3話 『撤退戦』

 

 ミカエルは聖都王宮、謁見の間にて国王アーロンにかなり強引な手段にて面会した。


「余の首を取りに来たか魔王ミカエル」


「さすがは賢王と誉れ高きアーロン王。逃げずに玉座を守るとは立派ね」


 逃げなかったのでは無く、逃げれなかっただけではあるが、なんか今更逃げても捕まりそうだから、アーロン王は王としての威厳を優先する事にした。本当は逃げたいのだが。


 そんな事は知らないミカエルは更に続ける。


「アーロン王。首を取ると言ったのは冗談よ。少し試させてもらったわ」


「試すとは何か?」


「交渉するに値するかどうか……と言ったところかしら」


 ミカエルはそう言って階下かに片膝をついた。それに習うようにジスとシズカも続く。


「アーロン王。この戦争は無意味です。今一度休戦条約を締結してはいただけませんでしょうか?」


 まさかの魔王ミカエルからの休戦条約の申し入れだった。アーロン王からすれば、休戦条約を破り聖都襲撃を行ったのは魔族側だと思っている。

 事実、聖都襲撃時に魔王ミカエルと勇者リュウタロウの対決があった。その上、教会本部も半壊してしまったのである。魔族側の条約違反と言っても疑う余地はない。


「条約を無視したのは、そちら側なのだがな」

「それは違います。あの時、聖都に居たのは間違いありません。しかし、決して襲撃の為ではございません」


「では何だと言うのだ。魔王ミカエル自ら聖都で何をしようと考えた。結果、聖都は燃えたのだ」


「教会は裏で邪神の使徒と繋がってます。勇者も同様です」

「馬鹿な!そんな戯れ言、余が信じるとおもうか!」


「アーロン王!邪神の使徒は教会を操り、邪神復活を目論んでいます!この戦争は操られてるのです!邪神の使徒は聖女スピカと神殿騎士団長アルゴ。その他に二人。戦争を始めてしまえば、奴らの思うツボです。その隙に邪神は復活します。そうなってからでは遅いんです。どうか、考えを改めて下さい」


 少しの沈黙のあと、アーロン王が口を開こうとしたその矢先―――


 アーロン王の胸から刃がスっと生えた。


「アーロン王!」


 ミカエルが叫んだ時には既にアーロン王は絶命していた。そして、胸に突き刺さった刃が背後から引き抜かれていく。


「後ろに誰か居るわ!」


 ミカエルが立ち上がると、ジスとシズカがミカエルの前に出て武器を構える。


 玉座の背後から現れたのは、聖女スピカだった。


「スピカ!あんたなんて事すんのよ!」


「アーロン王は残念ながら、亡くなりました。魔王ミカエルの手によって……ですね」


 突然のスピカの登場によって交渉相手を失うミカエル。

 このままでは戦争継続は免れない。

 それどころか、アーロン王殺害の汚名を着せられてしまう。

 ミカエルが次の一手を模索する間を与えないかの様に、王国聖騎士団が王亡き謁見の間に続々と現れ、瞬く間にミカエル達三人は囲まれてしまった。


「おのれぃ!魔王!陛下をその手にかけるとは卑劣な!決して生かしては帰さんぞ!スピカ様!陛下の亡骸を安全なところへ!ここは我々聖騎士団が!」


 スピカに格好良い所を見せたい割りと暑苦しい大柄の聖騎士団長、ローランが立ち塞がる。

 更に芝居じみた立ち振る舞いでミカエルを煽る。


「お前達は手を出すでないぞ!魔王ミカエル!この聖騎士団長ローランがお相手致す!国王陛下の敵討ち、受けられよ!」


「何この暑苦しいクソマッチョは!大体アーロン王を殺ったのは私じゃな……」

「黙れ黙れぇい!この期に及んで国王陛下殺害を認めないとは、潔く無し!所詮はただのヒステリック女魔王めが!」

「ヒス……!」


 ミカエルもまさかここまで面と向かって煽られるとは思ってなかったのだが、意外にもジスより先にシズカがキレた。


「話しの通じない脂臭い騎士風情が!我が主を愚弄するとは許せません!この剣で切り刻んで差し上げます!ミカエル様、撤退命令を!」


「でも!」

「ミカエル様、ここはジスとシズカで食い止めます!だから行って下さい!大丈夫です。必ず合流します」


「分かったわ。ここは任せる!」


 そう言ってミカエルは旗艦ミカサに戻った。



 ◇


 旗艦ミカサ艦橋ブリッジ


「作戦は失敗よ!今すぐ撤退するわ!後退信号上げて!」


「り、了解しました!」


 旗艦ミカサから撤退命令の信号弾が上がると、それを確認した戦艦アサヒ、コンゴウは回頭をはじめる。


 激しい砲撃戦の中、回頭しつつ上昇を始めるが、そこに追撃を行おうとする男がいた。


「逃がすかよ!」


 金色の無駄に目立つ鎧を身に纏った金髪の男は撤退を始める魔国艦隊に攻撃を加えようと、聖都の大通りをひた走り、勢いをつけて跳躍した。


 十二天将のレグルスだ。

 レグルスは上昇している戦艦アサヒに直接攻撃を仕掛ける為に飛んだ。

 普通の人間ならまず、やろうとすら思わない事であるが、身体能力はこの世界の常人を遥かに凌ぐ。


 低空飛行と言えども、高度は数百メートルの高さである。そこに人間魚雷の如くレグルスが迫る。

 これには流石に戦艦アサヒの乗組員も驚く。


「か、艦長!なんか変な奴が接近中!」


「くらえ!超絶無敵のレグルスパンチっ!どおりゃああああああああぁぁぁ!」


 対空砲の弾幕をかいくぐり、レグルスパンチが戦艦アサヒの横っ腹、右舷の真ん中辺りに炸裂する。

 この世界においては戦艦を殴った初めての人となったレグルス。普通の人は殴る発想すら無いだろう。

 戦艦アサヒの乗組員もまさか素手で攻撃されるとは思わなかったに違いない。だが―――。


 戦艦アサヒにズウウンと衝撃が走る。


「なんか揺れたなの!被害はどうなの!」


 戦艦アサヒ艦長に就任した邪竜バース(人型)は艦長席から少し落ちそうになるほどの衝撃に驚く。


「右舷中央小破!航行に問題はありません!」


「殴った奴を撃ち落とすなの!ぶっ殺すなの!」


「了解!対空砲各座、射撃開始!」


 船体の両側面にある対空機関砲が火を吹き、戦艦アサヒを殴った反動で落下中のレグルスに集中砲火を浴びせる。


「うおっ!コイツはやべぇな!しゃーねぇ、こうなったら銀翼で……」


 レグルスが天使の翼、通称銀翼を展開しようとしたが。


「レグルス!いけません!乗って!」

「スピカ!」


 聖女スピカが銀色の竜を駆り、レグルスを回収した。

 王宮での一件後、アルゴの命令で魔国艦隊追撃の為、銀竜で飛び立つ前に、レグルスが無謀にも戦艦アサヒに向けて跳躍したのを見て慌てて来たわけである。


「レグルス、気を付けて下さい。この戦いは国民に見られている事を。あくまで人として戦って下さい。その上で力を示して下さい」

「そうかすまねぇ!」




「ふふ、なればこそ我ら勇者の力を国民に示す好機。わざわざ魔王ミカエルがお膳立てしてくれるとは、後で礼をしなければなりませんね」


 神殿騎士団長アルゴが聖都城壁に立ち、大弓を構え、後退する旗艦ミカサに向け矢を三本放った。

 その矢が超高速の弾道ミサイルの如く旗艦ミカサの艦艇に直撃した。


「後部被弾!機関部炎上!高度上がりません!」

「くっそ!いいから全速前進!」


 更に前をゆく戦艦アサヒに光の雨に晒される様相が旗艦ミカサの艦橋から見える。


「ホーリーレイン!」


 スピカの神聖魔法が戦艦アサヒの主砲を破壊した。

 戦艦アサヒは炎上し、傾きながら落下して行く。


「せ、戦艦アサヒ中破!」


 やはり神聖王国において最大の脅威は十二天将であった。それぞれが超人的な身体能力とスキルを要し、10万の敵と戦うより脅威かもしれない。


 魔国艦隊の脅威を見せ、外交を有利に運ぶ策が裏目に出たと言っていい。

 魔国の作戦は完全に失敗した。


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