第8話 焦り

怒涛のような合コン料理教室からあっという間に一ヶ月がすぎた。

そうこうしているうちに年が明け、気がついたら2月になってしまっていた。

あれ以来、佐和子サワコから“クリスマス合コン料理教室”やら“カウントダウンパーティー”とか、色々なイベントに誘われたりもしたのだけど、全部断ってしまっていた。

元々私は休みのたびに出かけるほどタフじゃない、このコロナ禍で外出制限されて嘆く人がいても、自分的には気にならないほど…。


佐和子サワコはほぼ毎週末婚活がんばっている、タフだなぁ…。

それにしても都内商業ビル受付の仕事は土日が勝負なのに、大丈夫かなって心配になる。

日曜日だけ婚活して土曜日と祝日は出ているから大丈夫よと、佐和子サワコは言ってたけど…。

私が佐和子サワコなら休む度胸ないんだろうな…。

婚活はじめようと決心した割に実際はあの合コン料理教室に参加したのみだった。


驚いたことに佐和子サワコはタチアナさんが経営している国際結婚相談所に入会したらしい。

彼女自身色々問題あってお見合い不向きだと言ってたのに、驚きだ。

日本人と違って外国人のほうが気にしないから…と、言ってたような気がする。

私も何気に誘われたのだけど、断った。

外国人がイヤってわけじゃない。

ただでさえ日本人相手でも初めて会う人とコミュニケーション取るのは緊張するのに外国人だとなおさら、たとえ相手が日本語ペラペラだとしても、うまくいかないだろうなぁ…と、思ったからだ。

国際結婚相談所と銘打っても日本人同士のカップルもいるよと言われたけど、なんか気が乗らなかった。

本当に結婚したいなら、入会したほうが良かったのかもしれないけど…。



――どうしよう、このままじゃ私、一生 独身ひとりかもしれない――



焦るものの、どうすればいいのかわからない。

何年か前に幼なじみの陽子ヨウコちゃんが結婚したとき、旦那様の友達を紹介してもらったりしたけど、ダメだった。



――あれはつらかったな――



紹介された男性は、私よりひとつ年上で都内の企業で働いているいわゆる普通のサラリーマン、中肉中背で見た目も清潔感があり好感を持ったのだけど、連絡先を訊かれないどころか全く口もきいてくれない・目も合わせてくれないで、まるで私の存在に気づいてないかのような振る舞いに傷ついた。

私は昔から地味で目立たないほうだったから、存在すら認識されないことはよくあるのだけど、紹介の場でそういう態度されるのはさすがに悲しい。



「ごめんねー、あんなヤツだとは思わなかったわ」



あとで陽子ヨウコちゃんにものすごく謝られた、いいよ気にしなくてと答えたものの、子供のころから知った仲だから私がひそかに傷ついていたのはバレバレだ。

紹介された男性…名前忘れちゃったけど、かなり身の程知らずなレベルに理想が高いらしく、それを後で知って陽子ヨウコちゃんは憤慨し、旦那様とケンカしたみたい。それ以来、陽子ヨウコちゃんから紹介の話がきても断るようになってしまった。

過去を引きずっている場合じゃない…。

そうだ、また陽子ヨウコちゃんに紹介を頼んでみよう、彼女は昔から交友関係が広いから、何とかなるかもしれない。

そう思ってLINEの画面を開く、繋がっている人が少ないため、陽子ヨウコちゃんのアイコンはすぐに見つかる。

なんてお願いしようか出だしの文章にしばらく悩んだけれど、単刀直入に婚活を始めたことを伝えた上で紹介を頼んだ。

すぐに既読がついて、返信がきた。



『ごめんね…知り合いほとんど結婚しちゃってて、まともな独身男いないの』



えっ、そんな!!


頼みの綱が切れ、目の前が真っ暗になった感じだ。

続けてレスがきた。



『例のミドリに対して失礼な態度取った川岡カワオカまだ独身だよ笑』

『でも、アレはないよね〜、未だに20代でスタイル良くて美人で性格いい嫁さん欲しいなんて言ってるし….』



紹介されるのが軽いトラウマの原因になった人の名前、川岡カワオカって言うのか…。

そうそう、彼は20代とでなきゃ結婚したくないと宣言していて、私達女性陣にドン引きされたんだっけ…。

だいたい私の年齢で独身って、自分含めまともな人間いないんじゃないかって気がしてきた…。

最後の頼みの綱がプツンと切れたような気持ちになり、絶望した。

もう結婚なんて考えないで一生独りで生きていく覚悟をしたほうがいいのかもしれない…。

そんな風にウダウダ落ち込んでいたら、

今度は佐和子サワコからLINEがきた。



『今度の日曜あいてる?バレンタインドライブ婚活というイベントがあるのだけど、参加しない?』



渡りに船!とばかりに私はすぐに食いつき、



『参加します』



即返信。

でも………。


よくよく考えたらドライブって、やっぱ車の中で男の人と二人きりになるってことだよね!?

どーしよう、やっぱりムリかも!

ごめんなさい、やはり参加できない…と断ろうと思っていたら、



『良かった〜、女性の参加者が足りなくて困ってたんだ〜、ミドリのおかげで中止にならずに済んだよ、ありがとうね』



こう返信がきてしまったので、今さら断れなくなってしまった。



――どうしよう――



私は元々同性相手でも初対面の相手と接するのに緊張し、なにも話せなくなってしまう。

ましてや相手が異性で車の中という狭い空間で二人きりだなんて、とんでもない。

当日具合悪くならないかな…いっそ仮病使う?なんて一瞬考えちゃったけど、私一人がドタキャンしたことで迷惑かけるかもしれないから、それはできない。


こうなったら覚悟を決めるしかない。

そもそも私のこういう性格キャラの問題でこの年になっても独身なんだから、

少しは自分を変えなきゃならないのだろうな…。

でもやっぱり怖い!


焦りとグダグダで頭の中グルグルし、その日私はろくに眠れなかった…。






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