第7話 誹謗中傷
別にいいのに…と思ったが、作った料理をお持ち帰りし自宅で食べようにも一人分しかないし、パクチーの匂いに両親が「臭い!」って騒ぐような気もしたので、お言葉に甘えることにした。
またあのステキなおうちに招待されるって言うのも、悪くはなかった。
帰宅してからの彼女はなんだか様子がヘンだった、なにか考えごとでもしているのか、ボーッとしている姿が見受けられた。
――疲れているのかな?――
なにか手伝おうか訊いても断られ、逆に持ち帰った料理を持ってきてとお願いされ、自分の気の効かなさにちょっと落ち込む。
料理を温めなおし、
初めてのジョージア料理はとても美味しく、
とくにヒンカリとかいう小籠包(餃子?)みたいなのが気に入り、うちでも作りたくなった。
色々話をしてく中で、
驚く。
――そっかぁ、彼女も色々苦労したんだろうな…――
平凡という言葉がまんま当てはまる私にはドラマチックに見える彼女の人生をうらやましく感じたのだが、うっかりそう言ってしまい、慌てる。
――し、しまったぁ!これは失言!――
そう思ってたけど、
そんなときに彼女のスマホに着信。
…コミュ障の私と違って彼女は色々忙しいのだろうなと思い、気遣う。
聞かないようにしていたが、なんだかただならぬ雰囲気…。
私は出されたお茶を一気に飲み干し、
荷物をまとめた。
「あの…、私もうお邪魔するね」
通話を終えるのを見計らって声をかける。
ところが、これから人が来ること・ネットで誹謗中傷されていて、それが何やら私にも関係あるらしいと聞かされ、頭の中がグルグルしてきた。
――え、なんだって!?――
意味がわからない。
「はじめまして、
グレーのパンツスーツを着こなし長い黒髪を一つに束ねたその女性は、見るからにやり手といった雰囲気を漂わせていた。
私は緊張する。
「
「あはは、でもね、もしかしたら必要になるかなぁ?って…」
なかなかシャレにならない言葉がかえってきたので、固まってしまう。
「とにかく詳しく話を聞かせて」
手洗いうがいを済ませた
「なにから話せばいいのかな…」
ちょっと、困惑している様子。
「うちの事務所にね、
…
「うわっ!ごめん、久し振りにその名前聞いたから、ビックリしちゃった!」
「うん、私もどのツラ下げてうちの事務所来た?なんて思ったわよ、彼女を徹底的にやり込めたの、同僚だったし」
「なにしに?私への慰謝料は払い終わってるし、減額もないだろうに…」
そういえばこないだの女子会で、
そこまで思い出したとたんに、
「これ見て」
『元アイドル
「あれ?これちょうど先日閲覧したばっかだよ、なんか親切な会社のお姉さま方が見つけて教えてくれたのよ…これが私と何か関係あり?」
そういや今この人が来たのは、うちらがネットで誹謗中傷されてるかも?だったハズ…。
「ここにあることは根も葉もないことばかりで、
「ん?根も葉もないってことは、AV落ちも風俗勤務もしてないってこと?」
なかなかハードな話だ。
「厳密に言えば、彼女が出演したのはイメージビデオでアダルトとはちがう…まぁ、縁ないほうからすりゃ、似たようなものだけどね…風俗に至っては、繁華街で元セクシー女優…まぁいわば引退したAV女優を集めたキャバクラみたいのを
「ええーっ!?なにそれー?!」
あまりにも遠い世界の話で、それがどう自分たちにつながるのか?わけがわからない。
「情報開示を求めるのに裁判所に仮処分の申し立てまでして調べた結果、意外な人物が浮かび上がったのよ。それで芋づる式にあなた達への誹謗中傷も見つかったって訳」
ここまで話を聞いて、察しの悪い私にも何だかわかってきたような気がしてきた…。
「まさか…」
「
久々に聞いたその名前は思いっ切り覚えがあり、まさかと思った人物そのものだ。
緊急事態宣言中に勝手に退職したらしいとは聞いていたが、まさかこんなことしているとは思わなかった。
「会社を辞めさせられた…と本人は言ってるけど、ほぼ自主退職ね…仕事辞めてからやらかしたのが、こちらね」
そう言って今度は別の画面を見せてくれた、こちらは動画投稿サイトだった。
タイトルは、『元モデルの
説明文には『元Jリーガーの
「なにこれ…」
動画…といっても中身は写真を集めたもので、それにテロップが流れているのみ。
一番最初の画面は、タキシード着た
「やだ、これ〜!昔の仕事のじゃん!結婚情報雑誌にモデルとして共演したやつじゃん!」
テロップには『二人のなれそめは、某結婚情報雑誌での共演』とあった。
「これが運のツキだったんだよね…」
ボソッとつぶやく。
今より少しばかり若い
「あんたが雑誌モデルからブライダルモデルに転身した後よね、大人花嫁のモデルとしてこれからやってけるかもって、喜んでた時よね」
動画を閲覧し続けていた
「なにこれ、こんなフォト使ったら犯人バレバレじゃーん、
スマホを目の前に突き出され、少し巻き戻される。
『バイト先同僚と男漁り・合コンの日々』とテロップと共に映し出された画像は、
コロナ前に開催した最後の女子会のものだった。
店内水槽だらけのオシャレなダイニングバーで、そこのトイレで
なんだか遠い昔のことのように思える。
見せられた動画の画像は、店内のトイレ前にいる
――いつの間に撮ってたんだろう?シャッター音も聴こえなかったし…なんかシャッター音消せる裏ワザでもあるのかな?――
「やだね〜、バッティングしちゃった女子会だったのに、勝手に合コンにされてるわ〜、ウケる〜!」
私はあまりのことにどう反応して良いのかわからず、唖然とするしかなかった。
よくもまぁ、あることないことでっち上げてくれたものだ…。
私のこと『サエない同僚誘って引き立て役にしてる』と、表現している。
サエないのは事実なんだが、そもそも
「どうします?彼女を訴えます?」
一応自分も対象になってるのだろうけど、
「まー、なんてことなんだか…勝手に仕事辞めたと思ったら、こんなワケわからないことに精を出していたとはねぇ…正直バッカみたいって感じ…」
「
なんだかなぁ…。あまりにもバカバカしくて怒る気にもなれない。
でも、もしかして
「私は別に…動画さえ削除してくれたらどーでもいいんだけど、
いきなりこちらに振られた。
「えっ、、」
突然振られることが苦手な私はすぐには答えられなかった。やや間をおいてから、
「迷惑って…?私の名前フルネームでは出てないよね?」
そう答えるのが精一杯。
「よく気がついたわね、そう、
そうなのか…。実名晒されてなくて顔にもボカシ入ってる場合難しいのか、知らなかった。
「でも…いくら顔にボカシ入れられてもわかる人にはわかるわよねぇ?今後の
「
なんとまぁえげつない話だな…。
事実とはいえサエない扱いされたのは正直ムッとしたし、ましてや男漁りしてるだなんてひどいと思うけど、私だけの問題ならそこまでして追い詰めようとは思わない。
だいたい動画サイト自体が閲覧する人が限られているものだからそんなに影響はないと、この時は思っていた。
「どうする
「いや、私は別に…投稿さえ消してくれたら……それより
「元Jリーガーの元カレ破局後の週刊紙に書き立てられたことよりマシに感じちゃうのよね〜」
「ああ、アレもひどかったわね…確かその週刊紙に名誉毀損で訴えて損害賠償したのだっけ?」
「二人の意見まとめると、投稿削除だけでいいのね?」
改めて確認される。
「はい」「それだけでいいんじゃない?」
…とまぁ、なんだか長い一日はこうして締めくくられた。
誘われて足を運んだ合コン料理教室が予想以上の大人数で訳がわからないうちに終わり、
とても慌ただしい一日で、すっかりくたびれてしまった。
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