24話 「最終決戦③」
「待たせたなリュウタロウ」
とりあえずティファも無事の様だし一安心だ。後は、この戦いを終わらせるだけだ。
リュウタロウとの一騎討ち。久しぶりな気がする。
「僕を除け者にしてただで済むと思うなよ」
リュウタロウの中からミカさんの気配を感じる。
ミカさんの記憶がリュウタロウの中に流れているのだ。
「さっきまでの私と同じだと思うなよ。私はミカエルの全てを知っている」
リュウタロウの身体から吹き出るオーラが禍々しいものへと変わっていく。
まるでミカさんそのもののような……そんな気さえしてくる。
俺達は負けられない。
「いくぞ!!」
リュウタロウは剣を構えてこちらに向かってくる。俺は踏み込み、抜刀と同時に駆けた―――。
「―――ッ!?」
リュウタロウを駆け抜けて振り向くと、剣を握ったままのリュウタロウの右手がドサッと地に落ちた。
「ぐっ……ぐあああぁ!!」
リュウタロウは苦痛の表情を浮かべている。
「ずっと前に闘技場でされたお返しだ。 どうせ再生するんだろ?」
「くっ……」
リュウタロウの身体から吹き出す魔力が、赤い光を放ちながらリュウタロウを包み、落ちた腕を飲み込み、腕が再生した。
「くく……やってくれるじゃないか……」
「あの時は右腕だけだったけどな……次はその首、落としてやろうか?」
俺は殺気を込めて睨みつけた。
もう以前の俺じゃない。
俺は変わった。大切な人を守る為に戦えるようになった。
俺は強くなった。
今なら負けない! リュウタロウは額に汗をかいている。
俺を脅威と感じている証拠だ。
「流石だね……だが、その程度ではボクは倒せない」
確かにリュウタロウの言う通りだ。
今の俺の斬撃ではリュウタロウを倒す事は出来ない。
「さぁ……来い。キミの全力を見せてみろ!」
リュウタロウが俺に斬りかかってきた。
その剣閃は鋭く速い。
かつてのリュウタロウとは別物の剣筋。
たくさんの人を飲み込んだ暴食の権能による急激な強化、或いは進化だ。
だけどそれらを全て見切り躱していく。
「くそっ! 相変わらず、すばしっこい奴め!」
「速さだけが取り柄の身体なんでね! あ、あと可愛さも取り柄だったよ」
そこんとこ言っておかないとミカさんに怒られそうだ。
俺とリュウタロウの攻防が続く。
だが、その均衡は崩れていく。
「クソっ! 何故だ? どうして攻撃が当たらない!」
リュウタロウは焦っている。
それも当然だろう。
「悪いが、お前が思ってるより、ミカさんは俺を知らない」
「何だと!?」
ぶつかる剣と剣の波動はビリビリと辺りを揺らしながら火花を散らして尚も続く。
リュウタロウの攻撃をギリギリのところで捌き続ける。
リュウタロウの剣が俺の首を狙って薙ぎ払われる。
俺はそれを屈んで避け、そのまま足を滑らせてリュウタロウの背後に回る。
そして、リュウタロウの後頭部に回し蹴りを放った。
「ぐぁぁッ!?」
リュウタロウが地面を抉りながら無様に転がり倒れる。
「この野郎……調子に乗んなぁぁぁッ!!!」
リュウタロウが大声で吠えた。
そして凄まじい勢いで起き上がった瞬間、リュウタロウの姿が消えた。
「後ろだろ」
俺は背後に回ったリュウタロウにそう言って振り返り微笑むとリュウタロウが目を見開いた。
その隙を逃さず、一気に間合いを詰めてリュウタロウに袈裟懸けに一太刀を浴びせた。
その一撃でリュウタロウの肩口から腰にかけて大きく裂け血飛沫を上げた。
が、その程度の傷は直ぐに再生してしまう。だが、リュウタロウはその場に両膝を落として悔しがる。
「何故だ何故だ何故だ何故だァァァ! 僕は強くなったはずだ!」
「あぁ、強くなってるよ。でも俺の方が強くなったんじゃない?」
俺はリュウタロウを見下ろす。
その姿は酷く滑稽で、哀れで、惨めで……とても人間らしいと思った。
「あれから一ヶ月……僕は多くの魂を取り込んだんだ! それにたくさんの魔獣を倒してレベルだってカンストした! 努力したんだ! なのになんで!?」
聖都での戦いからまだ一ヶ月しか経ってないのか……リュウタロウはアチナにレベルリセットされたのだから、相当に努力したのだろう。
暴食で奪った魂は努力とは言えないけど。
「たったの一ヶ月だろ? 俺は二年間だ」
試練で幕末京都(ハードモード)の新撰組で隊士を二年もやったのだ。
訳わかんねぇ浪士に襲われるわ、頭おかしい新撰組の訓練。
夜は遊廓でこき使われて、昼は市中見回りさせられて、基本週7勤務のブラック仕様を二年。
強くなってなかったら、泣きますよ?
「うぅ……! 嫌だ……こんなのは違う……! 間違っている! ボクは……強くなりたいだけなんだ……もっと……もっと……!」
リュウタロウが涙を流す。
「泣いて喚いて後悔しても遅い。
もう、お前の負けだ」
俺はリュウタロウに刀を突きつける。
「くっ……そんなわけあるかぁぁ!! ボクはまだ負けてなんかいない!!」
リュウタロウが叫び声を上げ、魔力を爆発させた。
「ボクは負けない! ボクこそが最強だ! ボクの力を認めさせてやるんだ!!」
リュウタロウの身体から溢れ出る魔力が、禍々しいものに変わっていく。
「何……するつもりだ?」
魔力の渦に包まれたリュウタロウが不敵に笑う。
「くっくく……魔魂の力を解放するんだ……これがどういう事か分かるな? エイル」
「いや、さっぱりわかんね」
俺の言葉を聞いたリュウタロウの顔から笑みが消える。
その表情には焦りと怒りが浮かんでいる。
俺はそんなリュウタロウに刀を向ける。
するとリュウタロウが目を細める。
まるで俺を憐れんでるみたいに見える。
何だよ……俺を馬鹿みたいな奴だと思ってるな?否定は出来ないのが悔しい。
「聖都でお前も見ただろう? あの異形化した人間の姿を!」
「あー……アレな? う、うん見たよ見た見た……よ?」
「お前分かってないな? 馬鹿なお前に説明してやるぞ?」
「え? いーよ別に面倒くさそーだし」
俺がそう言うとリュウタロウがワナワナ震え出す。
やべぇ、怒らせたかな?
話したくて仕方ないのか?
「魔魂とは魔素を凝縮したものだ」
なんか勝手に喋りだしたぞ? 今斬っていいかな? ダメかな?
「そして、その膨大なエネルギーが人間の身体を蝕む。 制御出来ていない魔素は人を異形化させるが、能力を著しく向上させるんだ」
要するにドーピング薬的な感じなのかな?
能力向上と引き替えに化け物みたいになるって事だ。つまり……
リュウタロウは力を欲して暴走しているという事だ。
「おい、まさかお前……」
「その通りだ! 魔魂の解放だ! そして僕は神に近づく……いや、むしろ神化だ!」
いや、俺まだ何も言ってないけど。リュウタロウは聞いてもないのにベラベラと喋りだす。
その顔は自信に満ちていて、自分が無敵だとでも思っているような顔をしていた。
どうしようコイツ。
そうこうしてるうちに、リュウタロウの身体が黒い渦に包まれて進化だか神化だか知らんけど、何かヤバそうなモノになり始めた。
リュウタロウの身体が膨張し、皮膚が黒く変色していく。
渦が大きくなるにつれ、リュウタロウの身体が巨大化していく。やがて、リュウタロウの姿は完全に人ならざる者になった。
それは鬼の様な姿だった。
額からは角が生え、全身を覆う毛並みは漆黒に染まり、口元には牙が伸び、手脚は太く筋肉質になっている。
目は赤く光り輝き、その眼差しは真っ直ぐに俺を捉えている。
その姿を見て俺は思った。
「モンスターじゃねぇか……」
確かにリュウタロウの面影はあるが、その姿は最早リュウタロウでは無い。
完全に怪物だ。
人の進化の先がこんな姿なのだとしたら、人はいつまで経っても進まない方が良かったのかもしれない。
「ぐ……ガガッ……」
何かを語る言葉を失ってまで力を欲したリュウタロウの様子がおかしい。
「お、おい……大丈夫か?」
俺の声は届いてないのか、リュウタロウは自分の胸を掴んで苦しんでいた。
「う……ウゥ……ッ!」
「あ、あのぉ……もしも〜し」
「グ……グアァァァァァァァァァ!!」
苦しみが頂点に達すると、リュウタロウの胸が裂け、血が噴き出すと、その血液溜りが人の形を形成し始めた。
そして、そこから現れたのは……
長くて艶のある黒髪に真紅の瞳。整った鼻筋に美しい唇。白い肌に、長い手足。
歳の割に大人びた肉付きの肢体は、妖しい魅力を放つ。
「ミカさん!」
その姿は紛れもなくミカエル・デストラーデだ。そのミカさんは俺の姿を確認すると、立ち上がりこう言った。
「待たせたわねエイル! もう大丈夫よ」
「良かった……無事で……」
「当たり前よ! 私がリュウタロウなんかにやられるわけないわ! さぁ、ボコボコにしてやんよ!」
その威勢は堂々としたものだが、ミカさんはその……服はおろか下着すら着ていないわけで……要するに、全裸です。
「ミカさんとりあえず服着よっか」
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