21話「リュウタロウの食いしん坊バンザイ

 


「それが君の本気か……。いいねぇ!ゾクゾクするよ」


 その姿を見ても、リュウタロウは余裕を崩さなかった。

 それは慢心なのか、それとも別の何かがあるのか? いずれにせよ、ミカエルは全力を持って殺すだけだ。

 ──先手必勝!! ミカエルは瞬時に間合いを詰めると、リュウタロウに向けて魔法を放った。


「インフェルノバレット!」


 煉獄の散弾がリュウタロウに襲いかかった。

 しかし、リュウタロウはそれを容易く避けた。

 だが、それで終わりではない。


「今だ!」


 回避した先に第二波が放たれていたのだ。

 ミカエルが予め仕掛けておいたトラップ。

『置きバズーカ』を起動させた。

 煉獄の炎は渦となり、リュウタロウを飲み込んだ。

 そして、そのまま爆発し爆煙に包まれた。


「やった!?」


 ミカエルは手応えを感じていた。

 今の一撃は間違いなく必殺の攻撃だったはずだ。

 いや、それ以上かもしれない。

 現に先程までの余裕の顔付きとは一変して、真剣な眼差しへと変わっていた。

 これで勝負あっただろう。

 後は止めをさすだけ……


「油断大敵だよ……」

「!!」


 声と共に背後から殺気が襲ってきた。

 咄嵯に反応して振り向いたが既に遅かった。


「うぐぅ!!!」

「あはは!遅い遅い!」


 背中への強烈な斬撃を食らい吹き飛ばされる。

 地面を転がりながらも体制を立て直す。

 ──強い! 今までのリュウタロウではない。

 一瞬でも気を抜いてしまえば命取りになるほどだ。

 そんな強敵にミカエルの心はかつて無いほどの高揚感を感じているのであった。

 そして、この男を超えなければ真の意味で復讐を果たしたとは言えない。

 ミカエルは立ち上がり、再び構えた。

 今度こそ、確実に仕留めるために。

 ミカエルは自らの魔力を最大限に高めていく。


 ミカエルの魔力が魔装アーマーに流れていく。ミカエルの開発した新たな防具『魔装アーマー』、元々趣味みたいなもので魔力を動力源とした搭乗型ゴーレム(モビルスーツ)インマ・インマの開発過程で出来た装備だ。搭乗型だとパイロットの技量に頼らざるを得ない。


 ミカエルは勝利を確信……とまではいかなかったが、かなりのダメージは与えたとは思っていた――しかし。


「なるほどなるほど……それが君の限界か?」


 身体は抉れ、上半身と下半身がかろうじて繋がった状態のリュウタロウが、苦しむ様子もなく話す。


「はは……アンタ本当に人間?」


「どうかな?大分人間離れしたとは思うが……どうやら平気らしい」


 リュウタロウの身体がみるみる再生していく。破損した部分まで完全に再生するまでさほどの時はかからなかった。


「嘘でしょ……」

「少し驚いたよ。まさか、僕にここまでのダメージを与えるなんてね」

「…………」


 ミカエルは言葉を失っていた。目の前にいる存在はもはや人ではない。それどころか生物ですらないのではないかと思った。

 再生能力の速さにも驚くが、あれだけの破損を再生しておいて、リュウタロウの魔力総量に変化がない。つまり完全にノーダメージだった。



「じゃあ、次は僕の番かな」


 リュウタロウは剣を構えると、目視不可能なスピードでミカエルの懐に入り込む。


「くッ!」


 ミカエルは咄嵯にガードしたが、それでも吹き飛ばされ、魔装アーマーの腕部装甲が破壊された。


「く……何てパワーなの!」


 リュウタロウから距離をとって再びファンネルっぽいヤツでリュウタロウを攻撃する。


「またそれかい?」


 リュウタロウがそれを全て躱しながら一つ一つ破壊していく。


 それらを全て破壊したところでミカエルが魔装アーマーの外部装甲とバックパックを解除した。


「降参する気になったのかい?」


「……一体何がどうしてそうなったのかしら?降参する前に教えてくんない?」


 ミカエルは呆れた顔をしながら言った。

 それは、リュウタロウのあまりの強さに自分が勝つビジョンが全く浮かんでこず、僅かでも活路を見出そうとした。


「僕はあのクソ女神にスキルとレベルを剥奪され……」

「インポになったんでしょ?聞いてるわ」

「そこはどうでもいい!いや、良くは無いが、それは今忘れろ」

「夜の生活がなくなった僕は一人悶々としていたら……」

「勝手に僕の事を話し始めるな!黙って聞いてろ!」

「はいはい、それでー?」


 リュウタロウはまんまとミカエルの誘導により、ペラペラと語り出した。


 メンゲルス博士(聖都編にいたアイツ)によって魔魂(スキルと魔素の結晶)を埋め込まれ、身体能力の強化に成功した事。

 そしてアルゴに渡された『暴食ノ剣』により、他者の魂をスキルごと採り入れる術を得た事まで語り始めた。その魂の数は既に100を超えた。



「……というわけだ。理解できたか?」

「えぇ、要するに貴方はスキルもレベルも無くなって、その代わりにとんでもない力を手に入れたのよね」

「そういうことだ。だから僕は強い!僕には負ける要素が無い!」

「でも、そんな力で邪神アルテミスなんて復活させてどうするつもり?スピカ達に利用されているだけだってのが、まだ分からないの?」


「くっくっくっ……利用?それは逆だよ。アイツらこそ僕に利用されてたんだ……邪神アルテミス?そんなヤツはどうだっていいさ!」



 不敵な笑みを浮かべるリュウタロウにミカエルは背筋が凍りついた。

 今まで感じたことのない感覚がミカエルを襲う。

 何故リュウタロウが一人で現れたのか、今になっておかしな事に気付いた。


「スピカ……達は来ていないの……かしら?」


 来ているはずのスピカ、マリー、アルゴ、レグルスの姿は見当らない。嫌な予感がした。

 リュウタロウはニヤリと笑いながら口を開いた。


「アイツらは来ているよ。僕の一部となってね。四天使の力は強大だったよ。おかげで神に一歩近付く事が出来た」


「どういうこと!?」

「簡単な話だ。四人の天使の魂を全て喰らい尽くしただけさ」

「なんでそんなことを!」


 ミカエルは叫び声に近い声で叫んだ。

 リュウタロウは、ミカエルの言葉を聞いて変わらぬ表情で淡々と話す。


「何って?先に僕を裏切ったのはアイツらだろう?仲間だと信じていたのに……いきなりアルテミスの使徒だと?共にアルテミスを解放しようなどと虫のいい話だ。だから喰ったやった。まぁ……結果的に邪神は解放してやるのだから願いは叶えてやるんだ。優しいな僕は。後、僕を馬鹿にした三人の妻も喰ってやった。アイツらも冒険者として実力者だったから良い糧になってくれた。リズは戦闘はからっきしだが、精力が無尽蔵だったおかげで僕の機能も元に戻ったよ。そして僕はスピカの俊敏な剣技、マリーの正確無比な器用さ、レグルスのタフネス、アルゴの賢さを手に入れた!僕が!僕こそが!最強だ!君とエイルも喰ってアルテミスに会いに行くんだ!あはあははははーッ!」


 リュウタロウは饒舌に語った。

 ミカエルはリュウタロウが危険過ぎる存在だと認識を強めた。


「じゃあ、そろそろ終わりにしようか。さっきまでの距離をとった戦いじゃ面白くないね。僕に近付くのが余程怖いらしい」


「は?んなわけねぇだろクズ!てめぇの口が臭ぇからだよ!」


 ミカエルは空間収納から漆黒の剣を出すと両手に持ち構えた。



「おや?いつもの金属バットじゃないね?どうしたんだい?」


「うるっさいわね!これでも代々伝わる魔剣なんだから有難く斬られなさい!」


 魔剣『デスサイズ』斬った者の魂を削る追加効果がある。今のリュウタロウに効果があるか分からないが、対抗するにはこれしかないとミカエルは判断した。


(一か八か……エイルが来るまで、コイツにまとわりつく無数の魂を少しでも削らないと……エイルが死ぬ)


「いくわよ!」


 ミカエルがリュウタロウに向かって走り出す。

 それを見てリュウタロウは嬉しそうに笑う。

「そうだ、もっと楽しませてくれないか?こんなにも胸が高鳴るのは久々だ!」


 ミカエルが魔剣を振り下ろし、リュウタロウがそれを剣で受けると強烈な波動となり『エリュシオン』に響き渡る。

 魔王と勇者の壮絶な魂の奪い合いが始まった。

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