幕間『妖精の国ミストリア2』
ノアとリオを刀鍛冶カネミツの工房に残して、妖精国女王ユーリに連れられ、森の宮殿へとやって来たセリスだったが、道中見かけるエルフの視線があまり歓迎されていない事に気付いてはいた。
その顔はまるで忌み嫌うものを見る様な顔付きである。
外の世界から来た同族とは嫌われているのだろうかと、セリスは考えながらユーリの背を見て歩む。
見失うと迷子になってしまうセリスだ。
宮殿と言っても外交的な事をしない国であるから大きめの屋敷みたいなもので、謁見の間とかがある訳ではなかった。ほぼユーリの私邸といった所だ。
「とりあえずそこ座って」
一応、応接間的な部屋に通されユーリに言われそれに従う。
「わたしに用とはなんだろうか?早くノア様達の手伝いに戻りたいのだが……」
「そうね。先ずはおかえりなさいセリス。あなたはこのミストリアで生まれたのよ。覚えていないかもしれないけど」
「何を言っている?私はファミリア王国で生まれ育ったはずだ!この国に来た事など無い!」
ユーリの発言に動揺するセリスはユーリを睨みつけるが、ユーリの表情は変わらず涼しいもので、セリスを見つめていた。
「まぁ、生まれたばかりの事で覚えていないのは当然でしょうけど、真実よ。この国で生まれた貴方はあまりにも特異な体質で生まれたために、この国から追放されたと言ってもいいくらいだったわ。忌み子セリス。この国では貴方はそう言われていたわ」
「特異な体質……それは……方向音痴の事だろうか?」
「違うわよ!貴方はその身に風の大精霊を宿して生まれてしまったの!そのために普通の微精霊が寄り付かない。今も貴方がいる事で森はざわついてるのよ。本当に迷惑極まりない存在よ!」
「大精霊だと……するとその大精霊のせいで私は精霊魔法が使えず、更に方向音痴と言う事だというのだな?」
「方向音痴は多分関係ないわ」
「むぅ……では一体どうすれば良いというのだろうか?その大精霊とやらに出ていってもらう様に頼むのもしゃくだが」
「出ていってもらうってアンタね……大精霊よ?せっかくだからその力を自分のものにしたいとか思わないの?これはチャンスなのよ?」
「む、そうなのか?どうすれば良い?」
「それには大精霊との契約が必要ね。分かるかしら?」
「いや、さっぱり」
「だろうと思ったわよ!ここじゃあれだから外出るわよ。ついて来なさい」
二人は森の更に奥にある神殿の様な石造りの建物へと入って行く。
ミストリアでは珍しい石造りの建物で、女王ユーリもいつからあるか知らない程古いらしい。
主にエルフが上位精霊と契約を結ぶ時に使用する。
石造りで頑丈に造らているのは、精霊の中には危害を加えて来る事もある為に、住居から離れた場所にあるらしい。
建物内は広く、詰め詰めならば1000人は入れそうな程であり、その中心には祭壇があった。
セリスは道中にユーリに教わった通りに祈りを始めた。
「我が体内に潜む精霊よ……我が呼びかけに応じ……出て来やがれこのうすら馬鹿野郎!……おい、本当にこれで良いのか?」
「大丈夫よ。たぶん」
セリスがユーリに声をかけた直ぐ後に、セリスの薄い胸の辺りがドクンとうねりを上げると、憑依していた何かが飛び出してその姿を現す。
その姿はゆうに20メートルは越すであろう巨大な精霊の姿であった。
「ななななっ!お前が私の中にいたというのか!」
『ふざけた呼びかけをしたな貴様!この私を大精霊と知っての狼藉か?』
「あっはははっ!本当に出て来たわね!久しぶりね風の大精霊ジン!」
『げぇっ!き、貴様はユーリぃ!貴様の仕業か!に、逃げねば!』
「逃がすか!ゴラァ!」
再びセリスの体内に逃げようととする大精霊ジンを、ユーリが力任せに殴り倒し、更に蹴飛ばして祭壇の部屋の隅へと追いやる。
セリスは状況を理解出来ずにただユーリが大精霊を殴る様を口を開けて見ていた。
大精霊も怯える妖精女王ユーリはまさに女王様だった。
「なんでアンタ私から逃げて、あの子に憑依したのよ!」
『だ、だって貴様…ユーリ様、使い方荒いじゃないですか!髪乾かすために呼んだり、雪止ませろとか!』
「うるっさいわね!私が悪いんじゃないの!リョーマが悪いの!」
ユーリと大精霊ジンの間に何があったか知らないが、セリスの体内に憑依したのはユーリが原因であるのは間違いないようだった。
「ジン。呼んだのは私の元に戻すためじゃないわ。セリスの力になってあげてくれるかしら?」
『本当ですか?もう殴ったりしない?』
「早くしないと殴るわよ」
『ヒィっ!分かりました!やります!直ぐやります!え、えーと…』
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ」
『えー、コホン。我は風の全てを司る大精霊ジン。貴様の願いに応じるとしよう』
ユーリとのやり取りで威厳はあまり感じなかったが、大精霊ジンが光となり消えた。
「どう?精霊の力は感じる?」
「あぁ、こんな感覚は初めてだ。多くの微精霊が集まって来る。ユーリ、感謝する。これでエイル達の力になれる」
湧き上がる様な精霊の力を得たセリスは歓喜し、用は済んだとばかりに出口に向かうが、ユーリに止められた。
「待ちなさい!まだ風の精霊だけよ。他にもいるから」
「え?」
セリスの精霊との契約はまだ続いたのであった。
◇
セリスが数々の精霊と契約(ユーリの脅迫)に励んでいる頃、ミストリアはまたも望まぬ客の侵入を許した。
「やっほーッス!ここが妖精の国ミストリアッスね!」
「やぁっと着きましたねぇ、疲れましたよぅ」
長身の青髪の女ははちきれんばかりのの胸部を揺らしズカズカとミストリア入国を果たした。
動く水害マリンである。
そのマリンに付き添って、と言うか付き合わされる形で魔国で待っている様に言われたにも関わらず、着いてきた法衣を纏う赤毛のシスターはティファだ。
「ティファ見るッス!セリスみたいな貧乳がたくさんいるッス!貧乳の国ッス!ヤッホー!」
「ま、マリンさん!声が大きいですよぅ。エルフさん達が睨んでますよぅ!」
ミストリアのエルフは人族社会とは無縁の生活をしているため、胸のサイズに劣等感を持ち合わせていなかったが、さすがにマリンの発言は種族的特徴を馬鹿にされていると感じ、100年ぶり位に殺意を持った。
エルフ達の殺意を感じとったノアが、カネミツの工房から飛び出して見ると、魔国にて留守番させていた迷惑海神マリンを発見。ため息が出る。
「はぁ、来ちゃったのねやっぱり」
「暇だったから来たッス!」
「ノア様すみませんですぅ!マリンさんを止められませんでした……」
「困ったわね。今は本当に一刻も早く刀を完成させなければならないの。構ってる暇なんて無いのよ」
「なんかやる事くれっス」
「そうね……なら聖都に行って結界塔を破壊して来なさい。大変かもしれないけど期待してるわ!」
ノアはかなり無茶な事を言ってマリン達を追い返す事に成功したが、マリン達はそれをやり遂げた。
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