第9話 集合場所
こんな天気の日に出かけるなんてイヤだなぁ…。
ドタキャンするわけにもいかず、重い腰を上げて集合場所である駅の改札口に到着した途端、聞き覚えのある声が耳に入った。
「おはよ〜」
なんかこの展開、合コン料理教室の時と同じだな…。
すでに
今日の
先日の料理教室の時は薄紫色したマスクで、一体彼女は何色カラーマスクを持っているのか、訊いてみたくなる。
服装は、ピンクベージュ色のセンタープレスの入ったパンツスタイルにふわふわした白いざっくりしたニット、ファーのついたクリーム色のフードつきショートコートを羽織って髪はひとつに束ねるという格好で、スカート姿ではない彼女を見るのは初めてで、新鮮な感じがした。
「おはよう…」
対する私は相変わらず白い不織布のプリーツマスクで、服装はダークブラウンのコーデュロイのパンツにマスタードイエローのタートルネックセーター、ベージュのダウンジャケットを羽織るという何だかカジュアルすぎるスタイルだ。
自分でもわかっている、男ウケする洋服をチョイスしてないと…。
でも、好き嫌い以前に甘めのデザインや色味は何だか気が引けて買えないのだ。
「ん?どうしたの?」
私があまりにも
「ううん、なんでもない…」
相変わらずオシャレだなと思って見とれていたの、くらい言えたら良かったかな…。
今日の日程は最寄りの駅に集合してからカップルが決められ(いきなりだ、緊張する)、そのままサービスエリアへ寄ってから
相模湖へ向かうとの事。
「本当は富士山方面のドライブって言うから楽しみにしてたんだけどね〜、ま、しかたないよねー」
先日誘われていた時点では富士山方面と聞かされていたけど、昨日の夜になって突然
『なんか行き先が突然相模湖になって待ち合わせ場所も変わったの』
と、
私的には待ち合わせ場所が富士山行く時より近い所になったから助かったけど、
都内住みの
『どーしよー、そっち方面行ったことがないんだけど』
結局、
と、ここで私は辺りを見回し、幹事が見当たらないことに気がついた。
「あれ?タチアナさんは?」
私のこの問いかけに、
「ああ、彼女ギリギリなんじゃないかな〜?うちら早く着きすぎたと思う」
早く着きすぎたとはいえ、集合時間の10分前…。
他のメンバーも集まっているのだろうか?と不安になっていたところ、後ろから声をかけられた。
「こんにちはー、
振り向くと、推定年齢60代くらいの男性、
背が高く痩せ型、白髪混じりの髪を七三わけにし黒いフレームのメガネで大学教授といった雰囲気の男性で、どこかで見覚えがあるような気がした。
「あっ、
「あ、どうも初めまして、私は
男性にいきなり自己紹介をされ名刺を手渡されたので、キョドりそうになる。
「あっ、どうも、、、、、私、
「
ロシア関連のイベント…。世の中にそういうのがあるとは、知らなかった。
もしかしてこのおじさん、
「今日イリーナさん、来るの?」
この問いかけで
「の、はずだけどねぇ…彼女、気まぐれだから」
イリーナさん…こないだの合コン料理に来てたのかな?と思い出そうとしていたら、
元気いっぱいな声が耳に入ってきた。
「こんにちは〜!皆さん元気でしたか〜?」
幹事のタチアナさんが現れた、きれいな金髪を三つ編みポニーテールにし、ピンクの花柄の布マスク、そしてところどころに飾りのついたブルーグレーのオシャレなニットにロイヤルブルーのコートを羽織り、
ブラックジーンズにファーのついた黒ショートブーツを履いていて、とてもステキだった。
私だったら絶対に思いつかないコーディネートだろうな…。
「今日来てくれてありがとうございま〜す、ミドリさーん!」
ち、近い!
タチアナさんの顔が思いっ切り近くまできた、間近で見ても美しくその青い瞳に吸い込まれそうだった。
同性の私でもこんなにドギマギするくらいだから男性陣は皆ロシア女性狙いなんだろうな、改めて今日参加したところで何もない気がしてきた…。
ふと気づくと、いつのまにか今日の参加者が集まってきていた、と言っても皆男性なのだが…。
ずっと待っていたようだけど、ちっとも気がつかなかった。
男性陣の中に一人、見覚えのある顔を見たような気がした、
「どうも…」
背が高くてヌボっとしたこの感じ、
昨年末に参加した合コン料理教室に参加していて私と一緒にナスを切った人だと思い出す。
――ミスターヌーボー、来たんだ…――
前回の合コン料理教室で、誰かに何か言われるまでボーッと突っ立っていたような人だったので、密かにつけたあだ名だ。
改めて外見を見る、はっきり言って背が高い以外これといった特徴はないと思っていたけれど、髪型は多分ゆるい天然パーマで(自ら進んでオシャレしてパーマかけるようには見えない)、やや切れ長の一重瞼だけれど鋭さはなく、服装はブルージーンズに黒のダウンジャケットというごく普通な感じで全体的にモサっとした印象だった。
――いけない、私だって人のこと言えないのに、モサっとしてるなんて思っちゃった――
「あれ?女子は私たちだけ?」
そういえば、男性陣は4〜5人ほど集まっているのに、女性がいない…。
「ああ、もう、ダメですね〜、ロシア人女性は〜!」
タチアナさんはそう言ってスマホを取り出してどこかへ連絡した。
今までに聴いたことのないような言語でまくし立てる、多分ロシア語なんだろうな…。
「ロシア人、あるあるかな」
『実はターニャの紹介所でお目当ての人いたんだけど、今日はいないみたい、なんか残念かも』
なんとなく気になって集まった男性メンバーを見回すと、
――いや、人を見た目で判断してはダメよね、でも年上すぎはイヤかなぁ…――
なんてあれこれ考えているうちに、ロシア美女軍団がやって来た。
「コンニチハ〜」「おくれちゃってスミマセ〜ン」
誰もかれも華やかで、たった今自分が考えていたことが急に恥ずかしくなった。
――私ったら!なにを身の程知らずに自分が選ぶ立場で考えていたんだろう!これじゃあ私、余っちゃう!!――
“余り者”のつらさは学生時代だけで充分だ、決して嫌われていたわけではないと思うけど、印象を与えないタイプのようで『いるのかいないのかよくわからない』と、よく言われた、クラスの人数が奇数でクラスメイトに嫌われ者でもいない限り、
必ず余ってしまうほうだった。
――ああ、あのころのトラウマがこんなタイミングでよみがえるなんて――
泣きたくなる。
小学校からの幼なじみであり友人でもある
なんてあれこれ考えごとしているうちにいつのまにかドライブメンバーが決まっていたようだ。
「どうも、よろしくお願いします」
後ろから小さな声で話しかけられ少し驚く、声の主はミスターヌーボーだった。
「あ、どうも…」
チラと
――うわぁ、怖そう!大丈夫かな?――
人のこと心配している場合じゃない、
ほぼ初対面の男性と車の中で二人きり…という恐怖とこれから向き合わなきゃならない。
――緊張するなぁ…――
ミスターヌーボー氏はスタスタと自分の車のほうへと歩いて行った、私は慌ててついて行くしかなかった。
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