2話『砲撃開始』
宣戦の布告はまだされてはいない。
だが、宣戦布告の合図とも言える砲煙が上がった。
この日午前、朝日が昇ったばかりの朝靄の中、セブール王国聖都上空で戦争の火蓋が切られた。
「距離10000メートル!」
「砲撃準備!主砲副砲一斉に放て!各艦砲撃主タイミング合わせろ!」
「了解!距離10000メートル!カウント10…9…」
各艦に目標距離を合わせて旗艦ミカサを始めとする大口径の大砲による一斉砲火が始まった。
砲身から黒煙と轟音が大気を揺らす波動となり、セブール王国の航空騎兵戦隊は散開して、その砲撃の弾道をただ見つめた。
魔国艦隊の主砲から放たれた弾頭がキリキリと風切り音を立てながら。放物線を描き聖都中心部目掛けて飛んで行く。
旗艦ミカサの
全弾が目標よりかなり手前で大いに爆ぜた。
聖都セブンスヘブンの防御結界により全弾が消滅するのを確認すると、艦橋にため息が漏れた。
「全弾、結界にはばかれました!」
「見りゃ分かるわよ!……結界は復旧済み、徹甲弾は効かない。どうしようかしら?」
ミカエルは結界が復旧済みの可能性も予想済みであったが、爆発力の高い焼夷弾よりも貫通性の高い徹甲弾で望んだが、結果は見ての通りだ。
「ミカエル様、やはりアレをやるしかないかと」
「あ、アレね?仕方ないわね……作戦をプランAからBに変更!」
旗艦ミカサには『超爆裂波動砲』が搭載されている。
通常の主砲とは違い、魔力供給が必要な砲であるが、ミカエルの膨大な魔力を圧縮して放出する。
と言うのが『超爆裂波動砲』だ。
「超爆裂波動砲スタンバイ!」
艦底のハッチが開き、船体の半分は有ろうかと言う巨大な砲身が姿を現す。
艦橋内に設置されている波動砲コントロール席にミカエルが座り、超爆裂波動砲の魔力炉に自身の魔力を流し込む。
「んっ!」
その隣りの席はジスが座り、射撃を担当する。
「魔力充填開始!」
◇
一方、セブール王国聖都セブンスヘブン、王宮。
「魔族共め、なんて船を造ったのだ!まるで空飛ぶ要塞ではないか!」
魔国艦隊を双眼鏡で確認すると、アーロン王は想定外の船の強固さに驚愕する。
セブール王国の最新技術を用いた航空騎兵が全くその実力を発揮出来ておらず、魔国艦隊の前には無駄となっている。
魔国艦隊の砲撃は防御結界によって防がれ、聖都は無傷ではあるが、聖都は大混乱に陥っていた。
「あれを撃ち落とす事は出来んのか!」
「我が方の如何なる砲を用いても魔族の船まで届く事はかないません。加えてこの強風にて」
セブール王国側から見ると完全に向かい風だ。
ただでさえセブール王国の砲は良くて飛距離5000メートルであり、魔国艦隊は距離にして8000メートルは先から砲撃して来ている。圧倒的な飛距離の差であった。
「魔族ごときが、あの様な船を造りよるとはっ!勇者はっ?リュウタロウのヤツらは何をしておるのか?早く呼び出せぃ!」
「それが、先日の騒ぎの際に負傷されたとかで、療養中との事でして……」
「使えんな!なんの為の勇者なんだ!」
◇
「魔力炉温度上昇!出力臨界突破です!よろしいでしょうか?」
「ええ……だ、大丈夫よ、ジスに任せる」
「了解しました!超爆裂波動砲発射!」
ジスが超爆裂波動砲のトリガーを引くと、艦底の砲身から高魔力の波動砲が放たれた。
発射の瞬間、眩い輝きが全てを打ち消したあと、一条の光が聖都を襲った。
波動砲が聖都の結界に直撃すると、結界は蒸発して消え失せ、更に爆風が聖都に吹き荒れた。
「結界破壊に成功!やりました!ミカエル様?」
「うぅ……魔力かなり持ってかれたわ……えー……アサヒ、コンゴウは面舵ぃ!左舷から砲撃開始!結界の再展開を阻止して!ミカサはこのまま全速前進!聖都に乗り込むわよ!」
「了解!」
戦艦アサヒ、コンゴウは縦一列となり、聖都を周回する進路へ、旗艦ミカサは聖都中央に突っ込む形で進路をとった。
聖都周辺に接近する戦艦アサヒ、コンゴウには無数の砲弾が飛び交う砲撃戦となった。
旗艦ミカサは激しい反撃に合うものの無傷で聖都中央部、王城に接近した。
◇
王城内
「随分早いお出ましですね。やはりリュウタロウを無力化した事で好機と見たようですね」
紫色の髪をした美丈夫の騎士が部屋の窓から魔国艦隊に砲撃されている聖都を眺めて呟く。
「アルゴ。これも想定内ですか?」
その背後に立つ銀髪の長い髪をした人形の様に表情の無い女がいた。
「いえいえ、流石にこの早さには驚いていますよ。魔王様は気が短いらしい。それに」
「それに?」
「まさかあんな火力を持った船が三隻とは、予想を遥かに超えていました。事前の報告ではそこまでの脅威とされていませんでしたよスピカ」
「私が虚偽の報告をしたと?」
「そうは言ってませんよ。それとも思い当たる節でもあるのかな?」
「……」
セブール王国側に魔国の戦艦の情報を流したのは聖女スピカである。北の大陸にてエイル達と遭遇し、乗艦した経緯から艦の砲の数や、その航行能力に至るまで根掘り葉掘りアルゴに伝えた。だが今となっては古い情報ではある。二番艦、三番艦についてはスピカも知らぬところだった。
「まぁ、
「それは命令でしょうか?」
「フフ、命令なんて堅苦しいものじゃないよ。ただのお願いだよ。君と私の仲だ。次の手は分かるね?」
その質問にはスピカは無言で頷き、バスローブを脱ぎ捨て法衣に着替えた。
そして部屋を後にした。
「私の所に戻って来て嬉しいよスピカ……」
◇
旗艦ミカサは船体ごと王城に突っ込み、王城の玉座の間に風穴を大きく開けた。
「船ごと突っ込んで来るとは!」
アーロン王はその玉座から身を乗り出し、慌てて立とうとするが突如、持病の腰痛で立ち上がれず逃げ遅れた。
護衛の兵士や側近達は、我先にへ普段見せない快速を発揮しピューっと逃げた。
やべぇ逃げ遅れたと慌てふためいてる所に旗艦ミカサから赤い軍服に身を包んだ魔王ミカエルが颯爽と現れた。
その背後には黒い軍服を来た少女が二人、ミカエルに付いて同じく現れ、アーロン王の元へと近付いて来る。
魔王からは逃げられない。
その言葉が示す様に正にアーロン王はそんな状態だ。
戦慄し、血の気が失せ、割りと高血圧だったアーロン王は一気に低血圧となる。
アーロン王は魔王ミカエルをその目で見るのは初めてであったが、直ぐにその少女が魔王ミカエルである事が分かった。少女と言うには妖艶さが際立ち、その威圧感は
、永久凍土の如く骨身にしみる程の覇気を感じた。
同じく王ではあるが、魔王ミカエルの前には自分の存在等、とても小さき存在でしかないと思えてしまっていた。
赤い絨毯の堂々と歩き、玉座の手前で立ち止まると、少し高い位置にいる玉座上のアーロン王を見上げ、魔王ミカエルが薄く紅を塗った唇を開く。
「お初にお目にかかります。アーロン王、私が魔王ミカエル・デストラーデ。その首、いただきに参りました」
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