18話『ラストダンジョン』

 

 大陸最西部に位置する魔族国デスニーランド。

 その北端に邪神アルテミスが封印されている祠の様な建物がある。その祠の前に立つ者達がいた。




「これが邪神の封印されている場所なのか?思ってより随分あっさりとした場所だな。面白くない」


「リュウタロウ。まだ封印を解いたわけじゃない。この建物内も知らずして安堵は出来んさ」


「とりあえずさー、入って見るべし!じゃない?スピカちん、これ入って大丈夫なやつ?」


「ええ……魔法による封印はされていないみたいです。参りましょう」


「いざ突撃!だな!」


「お前はいつも突撃しかないだろう?レグルスは脳筋だからな」

「おいおい兄弟、俺だって色々考えてるんだぜ?考えた上でいつも突撃しかないんだぜ?」


「レグルス。それを脳筋と言うんだ。それより先を急ごう、随分あっさり辿り着いたが、ここは魔族領域だからな。幸いにも魔族は殆ど死の大地に出払っているがな」


「連合軍全てを囮に使うとか、なかなか鬼畜な作戦考えたのアルゴでしょ?おかげで私ら楽になったけども、とても勇者様一行のする事じゃなくない?」


「ふん、今更それを言っても遅いぞマリー、既にこうして邪神アルテミスが封印されている場所に着いてしまったのだからな。最終局面なんだよ。諦めろ」


「はいはい、分かりましたよ勇者様。んじゃ行きますか」


 建物はさほど大きくはなかった。

 むしろ、小さ過ぎるくらいであった。それが余計に不気味だったのだが、その答えは直ぐにリュウタロウ達を納得させた。


「転移魔法陣?」


 石造りの正方形の部屋の中心には、魔法陣が煌々と輝いやいていた。

 その魔法陣は明らかに部屋のその先へと誘う物である事が古代文字の術式の羅列でマリー達には分かった。


「どうしやしょう?引き返すなら今だっせ」


「転移の先がどうだろうと引き返すつもりは無い。構わん行くぞ」


 アルゴを先頭に転移魔法陣へと五人はその足を踏み入れた。

 そして吸い込まれる様に姿を消した。



 ◇



 転移した場所は先程とはまるで違い、広い空間であった。

 天井は高く、20メートル以上はある。

 洞窟を掘った造りではなく、明らかに人工的な壁と床には光沢のある石材。神殿のようでもあったが、神聖さとはかけ離れた空気が流れていた。


「凄く濃い瘴気ですね。皆さん大丈夫ですか?」


「あぁ……問題ない、しかしここは墓所か?」


「恐らくここは……王家の墓。歴代の魔王が眠る場所があると聞いた事がありますが、ここがそうなのでしょう」


「お墓参りは遠慮したいでやんすね〜」


「しかしこの瘴気の濃さは異常だな。人間なら致死量を優に超えているがリュウタロウ平気か?」


「ん?全然問題ないさ。かえって調子が良いくらいだよ」

「そうか、分かった。この先何が出てくるか分からん。皆、警戒しとけよ」

(体内に取り込んだ魔魂の効果なのか?結果的に魔魂の移植はしといて正解だったな。その先どうなるかは知らんが)


 リュウタロウ達は縦にも横にも広い回廊を進むが、特に何か罠の類は見当たらないまま、ただ前をいく。


「なんかお宝とか無いのかね。王家の墓なら強力な武器とかさ定番だろ?つまらないな」


「そんな定番聞いた事ないが、今更武器を手に入れてどうする?リュウタロウには新しい聖剣を与えたばかりだろう」


「リュウタロウのそれ聖剣だったの?てっきり魔剣かと思ってたよあっしは」


「使用者によって姿を変える聖剣だそうだ、禍々しい姿なのはリュウタロウのせいだろうな」


「全てを喰らい尽くす暴食ノ剣だ。これで僕は誰にも負けない」


 リュウタロウがその禍々しく、妖しい輝きを放つ剣はリュウタロウの中にある魔魂の効果が具現化した様な剣だった。


 リュウタロウ一行の先には再び扉が姿を現した。

 その扉はとても巨大で重厚な造りだった。


「ようやく到着だな!じゃ扉開けちゃ……」


 レグルスが扉に近付くと、床に魔法陣が輝き始めた。


「レグルス離れなさい!何か来るわ!」


 スピカが魔法陣から何かが呼び出されるのを察知すると、各々がその場から離れ、警戒する。


 吸い出される様に姿を現したのは、赤黒い鱗を纏った巨大なドラゴンだった。眼光も紅く輝き、妖しい気配を放っていた。体長は天井には届かないが、元々異常に高い天井のある広間だ、測らずともその体格は他のドラゴンよりも数段大きいであろう。


「まるでお約束みたいなボスキャラの登場だな!」


「という事はやはりその先には……」


「目的の場所。或いはお宝ですかな〜?」


「なら突っ込むしかねぇ!」

「レグルス待ちなさい!」

 レグルスが何も考えず、スピカの静止を振り切り、ただ無謀に直線的な突撃を仕掛ける。超速の突撃でドラゴンの懐に入り込んだ矢先、ドラゴンの尻尾がハエでも振り払う様にレグルスを叩く。


「あいたッ!」


 バシンと、音をたててレグルスは真横の壁に吹っ飛ばされた。


「だから言ったのに……」


 壁に飛ばされたレグルスが立ち上がるが、


「こんなんへっちゃら……ゴフッ!だぜっ!」


 口から大量の血を吐き、ヨロヨロと腹部を押さえながら歩く。


「大丈夫じゃないだろ。内蔵やられてないか?」

「な、内臓くらい別に……ゴホッゴホッ……あれ?なんかヤバい……痺れが……」


 見る見るうちに、レグルスが衰弱していく。顔色も血の気が失せていき、灰色っぽくなっていた。死ぬ寸前の様だ。


「多分毒ね。放って置いたら、数分で死ぬわよ」


「おい!レグルス大丈夫か?」


 リュウタロウがレグルスに駆け寄る。


「き、兄弟すまねぇ……俺、この戦いが終わったら、リズにプロポーズするんだ……いいかな?」

「別に構わないが、何故今言うんだ?一番ダメなタイミングだぞ」


「レグルス、回復薬飲めば大丈夫よ。はいコレ」

「スピカ、助かる」


 回復薬でレグルスの受けた毒効果が薄れていく。

 ダメージ自体は持ち前のタフさで持ち直した。


「マリーは奴の足止めを、私は奴に攻撃の隙を与えない様にする。スピカは斬りこんで弱らせろ。トドメはリュウタロウに!」


 後方にいるアルゴが指揮を執る。


「がってん承知之助!」


 マリーがドラゴンの足元から周り込むようにして左に飛び出すと、鋼糸を繰り出して足元に巻き付けて行く。

 人体はおろか、鋼鉄さえ切り裂くマリーの鋼糸だが、このドラゴンの硬い装甲は切り裂くとまではいかなかった。

 だが、足止めは充分に効果はあった。


 そこにアルゴの放つ光線の様な矢が上から降り注ぐ。

 矢を転移させてドラゴンの真上から無数の光が雨の様に降ると、ドラゴンも無数の傷を負った。


 そこに――


 双剣を構えたスピカが閃光の如く斬り込む。

 ドラゴンの胴体を十字に斬り裂くと竜鳴が轟く。

 それは生命が齎す悲鳴にも似たものであったが、どうやらその類いではなかった。

 ドラゴンがその大口を開ききると、その口腔におびただしい高質量の魔力が収束されていく。

 それが、強大な咆哮である事は誰の目にも明らかである。

 その咆哮が放たれれば、如何に広いと言えどもダンジョン内である。

 逃げ場など無く、長い回廊の入口まで引き返す時もない。


「リュウタロウ!」「リュウちゃん!」

「兄弟!」「リュウタロウ早く!」


 皆がリュウタロウに全てを託す。

 誰もが、この状況を打破出来ると信じる勇者リュウタロウの力を知っていた。その力は――。


「さぁ、食事の時間だ。喰らい尽くせ『暴食ノ剣』」


 そのリュウタロウの持つ剣が禍々しいオーラを纏い出すと、その黒い霧がドラゴンに向かって行く。

 風が通り越して行くようにドラゴンを通過した霧はすぐ様消え失せると同時にドラゴンを飲み込んで行った。


 完全にドラゴンを消滅させると、その剣を鞘に収めたリュウタロウが呟く。


「フッ……これがリュウタロウだ」




「ぶふっ!ちょっと笑わさないでよリュウちゃん!ギャハハ……ヤバい腹痛いっ、ヒィー」


 マリーが腹を抱えて笑い転げる。


「笑うな!」


 赤面しつつマリーを怒鳴るリュウタロウ。


「だ、だってさぁ、これがリュウタロウだ……って何?どれだよってなるわ〜」


「マリーさん。リュウタロウが痛いのは分かりましたから先を急ぎましょう」


 平静を装いながらスピカが淡々と話し、前を歩み始める。

 その後ろ姿は微かに震えていた。


「兄弟……流石にあれは……な」


 レグルスがリュウタロウの肩をポンと叩き歩き始めた。

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