15話『ファミリア王国御前会議』
ファミリア王国
城内の会議室には国王ユリウスを始め、騎士団長ベルド、サンク市防衛隊長フレオニール、その他ファミリアの重鎮である公爵やら伯爵などの有力貴族、それとセリスが軍議と言う名の、どうやったら上手い事戦争に参加しないで済む方法を探す会。を真剣に思案していた。
「やっぱりさぁ、ボクとしては野蛮な戦争とか無しでスマートに解決してほしいんだよね。それ重視でさ、セブールにも、魔国にも良い顔出来る方向で何かないかな?」
ユリウス国王の望んでいるのが、これである。
最早軍議とは言えず、兵隊出さずにスルーしたい。そう言ってる様なもので、家臣も頭を抱えるしかない。
「おい、ユリウス。だから潔くミカエルに援軍を送れと言っている。腐った神聖王国などに良い顔する必要はない!」
机をバンと叩き、一向に進まない会議に苛立つセリス。
「貴様、口を慎め!魔国の特使として同席させておるが、陛下に対してあまりに無礼である!」
国家参政である公爵の怒号が部屋に響く。が、苛立つセリスも引かない。
「無礼は承知の上だ!だが、既に戦争は始まっている!セイコマルクは堕ち、死の大地決戦は始まろうとしている中で、未だ参戦を渋ってる意味が分からん!」
「セリス、君の言う事は最もであるが、我が国とセブール、ローゼンとの間には軍事同盟としての制約がある。だが、魔国のミカエルにも、個人的な恩があるのだ。故にどちらかに付くと言うのがどうも厳しい。だから上手い事出来ないかなーって考えてるんだ」
「軍事同盟など無効だ!今や帝国ローゼンは神聖王国セブールの属国となり、セブールのアーロン王は亡くなった。そのセブールを今動かしているのは、あのリュウタロウなんだぞ!」
リュウタロウと聞いてファミリア王国の誰もが唾を吐くほど憎き存在である事は、この会議に参加する者は良く知っている。
ファミリア王国王女シャルロットを誘拐監禁、それを人質にエイルに強制的な御前試合を行い、大衆の面前でエイルの腕を斬り落とした光景は今も記憶に残っている。
更にはそのエイルを攫い、半年間も監禁した疑いが国民にとって、リュウタロウを憎む要因である事は間違いはない。
「そのアーロン王も、ミカエルに殺害されたとなっているだろうが!世論の大義がセブールにあるのだよ!魔国などに付いて、敗北でもしたら、その賠償は国家として終わりを意味するのだぞ!我々は負けたくないのだ!」
公爵もややヒートアップしてはいるが、判断としては冷静になり、この戦争を客観的に見れていた。
そこに私利私欲は当然あるのだろうが、貴族として自らの領地や、資産は守りたいのだ。
勝てば良いが、敗北はその全てを失う。領地を守る貴族ならば当然ではある。
その上、魔国と人族三国の国力では圧倒的に人族に分があるのは確か。
魔国に賭けるのは、ギャンブルみたいなものである。
とはいえ、魔国と面と向かって敵対したくないユリウス国王の八方美人さが巻き起こした、平行線の会議だったりする。
セイコマルクが魔国に付いたのはプラス要因であったが、そのセイコマルクが早々に陥落。
セブール有利。と言うのが今の状況だった。
「黙れ公爵!セブールは邪神復活を目論んでいるのだぞ!現にリュウタロウの周りには邪神の使徒がいる。セブールが勝てばどうなる事か想像もつかないのか、馬鹿が!」
「貴様ァ!たかが騎士のクセにこの私を愚弄するか!」
「よせ。セリスの無礼はボクが謝ろう」
「陛下!その様な事をされてはしめしが……」
「良いかセリス。ファミリアとしては今の段階では判断しにくい状況であるのは分かってほしい。あのリュウタロウに邪神の使徒、その上、聖教会までセブールには付いている。これらを敵にまわして勝てるとは到底思えない。故に援軍は送れない。死の大地決戦には、今回も観戦武官の派遣と、人族側に補給物資の提供。それで決まりだ。良いな?」
「それでは魔国は……」
「負ける……だろうな。魔国が勝つには短期決戦しか道がない。国力の差が戦争の長期化で必ず出て来る。元々、魔国は中立国だったセイコマルクを経て、鉄鉱石、魔鉱石を国内に輸入していたんだ。そのセイコマルクが堕ちたとなると、国内生産だけで、人族三国に太刀打ち出来ない」
「くっ……ならばファミリア王国が魔国に物資を送ればまだ何とか勝てる道があるかもしれないのではないのか?」
「だがなぁセリス。我が国には本格的に参戦する余裕がないんだ」
「なんだと!国の財政などユリウスの責任ではないか!」
「誰のせいでそうなったと思っているんだ!セリス達『銀の翼』が聖都でした事を忘れたか?教会本部破壊、セイクリッド家の亡命。教会から多額の賠償金を請求されたんだぞ!冒険者ギルドで『銀の翼』が、なんて言われてるか知ってるか?『迷惑セット』だぞ!次はどの街破壊するつもりだ!」
「む、むぅ……あれはリュウタロウが居たからミカエルが……」
その時、会議室の窓を叩く音がして皆、窓を見ると―――。
「やっほー♡」
「「エイル!」」
「エイル様ぁ!」
迷惑セットの元凶が現れた。
◇
「エイル!今まで何処にいたんだ!心配したんだぞ!」
「えぇっ?ち、ちょっと京都行ってた」
「キョウト?知らないが……それにしても窓からとは相変わらず君も人を驚かすな……」
「あぁ、ちょっと急ぎなんで飛んで来たんだけど、不味かった?」
「飛んで来たって……ここは八階なんだがな……それで急ぎとはなんだい?ボクに嫁ぐ気にでもなったのか?」
「それはないよ。えーと、とりあえず死の大地に出陣しよーよ!魔国側としてさぁ!」
「「「ああ……」」」
エイルの発言に皆が、会議が振り出しに戻ったとため息をついた。
それから―――、ユリウスがセリスにしたのと同じ事をエイルに話した。
「踏み倒せば良くない?聖教会なんて無視だよ無視」
「エイル、あのなぁ……聖教会は唯一神アチナ様を崇める人
族の統一信仰なんだよ。それを蔑ろにする訳には行かない」
「全く、教養のなってない小娘が英雄などともてはやされとるから増長するのだ!陛下今からでもコイツの勲章と爵位を剥奪しましょう!大体、貴様ごときが陛下に物申すなど即刻死罪になってもおかしくはないのだぞ!」
頭禿げた偉そうなおっさんが、なんか怒ってるけど、少しムッとした。
「だって女神アチナがやっちゃって良いよって言ってるんだから良いんだよ!」
「エイル……?今女神アチナが……とか言ったか?」
「気でも触れたか!このガキが!デタラメを……!」
「嘘じゃないよ。言ってたもん。教会潰すって」
「いやいやいや、あの女神アチナ様の事か?それともエイルは神託を受けたのか?何処で?」
「神託?いや、そんなんじゃないけどさ、もう言っちゃうけど、俺、女神アチナの娘なんだよね一応」
「え?何それ……セリス、それは本当なのか?」
「……本当だ。エイルは女神アチナ様の唯一の使徒だ。因みに……フレオニールも知ってた」
「セリス!巻き込むな!」
「ン……、つまりエイルは……」
「天族です」
フレオニールが最早諦めた様な清々しい顔して言った。
「馬鹿な!し、証拠だ、証拠はあるのか!信じられるはずがないであろう!」
まぁ、そうなるよね。どうせいつかバレる事だし、この先天使化しないで戦う事も厳しくなるだろうから、見せるしかない。
俺は、銀翼を展開して見せた。大天使化まではする必要ないので、翼だけだ。
「こ、こんな事が……なんと神々しい……」
禿げた偉そうなおっさんが、なんか驚いてる。さっきまでの人を見下す様な顔ではなく、奇跡を見てるみたいな顔になっていた。
ちょっと調子に乗ってみる。
「女神アチナの使いとして命ずる。即刻出陣せよ!」
すると、その席にいた皆が、ひざまつく。
「「ははっ!」」
あれ?ちょっと気持ちいいぞこれ。クセになりそうです。
うーん。ミカさんはいつもこんな事してるんだろうな。ちょっと羨ましいです。
「しかしながらエイル様。この戦、勝てるのでしょうか?」
騎士団長ベルドが発言すると、皆が俺に注目した。
別に作戦とかあるわけじゃないけど、勝てるか分からない戦争に参加するのは、士気に関わる。俺はいつも自信満々なあの副長の顔を思い出した。
「俺は勝つよ!勇者だろうが、邪神だろうが!」
ま、俺も一応勇者らしいんだけど、世間的には勇者はリュウタロウだ。今度こそぶっ殺す。もう絶対に負けない。
ファミリア王国は魔国側として参戦する事になった。
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