5話 『シン・リュウタロウ』

 

 魔国艦隊の撤退から一夜明け、聖都ではアーロン王の葬儀が粛々と行なわれていた。

 建国一千年を超える大国セブールの歴史の中で、国王が殺害されたのは無い。

 それ故に王の死が国民に与える影響は相当なものであった。

 更に国民を不安にさせたのは次期国王は誰かということであった。

 アーロン王には子がおらず、継承権上位の貴族達がそろいもそろって即位を拒否した。

 暫定的に現在は聖教教会が国を指揮している。



 ◇


 聖都地下、人工進化研究所。


 その研究所の最奥の一室にてある男が目覚めようとしていた。


「上手くいったのか?」


「ええ、アルゴ様。素体が完璧でしたからな。これは最高傑作ですよ!ヒッヒ!魔魂もふんだんに取り込み、もはやオリジナルの天族をも超えた存在、半神デミゴッドと言っても良いでしょうな」


「半神か……それはさておき、メンゲルス貴様は死んだはずではなかったか?」


「私には予備の魔魂がありますので、一度や二度の死など問題はありませんよ」


 そう不敵に笑う狂った科学者をアルゴは冷たく見て、リュウタロウの入っている巨大な培養装置の様なものに目線を移した。


 人の魂を凝縮した装置の中で眠るリュウタロウ。

 見た目には特に変わった様子も無いが、時おり強い魔力を発する。その魔力が発する度に上昇しているのが分かる。既に十二天将の魔力は数回前に超えている。

 それだけで、神に近付いているのだ。

 メンゲルスの言う半神と言うのもあながち嘘ではない。


「人の造りし神、か……」



 少しして、装置が警報を鳴らす。



「どうやら全ての魔魂の吸収が終わった様ですな。あれ程の魔魂を取り入れて人の形を保つとは流石は勇者ですな。やはり器の強度は重要ですな」


「……扱いに困る事はないのか?」

「制御には問題ありません」



 装置はいわゆる棺桶の様な横型のものであった。

 魔素が漏れない様に密閉型だが、呼吸器は勿論備えてある。素体が窒息死したら元も子もないのだ。


 装置の扉を開き、リュウタロウの身体をストレッチャーに載せてから重厚な一室に運び、待つこと30分余り。

 リュウタロウが意識を取り戻す。


「ん……ここは?」


『意識が戻りましたか。自分の名前は言えるか?』


 別室から話しかけるメンゲルス。

 素体が暴走する可能性がある為、万全を期す。


「あぁ?僕は……リュウタロウだ。この世界の勇者。勇者リュウタロウだが?」


『ふむ。記憶に障害は無いと……ならば自身の力を確認できるかな?』


「力?あぁ……ステータスか。ちょっと待て。……なんだこれは!ハハハッ!信じられない数値だ!全ての数値が以前より遥かに高い数値だ!スキルも超速再生、圧縮魔法、能力吸収……ありとあらゆる武具に精通している。クックック……これなら神も殺せそうだ……」


 自らの力に酔いしれるリュウタロウ。

 アルゴは確信した。この戦い、最早勝利しかないと。

 神を殺す。その目的まで達せるのだと。




 ◇



 その日、聖都王宮周辺には沢山の国民が集められた。

 何やら重大な発表が王室から発せられるとの事で、民衆は不安もありながらも集まった。


 王宮のバルコニーは民衆から良く見える辺りにあり、かつては王族が国民に顔を見せる場所として使われていた。

 そのバルコニーには、聖女スピカ、神殿騎士団長アルゴ、レグルスにマリーが並び、その中央に勇者リュウタロウが立っていた。

 先日の魔国艦隊追撃の英雄達が顔を揃え、民衆達から歓声が上がる。


 国民人気からすればリュウタロウは下の下であるが、それでも勇者と言うのは人族の希望である。

 過去の女性問題は未だ遺恨を残してはいるものの、戦力としては最高戦力の筆頭である。


 そんな中、勇者リュウタロウの演説が始まる。


「えー……皆も知っての通り、ボクが勇者リュウタロウだ。どうか話しを聞いて欲しい。昨日、諸君らの愛していた国王陛下が死んだ。それも魔王ミカエルが直接手を下した。ヤツらは卑怯にも条約を破り、宣戦布告も無しに聖都を襲撃したのは諸君らの知っての通りだ。所詮ヤツら魔族には対話などは通じない事が今回の事で分かったと思う。そこでボクは今後人族が戦争に巻き込まれない為にするには、魔族をこの世界から無くさなければならないと確信した。

 よって魔族国並びにそれに組みする亜人国に対し全面戦争を仕掛ける事を誓う!

 これは聖戦である!諸君!悲しみを怒りに変え、立てよ国民よ!今こそ我ら人族の平和を勝ちとろうじゃないか!」


 リュウタロウの演説は思っていた以上に国民に響いた。

 どういうわけか、男達は叫び、女達は泣いた。


「おぉぉぉっ!リュウタロウ万歳!」

「この世界の救世主だ!」

「リュウタロウ様こそ次期国王に相応しい!」

「英雄王リュウタロウだ!」


 などと、少々持ち上げすぎではあるが、セブールの国民は魔族討つべしと思いをひとつにしたのだった。


「それともうひとつ、聞いて欲しい事がある。対魔族用に神聖騎士団を創設した。彼らには神託により選ばれた超エリート部隊だ。神の力を分け与えらた神聖騎士団は天族並の力を発揮する」


 神聖騎士団とは、メンゲルスの実験で成功した元神殿騎士団の事である。戦力として従軍する為にこの様に吹聴しなければならなかったのだ。



 ◇



 王宮のある一室。

 演説を終えたリュウタロウ達は集まり、今後の計画について話し合っていた。

 部屋にいるのはリュウタロウ、スピカ、アルゴ、レグルス、マリーの五人だ。リュウタロウ以外は邪神の使徒である。なんとも酷い勇者一行である。


「大した演説でしたねリュウタロウ。役者にでもなれるんじゃないですか?」


 アルゴが満足気に微笑み、想定以上の働きを見せたリュウタロウを冗談で冷やかす。


「ただのテンプレだよあんなの。ボクの世界じゃ誰でも知っているセリフを吐いただけさ」


 要はパクリ演説である。

 某国民的アニメの独裁者のセリフを思い出して喋っただけだが、国民に響いたので結果オーライだった。


「それでこれからどうすんだ?魔国に乗り込み全面戦争か?」


 今すぐにでも行きそうなテンションでレグルスが、身を乗り出す。


「いや、先ずは亜人国セイコマルクをローゼンの兵を使って落とすのが先だ。そのあとセブール正規軍をローゼンに集結させてからファミリアの出兵を促すつもりだ」


「それでそれで?」


「戦場は間違いなく死の大地になるだろうから、我々はその隙に一気に魔国に向かう」


「一気に向かうってどうするんだい?デストロイ要塞は抜けれないんじゃ?」


「海路で向かう」


「それこそ無理があるのでは?」


 スピカが話しに加わる。

 海路には巨大な魔物が生息しており、沖に出ると船ごと破壊される為に、この世界に船で航海はほぼ無い。

 港町の漁業くらいしか無いのである。


「魔物を狩りながら進めばいい。我々なら可能だ」


「ま、まぁ出来なくはないか……でもかなり厳しい航海だな!」

「魔王軍約10万の魔物と戦って要塞まで攻略するのと比べれば楽だろう?それに上手く行けば禁断の地は無血開城状態だ。アルテミス様を解放すれば、この戦争は勝利したも同然だ。リュウタロウそれでいいか?」


「ん?ああ構わない。アチナを殺るのはボクだ。それだけ叶えば後はどうでもいい」


「さすがアルゴっち。セブールの全軍を捨て駒にするとは鬼畜すぎるイケメンだね♡」


「捨て駒とは人聞き悪いな。これは単なる陽動作戦だよ。見捨てるわけじゃない。その為に神聖騎士団も死の大地に派遣するのさ」


「ふーん。ホントかどうか分からないけどね〜」


 マリーはそう言って部屋を出て行った。



 人族と魔族の戦争が始まろうとしていた。



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