21話『勇者から凡人以下へ』」

 

 エイルをその手にかけようとした所で、遥か上空から光の槍がリュウタロウを串刺しにした。


「っ!なんだ?抜け……ない!」


「はじめましてだね勇者リュウタロウくん」


 リュウタロウが顔をあげると声の先には、白い女が立っていた。白金色に輝く長い髪をなびかせ、透き通る様に白く輝く肢体に瞳だけが黄金に輝くその姿は白い女としか表現出来ずにいた。


「だ、誰なんだお前は……」


 確かに、今の今まで見た事もなく、知らない女であるが、何故だか分かる。ただそれを自ら口にしたくなかったリュウタロウはその女に問いた。


「ボクはこの世界の管理者……女神アチナだよ」


「くそっ!神か!その神が何してくれているんだッ!僕は勇者だぞ!」


「ボクはね……怒っているんだよ。ホントはね子どものケンカに親が出るのは良くないとは思っていたし、何より下界の事はあまり干渉したくないんだ。キミが元の世界で人間を殺害した罪は、勿論この世界では関係ないし、裁く事は出来ない。この世界で行った悪行も裁くのは国家の法であってボクが裁くわけにもいかない」


「だったら出て来んなよ!」

 リュウタロウのごもっとなツッコミが響くが……。


「だけどね、ボクの大切な娘であるエイルは別だよ」


「娘!エイルが?」


「あぁ、一人娘だよ。前世は男だったけども。それと―――そっちのキミ、確かアルテミスの使徒だよね?」


「……ええ、よくご存知で。アルテミスの使徒、射手座サジタリウスです」

「アルテミス!って邪神の使徒だと!どういう事だ?」


「ほう……やはり、飾りの勇者は何も知らない……か。キミはね、利用されているだけだよ、邪神復活の為だけにね。君の周りにいる仲間……キミが仲間だと思っているアルゴにスピカ、レグルス。あと一人いるね」


「まさか、マリーもか!一体どうして……?」


「そんなの邪神復活しかないじゃないか。そうだろう?アルゴくん」


「まぁ……そうですね。我々の目的はアルテミスを復活させ、この世界を取り戻す事」

「お前らは……僕を騙していたのか!スピカも……」


「哀れだね〜。何にも知らないで今まで好き勝手やって、異世界召喚されて俺TUEEEE、ハーレムバンザイ!って感じだもんね♡ねぇ、今どんな気分なんだい?」


「クッソォォォっ!」


「無駄だよ。キミの剣はボクには届かない。これでも一応神様やっているんだ。ボクの纏う神威は絶対だよ。さて……キミに罰を与えないとね♡」


 無邪気な微笑みがリュウタロウを恐怖させる。

 リュウタロウの額から汗が流れ顎を伝う。


「罰……?僕をどうする気だ!殺すのか!神が勇者を!」


「殺さないよ。厄介な事に殺しても大した罰にならないからね。さて……キミのステータスはと……うわぁ、レベルカンストかぁ、強い訳だね。あと……キミはあれだね、変なスキルをたくさん持っているね。特にこの女の子と親密な行為で経験値取得とかおかしいよね!ろくに活動していないのに強い理由が分かったよ!うん。没収ね」


「ふざけんなッ!この!」


「平伏せ」


 リュウタロウがアチナに飛びかかろうとするが、アチナの強烈なプレッシャーに潰され地に這いつくばった。


「アルゴッ!てめぇ何さっきから黙っているんだよ!助けろ!」


「すみませんねリュウタロウ。私もそうしたいのですが、私に向けられた殺気が二つありましてね、無理です」


 今にも飛びかからんと、セリスとマリンが涙を流しながら、アルゴを睨みつけて武器を向けていた。


 次々とリュウタロウのスキルを没収して行くアチナ。

 魅了、絶倫、改変、マジカル× × × ……。


「それと、レベルはリセットさせてもらうよ。強くなりたければ地道に魔物でも倒しなさい。ゴブリンも倒せそうにないけどね。ぷーくすくす☆」


「ちくしょう……くそぉぉおッ!」


 リュウタロウの叫びが虚しく響く。


 全てのスキルを失ったリュウタロウに脅威などないとばかりにアチナが縛りつけていた神威を解く。


「まぁこれからは凡人として生きていくんだね。でもスキル一つも無いんじゃ凡人以下だけど。ふふっ。ん?」


 その時、一瞬辺りが闇に包まれた。

 闇が晴れると居たはずのリュウタロウとアルゴは消えていた。


「逃げられたか……まぁいいか。さてと、ミカエルは無事かい?エイルのお友達特典で治してあげるよ」


 アチナがセリスとミカエルの所に近付く。


「ミカエルは既にもう……」


 セリスがそう告げて顔を下に向けて涙を落とす。

 その肩は震えていた。


「えっ?マジ?あちゃー……まいったね。蘇生とか無理」

「えっ?無理なんですか?」

「無理無理、神でもそこまで全知全能ではないよ」

「てっきり何とかしてくれるものと思ってたんですが!」

「そんなの言ってくれなきゃ分からないよ!」


 つまり、アチナがリュウタロウの相手をしている間にミカエルは死んでしまった。

 アチナがベラベラと喋っていなければ助かったはずであった。


「エイルは大丈夫なんですか?」


 ミカエルどころかエイルまで失ってしまうかもしれないと、セリスはこの駄目な女神に聞いた。


「エイル?し、死んじゃった……かも?」


 セリスとマリンが悲しみにくれる中、思いもよらない奇跡を目の当たりにする。


 ミカエルの薬指にはめられていた指輪が輝くとミカエルの身体が再生していく。

 そして―――。


「っと!戻って来たァァァ!……あれ?リュウタロウは?」


 普通に起き上がり、キョロキョロと辺りを見回すミカエル。その姿に一同全く声が出ない。


「何ボーッとしてるのよ?」


「いや……ミカエル、さっき死んだよな?」


 セリスは目の前にいる、とても死んだとは思えないミカエルに恐る恐る聞いた。


「うん。さっき死んだ。でも生き返ったわ。その指輪のお陰でね」


 地面に落ちている指輪を指さし、生き返った事を認めるミカエル。どうやら指輪に秘密があるらしく、皆に語り出した。


 エイルに貰った指輪は『再生の指輪』と言う魔道具らしく、一度だけではあるが、生き返る事が出来るらしい。

 ミカエルはエイルに指輪を貰った時に、こっそり鑑定して能力を知ったのだそうだ。

 それで自ら犠牲になり、命を散らした。


「まぁ、正直生き返らなかったらどうしようかと思ったわ!」


「悲しみを返せ!」


 セリスがミカエルに食ってかかるが、それを制して本題にはいる。


「それでエイルは大丈夫なの?」


「うん。まぁ死んじゃったけど、大丈夫だと思うよ」

「どういう事だ!もうわけがわからん!」


 エイルの肉体が光の粒子となり、消えてしまった。



 ◇



「ん……」


 意識が戻り、気付くと窓もない暗い部屋だった。

 幾つかの燭台に火が灯ったひんやりとした空間。

 すると突然誰かに声をかけられた。


「あぁ!死んでしまうとは情けない!だが、再び立ち上がるのだ、勇者よ!」


「……はい?何してんの椿ちゃん」


 声の主は剣聖椿、俺の師匠である。そんな椿ちゃんが居るのも驚きではあるのだけど、今の状況が全く理解出来ない俺だった。


「あ、あぁ。久しいなエイル。一度は言ってみたかっただけなんだ。気にするでない愛弟子よ。いや、勇者エイルよ」


「え?なんの冗談です?勇者って……?」


「それについてはアチナ様にでも聞くとよい。とにかくこの部屋に来たのがエイルで安心した。ここは召喚の間。そしてこれが恐らく……光の宝玉なる物だ」


 光の宝玉。

 勇者召喚と、勇者復活のシステムを構築している神器。

 手に入れたかった物である。

 これがある限りはリュウタロウを殺せないのである。

 という事は、ここは教会本部って事でしょうか?


「えと………ここは教会本部って事?」

「うむ。そうだが、長居は無用だ。皆と合流が先決だ。行くぞエイル!」


「は、はい……」


 なんだかよくわからないのだけど、とりあえず光の宝玉を手に取り、俺は椿ちゃんと部屋を後にしたのである。

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