第4話 会社から帰った夜のこと
前回までのあらすじ。
私、
彼の話によると、私は前世でお姫様、永久保はその家臣だったらしい。
身分違いの恋を嘆き、来世で結ばれることを誓って、川に身を投げて心中した――らしいのだが、私にその前世の記憶とやらは全くないので、私にとっては永久保はただの妄想癖のあるストーカーである。
しかし、彼の様子を見て興味を持った私は、今の段階ではまだ警察に相談はしていない。
とりあえず『姫様』と呼ばれるのは辞めさせたい今日この頃。
家に帰ってお風呂から上がった私は、部屋に戻るとスマホに通知が来ているのが目に入った。
誰だろ? もう結構遅い時間なんだけど。
メッセージアプリを開いて、私は「ゲェッ」と思わず声を出す。
スマホの画面には、あの『永久保証』の名が表示されていたのだ。
しかも、私が風呂に入っている間に何回もメッセージを送ってきている。
『姫様、今日はありがとうございました』
『今度の日曜日、デート致しませんか?』
『美味しいレストランを知っているので、姫様がよろしければご予約致します』
『レストランまで時間があるので、それまで水族館などいかがでしょうか?』
『姫様? 今何していらっしゃいますか?』
……などなど、未読のメッセージがズラズラと並んでいる。頭痛くなってきた。
「……落ち着け私、まずは深呼吸して数字を数えるんだ……」
すぅはぁとゆっくり深呼吸して、私は文字を入力していく。
『永久保さん、なんで私のアカウント知ってるんですか?』
『姫様のことなら何でもお見通しでございます』
『怖い。110番していいですか?』
まあどうせ母から聞き出したんだろうな、と覚めた頭で考える。
母はイケメンに弱い。二人きりで話した時に私の個人情報を漏洩させたに違いない。
『やっとお返事が来て安心致しました。ずっと既読がつかなかったので何かあったのかと、姫様のもとへ馳せ参じようかと思っていたところでございます』
『やめてください。お風呂入ってただけです』
いや、私のことなら何でもお見通しじゃなかったんかい。
『それは失礼致しました。それで、デートのお誘いのお返事はいかがでしょうか』
私は正直悩んでいた。ストーカーと二人きりでデートなど、どう考えても危険である。
しかし、私の本能的な部分と言うべきか、勘みたいなものが、なんとなくこの人は大丈夫だと言っている。――これが前世の薄らぼんやりとした記憶、のようなものなのだろうか。
私自身は前世など信じてはいない……はずなのだが、何故か私は会った記憶が無いのに、永久保を前から知っている気がするのである。
『言っときますけど、一度でも姫様って人前で呼んだら即帰りますから』
『気をつけます。それではまた明日』
『は? 日曜日に会うんじゃないんですか?』
今日は日付変わったけどまだ水曜日だぞ。
『これから毎日送迎と護衛を致します、ご安心ください』
『110番しときますね』
『何故』
何故じゃないんだが?
『迷惑なのでやめてください』
『前世では毎日側仕えしていたではありませんか』
『今は現代日本ですよ。いつまでもナイト気取りやめてください』
そもそも前世の記憶が無いし、前世なんて信じてないし、やっぱコイツ頭おかしいわ。
『私の前世は騎士ではなく忍者ですが』
『いや前世の設定日本だったんですか?』
お姫様とかいうから西洋の話かと思ってた。
『設定ではなく事実なんですけどねえ……』
文章から永久保の苦笑いが見えるようだ。
『やはりどうにかして姫様の前世の記憶を取り戻さねば……』
妄想乙、と言いたいところなのだが、永久保があまりに真剣すぎてツッコミを入れる気になれない。
……やっぱりデート行くとか言わなきゃよかった、と少し後悔したが、今更取り消せる雰囲気じゃない。
『とにかく、日曜日まで家に来ないでください。じゃあ私、もう寝ますので返事しませんから』
『おやすみなさいませ』
いい加減眠いので、そこで話を打ち切って、私はベッドに潜り込んだ。
そしてやはり、永久保は次の日には玄関前で待機していたのであった。通報した。
〈続く〉
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