22話「散らす華」

 

 俺たちは町の混乱に紛れ、セイクリッド邸に戻った。

 アイナが出迎えてくれたのだが、まるで生き別れた妹と再会したかのようなハグをされた。


「エイル!よく無事で!お姉ちゃん心配したんだからね!」

 あー、そうだった。コイツ姉設定だった。

 なんか何ヶ月も帰って来てない気がするのは気のせいだろうか。戦い続きで日にちの経過があやふやだ。


「あー、姉様ただいま戻りました」

 とりあえず、姉妹ごっこに付き合ってやると。


「ご主人様の姉ちゃんッスか?ヤバっスあんま似てねッス!」

 めんどくさいマリンが反応してしまった。

 流石にアイナも驚く。なんせ服装が、この世界には無い全身タイツなのだ。全裸で街中の歩く訳にも行かず、ミカさんが出したのがこれだった。絶対他にもあるはずなのに悪意を感じる。

 更にはマリンの規格外の胸に釘付けになるアイナ。

 多重の衝撃で、よく喋るアイナも絶句。完全に沈黙した。

 更に。


「久方ぶりの実家だよ。うんうん。あまり変わってないかな?300年ぶりだけど」

「それは中々感慨深いですな。私には帰る家も無いですから」

 まるで我が家の様にアチナが、玄関を抜けリビングルームにスタスタと入って行き、その隣りにはまたしても規格外の胸を揺らす剣聖椿ちゃん。

 その後にぞろぞろと、ミカさんをはじめとした銀の翼メンバーが入って行く。


「あぁ!なんかノド渇いたわ!アイナ!酒持って来い!」

 ミカさんが、ソファに座るなり酒をご所望です。


 その傍若無人なミカさんの態度にアイナも反論する。


「はぁ?何言ってるのかしら!貴方、うちのメイドでしょう?メイドが私を使うなんてありえませんわ!」


「エイル、コイツ黙らせてくれない?」


 ミカさんは不機嫌です。激しい戦闘の後で気が立っているのかもしれない。


「ね、姉様実は……」


 アイナにミカさんが魔王ミカエル・デストラーデである事と、女神アチナに剣聖ツバキ、銀の翼メンバーについて説明した。

 黙るどころか失神しておとなしくなった。


 それはさておき、アチナから大事な話があると、現セイクリッド家当主ファビオが呼び出された。


「ファビオ、今回はエイルが世話になったね。それとすまない。恐らくセイクリッド家は取り潰しになるだろう」

「え……?そ、それは一体どう言う事でしょうか?この騒ぎと関係がお在りでしょうか?」


「うん。半分はそうかもしれない。もう半分はボクが教会を敵にまわしたからかな。じきに来ると思うよ神殿騎士団の連中が。これは亡命した方がいいね」


「それで、わ、私達は何処に行けば良いのですか?」


「ミカエル。君の所は?」


「うち?無理ね。魔国が受け入れたら人質取られとか言って来るでしょう?」


「うん。そうかもしれないね。ならセイコマルクはどうかな?一応中立国だし」


「セイコマルクはダメなのです。神聖王国に対して良い感情を持たない人が多いのです。最悪リンチされてもリオは責任取れないなのです」


 人族絶対主義の神聖王国と亜人国家の溝は深いらしい。

 それにしても、リオがこんな事普通に言える様になるとは身体だけじゃなく、頭の成長著しくてなんか嬉しい。

 頭の方も追い越されてしまうのか?


「それじゃ、ファミリア王国しかないな。エイル、確か王都に屋敷あるよね?ひとまずはファミリアに亡命って事で良いかな?良いよね?」


「え?あぁ、多分大丈夫だと思うよ、ユリウスならなんとかしてくれる。セリス頼める?」


 ここはファミリアの騎士であるセリスに任せよう。


「任せておけ。ユリウスに拒否権など与えない」


「じゃ、これで亡命の件は大丈夫だね。それと……」

「ちょっと待って下さいよ!兄は……レオン兄さんはどうなるんですか?神殿騎士団に居るんです!」


 あっ、居たねそんな人。

 養子の俺にも一応兄って事になるよね。最初に会ったきりだから忘れてたよ。


「捕まってる可能性が高いね。ひょっとしたらもう……」

「そんなァ!」


「俺が助けに行って来ようか?一応、兄妹だし?」

「いや、エイルはダメだ。連中エイルが死んだと思っているはずだよ。ならばそう思わせておいた方が良い」


「それなんだけどさ……なんで俺死んだのに生き返ったの?椿ちゃんが俺勇者みたいな事言うし」


「あー……まぁそういう事だよ」

「どゆこと!」

「だから……どうやらエイルは勇者だったって事になる。勇者システムが証明している。本来なら召喚されていたのはエイルだった筈。イレギュラーな事なんだけどね」

「はぁ……」


 セイクリッド家は今とんでもない事になっている事にアイナは再び失神寸前であった。

 女神アチナ。魔王ミカエル。剣聖ツバキ。そして妹が勇者。普通に生きていたら、まず出会わない称号を持っているメンツが揃っている。


「早く酒持って来なさいよ!」


「お腹空いたなのです」

「すまんが適当に肉とか持って来てくれないか?」


「なんか紐ないっスかー?貝殻付けてないと落ち着かないッス」

「マリンさんノーブラにタイツはダメですよぅ」


「もうカツラとってもいい?なんか痒いんだよね」

「エイル長い髪も可愛いわよ♡」


 それぞれが自由過ぎて話しが進んでる気がしないでもない。レオン兄さんの件はどうした?

 話しが脱線してから戻る気配がない。結局この人達は何しに来たのだろうかとアイナは半ば諦めの表情で立ち尽くしていた。


 ◇


「ところでシュリがいないわね」

 酒瓶を三本程空けた辺りでミカさんが、思い出したように今更な事を言い出した。


「シュリなら自室で寝てますよ。屋敷の前に倒れていたので、運びましたけど。どうやら王宮の地下牢に居たとか」

「なんですって!シュリが投獄されて監禁陵辱されていたですって!許せないわね!もうこれ戦争ね!」


 ミカさんが突然激怒して酒瓶砕け散った。

 瓶のまま飲むなよとか色々言いたいが、かなり酔っているみたいで怖くて言えない。

 それに地下牢に居たとしか聞いてないのに、監禁陵辱に勝手にされた挙句、戦争の火種を無理くり作るミカさん。神聖王国が可哀想です。


 自力で脱出したのだろうか?

 詳しい事はシュリの回復を待とう。


「それで、この後はどうするの?俺死んじゃった事にしたらどこ行けばいいの?」


 アチナに今後の方針を尋ねる。


「エイルは私と一緒に魔国に来ればいいじゃない。はい解決!」


「ミカエルそれはダメだ。エイルを戦争に巻き込まないでくれよ。それにあくまで邪神復活の阻止のためにボクは協力するんだ。魔国のためじゃない」


「でも結果同じみたいなものじゃない。神聖王国に使徒が居るんだし」


「でも、それはそれ、これはこれって事さ。だからエイルには勇者の試練を受けてもらう。場所は須弥山。椿ちゃん頼んだ」


「うむ。任された。その為の巫女だからな」


 巫女?なんの事だかわからんけど、とりあえず試練ってのをするのか。

 今より強くなれるかな。


 リュウタロウは倒した。

 今は何処にいるか知らないけど、脅威じゃなくなったそうだ。

 勝ったとは言えない戦いだった。むしろ負けだよ。俺とミカさんだけでは勝てなかった。

 アチナが来てくれなければ全滅していた。

 次こそは……って、ないのか。もうリュウタロウに会う事も無いだろう。



 ◇



 今日一日で色々な事があり過ぎた。

 体力的にも精神的にも疲れた一日であった。

 あのあと直ぐに須弥山に向かうと言った椿ちゃんにミカさんが駄々をこねて、明日向かう事になった。


 久しぶりのベッドで疲れた身体を癒したい。

 だけど……休ませてくれそうにない魔王が寝室に入って来たのだ。


「フフフ……扉には強力な結界を張ったから邪魔は入らないわ♡」


 マリン対策は完璧らしい。だが通用するかは不明だ。マリンに常識は通用しないのだ。


 バスローブを脱ぎ捨て、下着姿になったミカさんが獲物を捉えた女豹みたいにベッドに寝そべる俺の元へ近付く。

 髪をそっと撫でながら、ミカさんの柔らかな唇が俺の唇に触れる。

「ちゅっ……」

 舌先と舌先が触れると微かな水音が部屋に響いた。


「今日は……最後までしちゃおっか?」


 俺が無言で頷くと、ミカさんの舌が激しく俺の中に入って来た。


 ―――

 ――――――

 ―――――――――


 翌朝、早くに目が覚める。

 ミカさんの眠るベッドから降り、脱ぎ捨てられた下着は洗濯カゴに放りこんで、真新しい下着を履いた。


「まだヒリヒリするな……」


 下腹部に残る痛みはまだミカさんとの余韻の様でもあり、何か新しい自分に生まれ変わった気もした。





 私、女の子になっちゃいました。




「セリスおはよう」


「ん、早いなエイル。よく寝れたか?」


「う、うん。まぁ……はは」


「エイル、歩き方が変だぞ?……まさか!ひょっとして!おのれミカエルぅぅ!」


 セリスが血相変えて二階に走って行った。




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