異常事態の異常状態

ワンルーム。玄関を入ってすぐにキッチン。奥にユニットバス。部屋で一番大きな家具は、本棚。次は冷蔵庫。テレビはない。ここが私の城であり、牢だ。

私は1日の大半を引きっぱなしの布団の上で本を読んで過ごす。ファンタジー、SF、サスペンス、ヒューマンドラマ、ビジネス書も専門書も図鑑もある。読み終わらぬうちから新しい本を片端から買っていた昔の自分を褒めてやりたい。

顔を上げて窓の外を見れば、今日も真っ暗だ。漆黒と呼んで差し支えない。この部屋の外に世界はない。

この部屋だけ違う世界に切り取られたように暗闇が広がっている。幸いなことに電気は消えていないし、蛇口を捻れば水が出る。それらはどこから来るのか、同じように辿れば帰れるのではないか、と思わなくもない。

しかし誰にも邪魔されず本を読めることは、むしろありがたい。仕事に忙殺されて、というのは言い訳かもしれないが、出入りが普通に出来た頃は、なかなかこの積み上げた本を読む気力も続かなかった。読む本が尽きるまではこうしているのも悪くない。

新書を1冊読み終え、返却期限を2年過ぎた図書館の本を、細くなった指で引き寄せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る