそう…。
「でね、お願いがあるんだけど…私たちと一緒にお昼食べてくれない?まぁ私なんだか食べる気しないから、飲み物だけになるんだけど…」
「いいよ、実は私もね、食欲なくて飲み物だけにしようと思ってたんだ」
「ああ、良かった〜」
私はとりあえずもう一度手をい、うがいするためにマスクを外した。
すると
「ちょっと〜、
リップもなにも、軽くアイシャドウを塗って眉を整えマスカラ塗る意外は、ろくにメイクはして来なかった…。
コロナが流行してからというもの、ファンデーションにチークにリップはすっかりご無沙汰だ。
「
いいよと言われても…。
「ん、マスクにつくのイヤで」
「今時はマスクにつきにくいアイテムもたくさん出てるよー!あ、ちょっと待って」
そう言って
今日
「あった」
「今流行りのケイトのリップモンスターだよ、これまだ開封していないから」
そう言って箱ごと私に差し出す。
「えっ、いいよ、悪いから…」
「うん、いいの、私も同じ色持っていたのが抽選で当たってダブっちゃったから」
抽選で何かの商品が当たる人を初めて見た気がする…。
それでも遠慮して断ろうとしたら、
「ピンクバナナって色味なんだけど…合うかなぁ?自分のパーソナルカラー、把握してる?」
「パーソナルカラーって…ブルベとかイエベとかいうやつ?」
「そう、それ!私はブルーベースの夏色なんだけと、これどうかな?イエローベースの春だとギリ使えるんだけど」
残念ながら私そこまで把握していない…。
「わかんないや…自分では肌黄色いかな?って、思っているのだけど…」
「これ、使って」
「…ありがとう」
なんとなく断りづらくなり、せっかくなので塗ってみた。
色は思いの外似合っていた。
「良かった〜、ピッタリ〜♪」
やはり
「ね、
気に入るもなにも…。出会ってまだ2回目だから、よくわからないのだけど…。
「んー、別にイヤじゃないけれど、全然しゃべんない人だなぁって。私もだけどね…でも、私にはあれくらいがちょうどいいのかなぁ?」
ポロっと出たこのコトバに自分でも驚いてしまった、“あれくらいがちょうどいい”は、なんか失礼すぎるなと…。
なんでこんなセリフが出たんだ!?
でも
「そろそろ戻ろうか…」
私たちはなんとなく重たい足取りでトイレを後にした。
フードコート内は人がまばらで、
うちら婚活ドライブのメンバーと他にチラホラといるくらいで、コロナ禍による外出制限だけでなく雨のせいもあるような気がした。
「
ツンツンに立てた短い髪は金髪で、中途半端に陽に焼けた肌、そして黒いウレタンマスク…。
別に黒い色のマスクが悪いわけじゃないが、
こういういかにもな人物がこういう色でしかもウレタンというのが、胡散臭さを増長させているように見えた。
服装は黒い革ジャンに赤いシャツを着ていて、袖をまくればタトゥーのひとつやふたつ出てきそうな雰囲気だ。
私は
――先にどうぞと言ったのにな…でも、なんかいいな――
胡散臭い男に比べて
「すみません、お待たせしちゃって。あの、あちらに私の友人がいるんですが、一緒でいいですか?」
この提案に
「いいですよ」
即答してくれた。
――良かった――
食欲のなかった
温かいミルクティーを飲むことにした。
友達同士二人一緒に同じもの・しかも食べたくないからと言ってドリンクだけ…なんてまるで中学生女子みたいだが、この際しかたない。
二人とも本当に食欲がなかったし、たまたまミルクティー気分だったのだから…。
「あれ〜?
胡散臭い男…
会話の内容は、“いかに自分がすごい”か…。
――うわっ、イヤだなぁ…――
自分語りを大袈裟にするようなタイプは苦手だ、それにあんな大声でまくし立てるように話すなんて、目の前に座ってはいないとはいえ、ツバ飛んできそう。
そういえば彼女のイヤな表情って見たことないなぁ…。
黙々と海鮮丼を食べていて表情をうかがうことはできなかった。
私は
「盛り上がってますね〜」
ここへタチアナさんが現れた、
盛り上がってなんかないわよ!と言いたくなるほど逃げ出したい状態なのに…。
チラと
「ちょっと残念なお知らせです、このあと雨がもっとひどくなるという予報が出ました、このままだとキケンだというので、今日はこのまま解散しましょう」
え、そんなに雨すごいの!?と外を確認するまでもなく、かなり激しい雨音が建物を叩きつけていたことに今さら気づく。
「えっ、このまま解散!?」
「そうですね、車がない女性の皆さん、送ってもらいましょ〜!」
タチアナさんのこの提案に
「ちょっ、、ターニャ!えっと、色々話したいことあるから、一緒に帰らない?」
慌てた
人見知りの私のこと気遣う余裕もなく、自分の身を守ることにしたのだろうな。
本当はこの状況なら
タチアナさんが一緒なら安心だ、私は
「いいですよ〜」
タチアナさんもなにかを察したようで快諾したので、私までホッとした。
「あっ、ちょっと待ってね、渡すもの車へ置いて来ちゃったから、取りに行くね」
そう言って
これがこの後とんでもない展開になるとは、このとき誰も予想ができなかった。
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