嘘を描く
彼をよくよく観察して、同じように写しとろうとしても、キャンバスに乗った絵具は絵具でしかない。どんなにきめ細かく肌を塗り込めても、どんなに滑らかに髪の艶を重ねても、彼の前では嘘にしかならない。花も宝石もその価値を失うほどの美しさを、私の手では描き出すことができないのか。それなら現実の彼が純潔を取り落とした姿を克明に想像し、妄想しよう。嘘の美を嘘の醜悪で塗り潰す。同じ嘘ならば、この方が私にはずっと真実だ。
2020/04/01
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