幕間 勇者だった人。
神聖王国の聖都より東に行った所にある古城。
マリーの所有している古城ではあるが、ほぼ邪神の使徒のアジトみたいなものである。
「え?リュウタロウ弱くなったの?」
うなだれるリュウタロウを見下ろし、アルゴから経緯を聞いたユリアが吹き出しそうになるのを抑えて改めて聞いた。
「スキルは没収。レベルもリセットされてしまいましてね。やれやれどうしたものかと」
「だっさ!散々その力で私たちに酷い事した罰だよ!これじゃ役に立たないじゃん!どうやって生活して行くのよ!」
ユリアがリュウタロウを蹴飛ばすと、軽く壁まで吹っ飛んだ。
「ぐえっ!」
その蹴りで、立ち上がる事も出来ないほどに弱いリュウタロウを見てゲラゲラと笑い出す三人の妻たち。
屈辱的な状況でリュウタロウは反論すら出来ない。
更に、アチナがおまけでかけた呪いにより、男性機能の低下。勃起不全にされていた。
これには猫耳族のリズもがっかりした。
「リュウ様から夜伽とったらリズは居る意味ないにゃ」
と言って去ろうとしたがレグルスが引き止めた。
「おい!リズ!ま、待てよ!俺じゃだめか?」
まさかのレグルスのアタック。
「え?でも……」
とか言いながらも頬を紅く染め、満更でもない雰囲気になっていた。
「ふざけんな!何いい雰囲気作ってんだよ!僕がこんな目にあっているのに!大体こうなったのは誰のせいだよ!お前らが邪神の使徒だからだろうが!そいつら人間じゃないんだぞ!」
リュウタロウがレグルスらを邪神の使徒であると暴露すると、ユリア達が凍りつく。
「え……それどういう事?」
「そいつらは邪神を復活させる為に僕たちに近付いたんだよ!そうだよな?スピカ!」
「……それは違います。アルテミス様を復活させる為に勇者を召喚しただけです」
「わ、私らをどうするつもりなのよ!」
「そうですね……正体を知ってしまったからには、死んで貰いますかね?心苦しいですが仕方ありません。リュウタロウ様も役に立ちませんし、殺しちゃいます?」
スピカが使徒化し剣を構え、その剣先をリュウタロウに向ける。
「ま、待て!コイツらはどうなっても良いが、僕だけは助けろ!な、なんでもするから!頼む!」
「ちょっとリュウタロウ自分だけ助かろうとか!子どもだっているんだよ!」
「僕の子じゃない!」
「「「お前の子だよ!」」」
自分が助かる為なら妻や子ですら犠牲にするリュウタロウを見てもスピカは顔色一つ変えずにその剣でリュウタロウを刺そうとするが、それをアルゴが制止した。
「なぜ?邪魔をするのですか?この勇者だったニンゲン等、生かしておく意味ありません」
「まぁ、待て。折角リュウタロウが、何でもすると言ったのですよ?使わない手はない。それにまだ勇者です」
「ではまだ生かしておくと?では他のニンゲンは?」
「他の方も殺してはいけません。どうも女性を殺すのは苦手でしてね。それに賑やかなこの生活が案外気に入っているんですよ。ですからスピカ、剣を抑えて下さい」
スピカは表情を変えず、アルゴに従う様に剣を鞘に納めた。
とりあえず死は免れたリュウタロウ達ではあったが、スピカの豹変と自分達の置かれた状況に安堵等出来ず、ただ震えが止まらなかった。
アルゴの所有する【支配の宝玉】でスピカの再洗脳された思考はアルゴの予想よりも冷酷な道具と化していた。
もう彼女の中の聖女は居ない。
「さて、私達真なる神の使徒として活動しているわけですが、リュウタロウ貴方には神殺しの剣となって頂く予定でしたが、大分予定が狂ってしまいました。アチナの使徒を殺す事は出来ましたが、その代償は想定外でした」
「女神アチナ……ぐぐっ!」
アチナの名が出るとリュウタロウは憎悪に満ちた顔になり、拳を強く握りしめた。
「かなりアチナを恨んでいるのですね。まぁ当然でしょう。貴方から全てを奪ったのですからね。どうします?その手でアチナを殺したくないですか?」
「殺したいに決まってるだろ!でも無理じゃないか!こんな……弱い身体で何が出来るってんだよ!」
「まぁ、今のリュウタロウでは神どころか、街から出たら死ぬくらいに弱いですね。そこで提案なのですが」
「なんだよ!」
「リュウタロウ……人間辞めてみませんか?」
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