婚活、はじめました。

帆高亜希

第1話 アラフォー女、そろそろ焦るべき?

私の名前は宮坂翠ミヤサカミドリ

アラフォーで独身、彼氏なし。

お仕事は正社員になったことなんてなく、

パート勤務。

現在は都内商業ビルの事務の仕事をしている。

コロナ前までは都内まで出勤していたのだけれどリモートワークになり、

ほとんど家から出なくなってしまった。


元々ちょびっとコミュ障気味(周りからはそんなことないって言われるが)、休みの日に積極的に出かけるタイプでもなかったから、ますます外の世界との接点がなくなったように思う。


コロナ感染爆発する直前に、一つ年上の同僚の清川佐和子キヨカワサワコに『そろそろ婚活始めませんか?』って社内メールを受け取り、女性が無料のパーティーに参加するつもりが流れ…。


かれこれ一年以上が経ってしまった。


私はいつもドン尻だ。

子供のときからそう、成績が最下位になったことはなくても常に下のほう、

かけっこはいつもビリ。

カラダも小さくて同世代に比べたら成長が遅く、生理が来たのだってクラスで一番最後。

学生時代に彼氏が出来たことはなく、

周りが次々カップルになっていく中で自分だけがひとり…。


就活もそんな感じで、周りが次々と採用されてく中自分だけ決まらず、やっと仕事にありつけたのは、卒業してから…。

自分たちは就職氷河期世代だから卒業後も就職決まってない人なんてたくさんいたけれど、ずーっとドン尻人生歩んできたから気にせずにはいられなかった。


そして、結婚。


結婚できた人達って、どうしたらそうなるの?

そう訊いてみたいくらい、全く縁がなかった。



たった一度だけ、つき合ったことがある。

卒業してからもなかなか仕事が見つからなくて、パン工場でアルバイトをしていた時、同じバイト仲間と半年くらい…だった。


パン工場の仕事は基本流れ作業でいくつかのレーンに分かれてそれぞれ違うことをしていたので、レーンが違えばお昼休憩の時間も変わり、働く持ち場は日々変わっていたので、ずっと誰かと一緒になるなんてことは滅多になかった。

それがバイト初日からずっと同じレーンで休憩時間まで一緒というバイト仲間がいて、それが初めての彼氏だった。

どういういきさつでどういうつき合いで何で別れたのか、今はあんまり思い出したくないので、省略。


とにかく、私が恋愛したのは、人生でたった一度きりだった。



その後今の職場に落ち着くも、全く縁なし。

都内商業ビル勤務とはいえ事務だったから土日祝日は休みでも、休みの日はどこ行くでもなく…。

疲れて家でダラ〜っとすることが多かった。



何年か前に小学校時代からの友人の陽子ヨウコちゃんが結婚したときは焦ってなんとかしなきゃ!と思ったのに、とくになにもせず…。

気がついたらこの年齢だ。



今時は結婚しない男女が増えているから、

40すぎて独身なんて珍しくない。

ましてや今自分がいるとこは首都圏なんで、なおさらだ。

一瞬焦っても、「ま、いっか」と、なるのだ。

きっとそれがいけないのだろうな…。

最近になってまた焦りはじめている、

きっかけはコロナ…。

なんだかこのまま一人は不安だし、イヤだなぁ…って…。







「久しぶり〜!元気にしてた〜?」



今日は緊急事態宣言解除後の初の任意出勤日、久し振りに会社に顔を出す。

明るく声をかけてきたのは、清川佐和子キヨカワサワコだ。

私よりひとつ年上で独身の彼女だが、

元モデルでメチャ美人で不織布マスクごしでも美しさがわかる。

同じくパート勤務で、主に受け付けと館内放送の仕事をしている(彼女はリモートワークに関係のない業務なので、私達デスクワークがリモートワークの時でも出社していたらしい)


事務所は人がまばらだった、『任意出勤』なので、正社員のほとんどが来ていないようだ。



「やっぱりねぇ」



がらんとした事務所内を眺め回した佐和子サワコは苦笑する。

出勤していたのは部長以上の役づきの人と、佐和子サワコや私のようにパートアルバイトのみ。

ここで私は2つ隣のデスクを確認した、

来ていないっぽい…。



「ああ、白間シロマね、辞めたみたいだよ」



隣の席の佐和子サワコは私にだけ聴こえるよう耳うちした、



「へっ?辞めた!?」



ビックリして声が裏返る。



「普通さ、パートアルバイトは正社員と違って有給つかないから出勤するじゃない?コロナ怖いのに出勤なんてしたくない、有給くれってゴネたんじゃないの?」



なんとまぁ…。

白間百合江シロマユリエは20代の自称女子社員だったが、いつだったか実はアルバイトだったことが判明し、おかげさまで女子会の肴になったことがあった。

彼女はいわゆるアラフォー世代の女性をなにかと目の敵にしてきて業務上支障が出るまでになってしまう困ったちゃんだったが、まさか辞めるとは思ってなかったので、驚いてしまった。



「あのコね、受け付けやりたかったみたいだよ」



佐和子サワコと私の後ろから低い男性の声。



「わっ、ビックリした〜、聴こえちゃいました!?」



佐和子サワコはオフィスチェアを回転させ、声をかけてきた男性に美しい笑顔を見せた。

声をかけてきたのは、井澤史明イザワフミアキ、40代で部長の役職に就いている。

クレヨンしんちゃんの父親である野原ひろしを実写版にしたようなビジュアルで、

人のよさそうな顔をしていた。



「聴こえるもなにも…マスクごしじゃ聴こえねーだろうと無意識に声でっかくなってんじゃないの?」



この井澤イザワ佐和子サワコは仲が良い、なんでも彼の奥さんが佐和子サワコの友人って話だ。



「受け付けやりたがってたんなら、やらせたら良かったじゃないですかー」



佐和子サワコが屈託なくこたえるも、




「いや…人事はさすが見る目があるわ…あのコ、気に入らない人間に対し態度悪いし、カンちがいしやすいタイプだし…やらせるわけいかんと判断されたんじゃないの?」



なるほど…白間百合江シロマユリエなら、ありえる…。

彼女は日頃から自己顕示欲が強そうだなと感じていて、そうなるととくに佐和子サワコに対して当たりがキツいのも、

納得ができた。



「そろそろオープン時間ですよ〜」



会話している私達の間に入ってきたのは、

私より3歳年上の三笠真紀子ミカサマキコ

スラリとしていて、元モデルの佐和子サワコより身長が高かった。

面長で目力のあるタイプで、マスクごしでも眼力が健在なのがわかる。



「あれ〜?正社員だから来ないと思ってたよ〜」



佐和子サワコは何だか嬉しそう。



真紀子マキコさんだけじゃないわよ、私だって」



三笠真紀子ミカサマキコの後ろからヒョイと顔を覗かせたのは、小畑一美オバタカズミだった。



「家でダンナの相手ばっかじゃ、飽きちゃうのよ〜!子供はうるさいし…」



三笠真紀子ミカサマキコ小畑一美オバタカズミも既婚者だ、

正社員なだけでなく結婚もしていて、

つくづく世の中って平等じゃないなって思う。

でも、美人の元モデルの清川佐和子キヨカワサワコが私と同じく独身で正社員でないのが不思議だけれど、救いだ。



「えーっ、なんか贅沢だなぁ!こっちは寂しい独り身なのに…ねー、ミドリちゃん!」



久々にちゃんで呼ばれた気がする、

それにしても美人で相手に不自由しなさそうな佐和子サワコと同列なのは、なんだか気がひけた。



「ああ、でもこうして誰一人欠けることなく元気なのは良かった〜、来た甲斐があったわ」



一美カズミは何だか嬉しそうだった。

こうして任意出勤日とはいえ、いつもの女子会メンバーが全員揃った。

そうなると話は早い、閉館時間終了後にいつもの顔ぶれで集まりましょう…と、なったのだった。




















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