番外編 『四月に君と嘘』


銀の翼一行は冒険者ギルドからの指名依頼で、ファミリア王国の王都に滞在していた。

冒険者として王都に来ているため、王宮の豪華な客室でタダ飯を得る訳にも行かず、宿をとって宿泊していた。


とはいえ、王国最高位勲章の英雄であるエイル達は、何処に行っても人気者であり、中々落ち着いた滞在とは行かない様だ。


指名依頼はゴブリンの討伐で、100体以上の群れとなっており、ユニーク個体も確認された為に、エイル達に声がかかったと言うわけだ。

ところが、あっさりと依頼を完了してしまったエイル達は、ギルドの検分待ちで、暇を持て余していた。

天使、魔王、海神、エルフ、牙狼の姫、凡人のパーティでゴブリン討伐など、ほぼ瞬殺で終わらせてしまったのだから仕方ない。


「ヤバい!ヤバい!ヤバい!」


「何がヤバいの?エイル」


「暇過ぎてヤバい!なんかする事無いかなー?」


「じゃあ……えっちな事する?」


「…………なんでそっち行く。しないし!」


「チッ!」

若干、目がマジだったね。


はっ?そう言えば今日は4月1日。エイプリルフールだ。

暇潰しに嘘でもついてみよう。




「ミカさん!俺、ユリくんと結婚するわ!」


「はぁ?な、何言い出すの?ちょっとダメ!やだ!」


「王妃なって子供たくさん作るわー」


「いやぁ!そんなの許さない!だったらファミリア王国滅ぼす!てかこの世界滅ぼしてやるぅ!皆殺しよ!」



「え、嘘嘘!嘘だってば!エイプリルフールだよ!」

皆殺しとか怖い事言わないでほしい。


「え?あぁ、エイプリルフールかぁ……騙された!悔しい!」


2人はエイプリルフールと言う事でしょうもない嘘で暇を潰していた。


「じ、じゃあ、えーと、ファミリアに宣戦布告して、世界征服するから!」


「あーそりゃ大変だー」

今更ついた嘘など他愛もないですね。

その時はそう思ってました。




その様子を盗み聞きしていた者が2人居た……



「え、エイルがユリウスと結婚だと!た、大変だ!ユリウスに確認せねば!」


エイル達の部屋の扉付近で盗み聞きしていたセリスは急ぎ王宮へと向かった。信じられない速さで。



そしてもう1人……



「ミカエル様が遂に世界を!こうしては居られないわ!今すぐ全軍に通達しなければ!」


屋根裏に潜んでいたジスは、やはり勘違いし、魔国への緊急連絡を試みた。



◇ファミリア王国王宮



「ユリウス!居るか!」


セリスは王宮内ユリウスの自室の扉を足で蹴り、吹っ飛ばしてアポ無し訪問をした。とんだ無礼者である。


「せ、セリス!一体なんだ?お前は静かに入って来れないのか?」


「うるさい!それよりエイルと結婚すると聞いた。本当か?エイルがユリウスと結婚して子供をたくさん産みたいとか言ってたぞ!このスケコマシが!」


「そ、そうか!遂に決心してくれたんだね!善は急げだ!至急式典をしないとだ!」




街ではその一報を受け、大騒ぎになった。


「号外!号外だよ!ユリウス陛下がご成婚!」


新聞の見出しは……ユリウス陛下遂に結婚!

お相手は竜殺しドラゴンスレイヤーエイル様!

ビッグカップル誕生!

既にお世継ぎがお腹の中に?


といった、胡散臭い週刊誌の様な記事ばかりであったが、国民はお祭り騒ぎになっていた。



一方、魔族国デスニーランドは……



「伝令!ジス様より、通信!ミカエル様、世界ニ宣戦布告サレタシ!至急、出陣セヨ」


こっちはこっちで、大変な事になっていた。



「聞いたか同胞よ!遂にこの時が来た!我らが至高なるミカエル様が世界の頂点に立つのだ!存分に働け!」


四天王ベリアルが、無駄にデカい声で全軍を奮い立たせる。


「「おぉぉぉ!!」」



「戦艦ミカサ、アサヒ、コンゴウ、発艦準備かかれ!」





「暇だから、散歩でもしようか?ミカさん」


「そうね。桜みたいなのも咲いてるし、花見がてら歩きましょ」


宿を出たエイル達に街の人が、声をかけて来る。


「エイル様おめでとう!」

「結婚するんだって?幸せになりなよ!」

「元気な赤ちゃん産んで下さいね!」


はて?一体なんの事ですか?

宿を出るなり、知らない人達に祝福される憶えもないエイルは首を傾げるが、偶然、春の風に吹かれて一枚の新聞が、エイル達の前に舞い降りた。


「ん?新聞?えー……け、結婚?俺が?ユリくんと?」


「何よそれ!さっき嘘って言ったじゃない!どうなってんのよ!」


ヤバい!何かミカさんがキレ始めました!


「い、いや俺にも、何が何だか……」


俺がオロオロしていると、ジスがやって来た。


「ミカエル様!全軍ファミリア王国に向けて進軍完了しました!さぁ!宣戦布告のご準備を!」


「……はい?」


そっちはそっちで、先程ミカさんのついた嘘が現実となり、迫って来ていた。

これわ……た、大変だ!


「ミカさん!どうしよう?結婚と戦争が一気に来たよ!」


「……ええ。何でこうなったのかしらね……」


「「止めなきゃ!」」


俺は王宮へ向かい、ミカさんは魔国方面へと向かった。

お互いにする事はもう1つしか無かった。



俺は王宮で、早とちりしたセリスと共に、ユリウス陛下に土下座謝罪して、結婚騒ぎは誤報であると国中に伝えてもらった。ユリウス陛下は残念そうだった。ごめんね。


ミカさんは進軍中の魔国艦隊旗艦ミカサに着艦し、頭から血を流してるジスと共に事態の収集にあたった。

ジスごめんなさい。



四月の始めについた嘘はエイプリルフールだからと言う言い訳はどうやら通用しないらしい。




教訓。嘘はよくない。




俺とミカさんは宿に戻り、事態の収拾でグッたりしていると、突然アチナがやって来た。


「エイル!ボクより先に結婚とかズルいよ!招待状も届いてないよ!ボクだってまだフレオニールの両親にすら会ってないのに!」



「いや、しないから……」




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