第2話 久し振りのガールズトーク
「悪いわね、
いつもの女子会の幹事役である
申し訳なさそうにマンションの一室へ入る。
続けて
「ううん、気にしないで。会社から一番家が近いの私だし、久々にみんなとお話がしたかったから」
午後9時ちょっと前。
仕事が終わったのが8時で(勤務先ビル閉館時間が8時)、その後なんやかやと片付けごとをしていたら職場を出るのが遅くなり、
気がつけばどこの飲食店もラストオーダーの時間を迎えようとしていた。
「まー、どこの飲食店も9時閉店じゃあねぇ…カラオケボックスで明け方まで営業してるとこあるけど、なんか怖いし…」
都内でも家賃が高くて有名なその地域のマンションに一人暮らしをしている
「お邪魔します」
靴を脱いであがると、白を基調にした素敵なインテリアが目に飛び込んできた。
「うわぁステキねぇ、今流行りの北欧風とはまた違ったテイストねぇ」
第一声に感嘆したのは、
まず玄関の壁紙が白だったのだが、レンガ風でオシャレだった。
正面廊下の突き当たりの扉の素材は木で、 色はブルーグリーンで真ん中にアイアンの塗装があり、ドアノブもアンティークっぽくエレガントな印象を与えていた。
「ありがとう、シャビーシックインテリアっていうの」
手洗いとうがいをするためまずは洗面所に案内される。
この洗面所がまたオシャレで、一同感嘆した。
「なんなのー?蛇口までオシャレ、ヨーロッパのプチホテルに泊まってるみたーい!」
「あ、この紙コップでうがいしてね、タオルも今持ってくるから…」
紙コップまでもがオシャレなのか!?と身構えたが、100均でも売っていそうなシンプルな白い紙コップを渡され拍子抜けする。
「あ、私は自分のタオルハンカチあるから…」
私は紙コップを受け取り、やっと口を開いた。
もともとそんな積極的にしゃべるほうではなかったけれど、さっきからビックリの連続で言葉が出なかったのだ。
「私もタオルはいいわ」「私も」
ソープディスペンサーは光沢のある素材の貝殻の形で、とてもかわいらしかった。
案内されたリビングに入るとさらに驚かされた、グレイッシュなピンクのソファーは猫脚で、テーブルやテレビ台までもが白い木製で、真っ白ではなく所々にかすれ具合のようになっているのがまた洒落ていた。
「お金かかってそうね」
遠慮のない発言をしたのは
「なんでたかだかパートなのにこんな家賃の高い場所に住んでいて、インテリアまで?と思ってるでしょ?」
皆が内心思ってることを口にした。
「そりゃあそうよ、いくら元モデルで稼ぎがあったからって、ここまで?って思うし、かといって金持ちオヤジの愛人になるタイプでもないし…」
おおっと、ここまでズバリ言うか!?
年長の
「あはは、フツーそう思うよね?私がさ、昔とあるJリーガーと婚約してたの、みんな知ってるよね?」
そういえば!
もうかれこれ10年くらい前だと思うけど、当時大人気だったイケメンJリーガーが年上の読者モデルと婚約したってニュースが話題になったことあったっけ…。
その年上読者モデルというのが
「ああ、そーいえばそんなことあったわよね?今をときめくイケメンJリーガー
「ウチへパート応募してきたときビックリしたものー、彼と破局して5年後だったとはいえ、まだまだ人々の記憶には残っていたから…」
続けて
私がパート入社したのはそれより後で、
もともとそういうのには疎いタイプなので『やけにキレイな人だな』とは思っていても認識できなかった、そもそも街中で芸能人とすれ違っても気づかないくらいだし…。
「あ、もしかしてさ、破局したときに慰謝料とかもらったってやつかしら?」
「ピンポーン!当たりぃ〜!当時だいぶ週刊誌に書きなぐられてた通り、彼が駆け出しの若手アイドルと浮気したんで、双方からかなり慰謝料もらっちゃいました〜」
「あれはサイテーだったよね〜、30すぎたオンナ捨てて若いコに走ったってバッシングされてたもんね〜」
「あった、あった、このニュース………って、ええっ!?」
スマホで関連記事を見つけたらしき
「なにー、いきなり大きな声出してー」
隣に座っていた
そこには衝撃的な見出しがあった。
『元Jリーガー
「えええっ、マジで!?」
衝撃的な事実を知ってしまう。
「ああ、まーくんがDVでタイホされたってヤツでしょう?あれ、彼女当時売り出し中だったから事務所が隠したけど、最近になって何かバレてるみたいね…実は私に対する暴力もあったから、プラスアルファ慰謝料いただいちゃたのよ…」
これまた当事者の衝撃的な告白だったが、
元アイドルの現在がもっとすごくて誰もなにも言えなかった。
どれどれ…とばかりに
次の瞬間、「えーっ!?マジでぇ?!」
「うそ…、あのコ、まーくんと別れた後にAV落ちしていたなんて…しかもそれだけで借金返せなくて風俗勤務?」
「
こう厳しく発言したのは、
「そうよ、そうよ…だってこのコ、あなたという婚約者いるのわかっていて接近してきたんでしょ?」
「だいたい報道通りだけど…」
ここで
「実はさ、まーくんのDVがつらくてさ、婚約破棄しようか悩んでて、彼にたいしてそっけなくなってたんだよね…そんなときに若くてかわいいコ現れたら、ねぇ…」
そうだったのか…。
「で、でもっ、
ここで私は思い切って発言した、仲良い相手でもなかなか本音言えないほうだが、
なんだか
「そうそう、だいたいコイツのしでかしたことなんだから、因果関係よ!
「でもねぇ…私に対する慰謝料を事務所が立て替えているのよね…多分そのあと返済できるほど稼げなかったのかと思うと、なんだかなぁって…まーくんから慰謝料もらえなかったのかなぁ?」
「あ、アイツもDV被害受けてたもんね、でもその前に
案の定、
「このマンションも家具もインテリアも、彼らの不幸の上で成り立ってんのか…まーくんなんて今や飲んだくれで落ちぶれてるって話だし…彼らからの慰謝料だけじゃなく、ちゃんと私が稼いで貯金したり親からの援助もあるけどね…」
「ああああ、ごめん、ごめん、ごめんなさい!!」
「だからさぁ、人のもの盗ったんだからさぁ、当然の報いでしょう?」
婚約者略奪だけだと厳しすぎるが、
実はこのショックで
だからこそさっきから厳しい言葉が出るのだ(私はなにも言ってないけど、考えてることはおんなじ)
「ああ、なんかごめんね、約2年ぶりの女子会なのに、こんなドロドロの話題提供しちゃって」
少し落ち込んでいた
「いいのよ謝んなくて」「そーよそーよ、ウチらも妙な詮索して悪かったわね」
私は他の二人みたくとっさに気のきいた言葉が出るはずもなく、「気にしないで」としか言えなかった…。
それにしても…こんなドロドロした話を聞いてしまうと、結婚が怖くなってしまう。
だからと言って一生一人でいる覚悟もできていないし、悩ましい。
「ああ、気を使わせちゃったね…なにも出さずにゴメン、ちょっと待ってて…」
「あらやだ!気を使わなくていいのよ!」
「そーよ、そーよ!もう夕食は済んでいるのだし…」
言葉が思いつかない…。
だいたいいつも言いたいことは他の人に先に言われてしまう感じだ。
「そうね、夕方の休憩でみんなご飯食べたからね…でも、ビタミンは必要でしょう?」
冷蔵庫から何かを取り出し持ってきたのは、シャインマスカットだった。
「うわあ、シャインマスカットじゃないの〜!」「高かったんでしょ?悪いわー」
ガラスの器にこんもりと盛られたシャインマスカットは、ツヤツヤしていて美味しそうだった。
「気にしないで、うちの母方の実家が葡萄栽培しているから、毎年送られてくるの」
うらやましい環境…。
私はふとあることを思い出し、訊いてみた。
「お母様の実家って、山形だっけ?」
これには
「そうだけど、話したことあったっけ?」
やはり、覚えてなかったか…。
私は入社してすぐの出来事を話した。
「
「えー、そんなこと話したっけ?よく覚えてるねー」
覚えてるもなにも、葡萄は私の大好物なので、葡萄園を持つ親戚がいるのが単純に羨ましかったから…。
「そーそー!うちの会社、それがイケずなのよね〜!」
私と同じく葡萄が好物の
「それね、トラブルのもとになるから、禁止になったみたいよ?詳しくは知らないけれど…」
と、このメンバーの中で一番勤続年数の長い
次の話題は社内の理不尽について盛り上がった。
シャインマスカットは
こうしていつもと違う形の久々の女子会だったのだけれど内容は相変わらずで、
それでも楽しく感じたのは、約2年ぶりだからだと思う。
このまま徐々にもとの生活に戻ればいいのに…と、心の底から願った。
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