19話『決戦前夜っぽい』

 

 サンク市を経ってから三日、ようやく死の大地に近くになると、北風が硝煙の香りを含み肌に刺さる。

 戦場が近い。行軍する兵士さん達にも笑顔が消え失せ、緊張が伝わってくる。


 馬車に揺られて退屈な道程ではあったが、久しぶりのこの世界の景色に懐かしさも感じていた。


 緑豊かな平原を行軍し、旧帝国と魔族領の境にある死の大地の南に布陣し、急ピッチで仮設司令部まで設置されて作戦会議的なやつに何故か呼ばれた。


「俺そういうのパス」


 とか言ったらフレオニールに首根っこ掴まれて無理矢理連れて来られた。虐待だよ!アチナに言ってやろうか?

 連れて来られた司令部のお誕生日席的な場所に座らされる。

 席に着くのは他に、騎士団長ベルドのおっさん、サンク市防衛隊長のフレオニール。

 兵士長の知らないおっさんと魔導士団長の更に知らないおっさんが席に顔を揃えた。おっさんだらけか!

 そんな顔ぶれに紅一点な俺。一応騎士団総長だから偉いので、居なきゃダメなんだってさ。


 暑苦しい顔したおっさん達が俺を見る。何か待っとる感じなんです。あれか?始める合図か?司会とか勘弁して欲しい。


「え、えーと……会議、いや軍議的なの始めまーす……」


 と言ったらベルドが口を開いてファミリア王国の軍議が始まった。


「戦況はどうか?」

「現在夜戦に突入しておりますが、魔王軍、連合軍共に膠着状態。ですが、連合軍の本隊がエピの町から鉄道で現地入りしているとの事。鉄道は通常より三倍の頻度で走っていると斥候から報告ありです」

 フレオニールが机の上の各軍の配置を指しながら、それっぽい事喋ってた。よく分かんないけど敵たくさんって事だ。


「また斥候からの情報では、帝国の盾インペリアルガードの砲台が姿を消したと」


 帝国の盾と言われる旧帝国の巨大要塞。

 現ローゼン共和国の首都スタットブルクの西側に位置する要塞だ。

 人族と魔族の境界線とも言えるクソ長い要塞で万里の長城的な感じのやつだ。


「すると連合軍はあの巨砲を前線に配備するつもりと言う事ですか?」

 兵士長のおっさんか口を開いた。


「そうでしょうな。あの280ミリ榴弾砲で要塞を徹底的に砲撃して破壊するつもりでしょう」


 なんか知らんけど、その大砲は凄いらしい。それがたくさん前線に届いたら、デストロイ要塞も危ないかもしれない。


「だったらさぁ、本隊来る前に本陣叩いたら良くない?」


 合流する前にやってしまえば相手は混乱して大変な事になる様な気がした。

 俺の発言に皆の視線が刺さるように一斉に向かれた。ちょっと怖い。ベルドのおっさんが、口を開きかけたその時、


「相変わらず阿呆な事言っているわね!」


 テントに入って来たのは桃色の髪をしたメイド、ジスだった。その後ろには剣聖シズカさんだ。気のせいか二人ともボロボロの格好となり、顔には疲労が見える。髪もボサボサだ。


「ジス!それにシズカさんも!なんか久しぶりだなァ。どしたの?」

「それより水くれない?走り続けてたから喉がカラカラよ……」


 一体何処から走って来たのだろうか、渡した水を手に取り一気に飲み干した。シズカさんは飲み干した後、地面に座りこんで動かなくなった。死んだか?


「ゴホッ!ごほっ!……ハァ……死ぬところだった……」

 良かった生きてた。

「おい貴様!誰の許可を得てここにいる!ここは部外者の立ち入り禁止だぞ!!」

 フレオニールが立ち上がって叫ぶ。

 確かにそうだよね、俺の関係者以外は入れない筈だけど。

「私は魔王軍ミカエル親衛隊のジスよ。そっちは剣聖シズカ」

「それで魔王軍の方々がファミリア本陣に何用か?」

「私達は魔王軍とは別行動中にある情報を掴んだの、その事を伝えるために帰還中、あなた達が陣を構えていたから寄ってみただけよ」

 魔王軍別行動?なんだろう? ベルドのおっさんが立ち上がり、ジスの前に立ち塞がる様に腕を組んだ。

 おっさんの威圧感に負けず、睨み返すジス。そして一歩も引かない両者。

 ベルドのおっさんは見た目こそ厳ついが、実は優しいおじさんである。

 俺に優しくしてくれる数少ない大人の一人でもある。だから俺はこの人の事が好きだ。

 そんなおっさんが厳しい目つきでジスを見ている。

 まるで親の仇を見るような、そんな目をしていた。

 俺とフレオニールはその光景を見て唖然とする。

「私はファミリア王国騎士団長ベルドだ。貴殿の情報とやら、聞かせてもらおうか」

 おっさんが自己紹介しながら話を聞く姿勢を見せた。

 どうやらおっさんが折れたようだ。

 だが、ジスはおっさんを無視して、俺の方へと歩いてきた。

 俺の隣まで来ると、耳元で囁くように言った。

「アイツ只者じゃないわね」

 それだけ言うと俺から離れ、再びベルドのおっさんと対峙して話す姿勢をとった。

 そして、 おっさんに衝撃的な事を告げた。

 それは俺が予想もしていなかった言葉だった。


「連合軍全てが囮だと?!」

「馬鹿な!」

 ベルド達おっさん連中がどよめく。


「間違いないわ。リュウタロウ達はこの隙に海路で魔族領に潜入。禁断の地で邪神を復活させるのが狙いよ」

 ジスの言葉を聞いたフレオニールが、慌てて地図を広げ、何かを確認する仕草をしている。


 ジスの言葉を聞いたフレオニールが、慌てて地図を広げ、何かを確認する仕草をしている。

「ジス、今すぐミカさんの所へ行こう」


 デストロイ要塞なら転移で直ぐに戻ってこれるし、セブールの本隊はまだ集結していない今しかない。


「エイル様!」

「ベルドさん大丈夫です。直ぐ戻るよ、それまでよろしく」


 俺はそう言ってジスとシズカを連れてデストロイ要塞へと転移した。ーーーーーー 俺はデストロイ要塞の指令室にいるミカさんの元へ急いだ。

 道中、見張りの兵士に止められたが、俺の顔を見た兵士は敬礼をして道を開けてくれた。いや、俺の顔と言うよりジスの顔かもしれないけど。


「ミカさん!」


 俺は司令室の扉を開き中へ入るとミカさんは下着姿で酒を飲み、ノアさんと人生ゲームをしていた。


「あらエイル、それにジスも!無事だったのね……良かった……あと……シズカも」

「ミカエル様、ただいま帰還致しました!相変わらず見目麗しく最高です!」

 ジスはミカさんの下着姿に興奮気味だ。

「ミカエル様?今私の名前言うのに間がありませんでした?」


「気のせいですわよ。それより急ぎの報告があるとか?」

「はい!敵が全軍囮だと判明いたしました!」

「え?!どういうこと?」


「わたくしの得た情報では、連合の作戦は全て陽動であり、本命は海路での本土潜入、邪神の復活です!」

「その情報の出処は確かなの?」

「はい。情報源はアーロン陛下であります。アーロン陛下はご存命です」


 ジスはセブールの国王であるアーロンが生きていた経緯とスピカの手引きによって脱出した事を俺たちに話した。

 アーロン王とローゼンの皇太子と皇女はファミリア王都の屋敷に置いて来たそうだ。

「そう……彼らには戦後に働いて貰うとして……とにかく今は、正面の連合軍。背後のリュウタロウ共。北の人工使徒部隊。南はファミリア王国軍。完全に詰んでる状況だけど、ファミリア王国軍はこちら側でいいのよね?」

「勿論、ファミリアは魔族側につくことになってる」

「ノア様、禁断の地最下層までリュウタロウ達が到達するまで、どれくらいかかるか分かりますか?」

「そうね……5日。早くても3日はかかるはず。リュウタロウ達が聖都を出発したのが、ジス達が聖都を出た後だとして……海路で北側から回れば3日かそれくらい。南ルートなら10日以上はかかるわ

 」

「つまり、リュウタロウ達が最下層に到達するのには早くて1日。時間がないわね……ていうか間に合わないわ!」


 ミカさんが持っていたグラスを壁に投げつけた。

 後で片付けるのジス達なんだから、そういうの止めた方が良いよね?言えないけど。

 計算上、既にリュウタロウ達はその邪神を封印してる場所に入って数日は経っているって事らしい。後から追っても先に邪神復活しちゃうって事か。要するに詰んだ。


「そんな時のために近道あるのだけど」


 重苦しい空気になってたが、ノアさんの一言で一変した。

 先に言ってれば、グラスは割れなかったのに。


「ノア様、その近道なら先回り出来るって事ですよね?」

「ええ、直ぐに最下層に転移可能よ。上層から攻略するのがアホらしくなる程よ」


「じゃ……明日、決着をつけに行くわよ!」


 禁断の地に向かうのは、ミカさんと俺、セリス、マリン、リオ、ティファの銀の翼メンバーだ。

 魔王軍の指揮はジスが代行する事になった。

 対連合軍には、四天王。親衛隊、三剣聖だ。


「て事で、今夜は呑むわよ!ジス、酒持って来なさい!」


 ミカさんはとりあえず呑みたいらしい。俺も付き合う事にしよう。

 その後、俺とミカさんは酔い潰れるまで飲み明かした。

 翌朝、まだ少し暗い中目覚めると頭がガンガンしていた。二日酔い確定だが、昨日のミカさんの酒量に比べたらマシな方だろう。

 俺の隣を見ると、下着姿のミカさんが俺にしがみつきながら寝息を立てている。

 皆で宴をした後は、ミカさんにされるがままだった。血も吸われたし。

 ミカさんは俺の首筋から唇を離すと満足げだった。

 その時の顔がとても妖艶でドキドキした。

 俺は起き上がり、ベッドから降りた。

 ミカさんに脱がされた下着と衣服を拾い集める。


 ミカさんを起こさない様に着替え、俺はノアさんの元へ向かった。

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