23話「最終決戦②」
放たれた爆炎が辺り一帯を焦土と変えていく。チリチリと肌に感じる熱が空間を一気に焼いているようだ。
この熱気、質量、紛れもなくミカさんの【煉獄】。リュウタロウは言った。「私の力となった」と。
その言葉に嘘はなく、ミカさんの火炎が俺を焼こうとしているのだ。
動けなかった。
目の前で起きている事が信じられなくて、夢でも見ているんじゃないかと思う程だ。
ミカさんを失った。
信じられない、信じたくない。
だが、現実は変わらない。
ならば俺はどうすればいい?
「下を向くなぁぁぁぁッ!」
背後からの怒号。
聞き覚えのある声。セリスだ。
「諦めるにはまだ早いのです!」
リオが叫ぶと同時に、魔法壁が出現して俺を炎から守ってくれていた。
マリンのスキルだ。
そして皆の身体が白く輝く。
この光は見覚えがある。これは……聖属性の魔力だ。
聖属性魔法の使い手であるティファのよる、身体強化魔法だ。
そしてセリスの機関銃が惜しむ事なく弾丸をリュウタロウに浴びせていく。
粉塵にリュウタロウが包まれる最中、セリスが言う。
「大丈夫だ。ミカエルはきっと生きている。上手く言えんが、あのミカエルが簡単に死ぬものか!だから……」
「うん……俺もそう思う……」
「エイル……とりあえず涙を拭け」
泣いてたんだ。悲しかったのか、それとも皆に励まされた喜びだったのか分からない涙は溢れて視界を滲ませた。
「やれやれまだ子供ですねエイルは」
「リオが言うなだし……ぐすっ」
「ウチの胸の中で泣いてもいーッスよ?」
「マリンさん、それ息できないですよぉ!」
そんなこんなで少しだけ場の雰囲気が変わった気がした。
しかし、それも束の間だった。
突如として巻き起こる突風により、粉塵が晴れるとそこには無傷のリュウタロウがいた。
奴を中心に渦巻く風の渦が俺達を吹き飛ばそうとしてくる。
「友情ごっこは終わりかい?お嬢さん達。わざわざ私の糧になりに来るとは愚かな……」
リュウタロウが品定めする様に俺たちを、凄く、なんかエッチな視線をおくってくる。
「誰が貴様の餌になるか!」
セリスが一蹴すると、リュウタロウは顔をしかめた。
「黙れ貧乳」
「な!?き、貴様な!!」
あ、怒った。そりゃそうだよね。
セリスに胸の話をすると怒るのは皆知っている。
「貴様、殺すッ!!!」
怒りに任せて突撃していくセリス。
それを嘲笑うかの様にリュウタロウの周囲には無数の魔法陣が展開されていき、そこから灼熱の炎球が雨のように降り注いでくる。
セリスは避ける事もせず、ただひたすら突っ込んでいく。
「大地の精霊タイタン」
地面から大きな両手が現れ、リュウタロウを掴み、動きを封じるとセリスがリュウタロウの眉間に銃口を当て撃ち込む。
ゼロ距離で弾丸を受けたリュウタロウの頭が爆ぜた。
「やった!」
「いえ、駄目ですッ!」
リオの言葉の意味はすぐに分かった。
頭を無くして尚、リュウタロウは生きていたのだ。
セリスの召喚した両手を吹き飛ばすと、みるみるうちに爆ぜた頭が再生していく。
「無駄だよ。私は不死身だ。何度殺しても蘇る。さぁお前達の絶望を見せてみろッ!!」
リュウタロウの全身から、赤黒いオーラが吹き荒れる。
それと同時に氷塊が俺達を襲う。
「あれはミカエルさんの【フロストマシンガン】ですぅ!!」
ティファが叫ぶ。
マリンの魔法壁が無ければ危なかった。
リュウタロウの放った氷の礫が俺達に襲いかかったのだ。
リュウタロウは狂喜しているように見えた。
ミカさんの技を真似し、ミカさんの魔法を使うリュウタロウの姿は、まるでミカさんそのものだった。
リュウタロウが魔法を放つ度に、リュウタロウの中からミカさんを感じる。
リュウタロウの放つ魔法はどれもミカさんそのものなのだ。
氷塊をマリンの魔法壁で防ぎ、セリスが銃を連射して応戦する。
そしてその隙に俺とリオでリュウタロウに突撃する。
「ははは!いいぞ、もっとこい!!私を楽しませて見せてくれぇッ!!!」
リュウタロウの猛攻が俺達を襲う。
リオは持ち前の速さで攻撃を掻い潜りながら、リュウタロウに接近する。
俺はリオの動きに合わせて、サポートに回る。
リュウタロウの攻撃を避けつつ、リュウタロウの意識をこちらに向けさせるように動き、リュウタロウの頭上に刀を斬り下げる。
そのタイミングでリオはリュウタロウの背後を取り、渾身の一撃を―――
「がッ!!」
その瞬間。リュウタロウが回転し、右手の剣で俺の剣撃を受けさばき、迫るリオを蹴飛ばした。
「ハハッ!詠んでいたよそのくらい。忘れたか?私の中にミカエルがいるんだ。貴様らの思考、攻撃パターンは分かりきっている。貴様ら全員丸裸で戦っているようなものだよ……くくっ!エイルに至っては、身体の隅々まで知っているがな!」
「ぐっ……」
蹴り飛ばされたリオは苦悶の声を上げている。
「リオ、大丈夫か?」
「……だ、大丈夫っ……なのです」
強がっているけど相当なダメージを受けているのは明白。リュウタロウは余裕なのか追撃を仕掛けないでこっちの様子を伺っている。
何か策を考えなければ……。
そんな事を考えていると、リュウタロウから放たれた一筋の閃光が俺を通り過ぎる。
「きゃああッ!」
叫ぶ声が後ろから聞こえ振り返ると、光弾がティファの胸を貫いていくのが見えた。
「ティファ!!」
マリンが駆け寄るが、ティファの胸からは血が溢れ出している。
「マリン……さん……ごめんなさい……」
「喋っちゃだめッス!」
マリンは急いで回復薬を飲ませようとするが、胸を貫かれているためか自分で飲み込めない。それどころか血を口から吹き出している。
「回復役から倒すのはRPGの戦闘においてはセオリーだからな。その上、一番の雑魚キャラだ」
「テメェ……」
「ん?なんだ?怒ったのか?だが事実だろう?ほれ、そんな事よりお前も早く仲間を治療したらどうだ?」
「うわああっ!」
次はセリスの悲鳴が聞こえた。
目を向けると、セリスが地面に倒れていた。
「くそっ!あ、足がッ!」
セリスの右脚がつま先から徐々に石化していっている。その脚には数センチの針が刺さっていた。
「クックック……それはマリーの物だったな、返してもらうよ」
リュウタロウが投げた針によって、セリスの右足は完全に石の塊になっていた。
仲間が傷付いていく。
このままでは全滅してしまう。
俺は考える。皆を助ける方法を。
誰も傷つかない方法を。
「よぉ!リュウタロウ!サシで決着つけてくれよ!なぁ?」
俺はリュウタロウに挑発をかける。
リュウタロウは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
リュウタロウは俺に向き直り、両手を広げて言う。
「あぁ……!そうだな……それがいい。 全ての決着はやはりキミとボクでつけるべきだな男と男の勝負といくか……」
俺……一応女の子だけどな!まぁいいや。これで少しは時間を稼げるはず。
リュウタロウを俺に釘付けにしておけば、きっと勝機があるはずだ。
それに、この方法ならきっと上手くいく。
回復の時間も稼げればティファも助かる。
そうすればセリスの石化も治るはずだ。
それに、誰も傷つかなくて済む。
「エイル……」
リオが心配そうな顔をする。でも、これが最善だと信じてる。
「大丈夫だ!きっと皆んなで帰れる。 勿論、ミカさんもだ」
俺はリオの頭を撫でる。
リオは俯いて黙ってしまった。
そしてティファに駆け寄ったマリンを見ると……。
「んっ……てぃふぁ……ちゅるっ……ちゅっちゅ……飲むッスよ……じゅる♡」
思わず目を背けたくなる光景がそこにはあった。
マリンがティファの血まみれになった口元を舐めとり、その……要するに大人のチューをしてました。
「何してんのマリン?」
「回復薬の口移しッス!」
「いや、むしろ吸ってません?!」
「マリンさぁん……皆が見てるとこじゃダメ……ですよぅ♡」
ティファも満更でもないみたいだし!
とりあえず傷は何とかなったみたいで安心した。
「ティファ、イチャイチャしてないでセリスの石化なんとかしてくんない?」
「はぁい……」
頬を赤らめて、ティファがセリスに近づくと、治療を始めた。
「ボクはいつまで待っていればいいのかな!?」
リュウタロウがなんか怒ってた。
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