20話『更に闘う者達3』

 

 ◇王宮地下牢


「これでよし……と」


 地下牢に投獄されていたシュリに回復魔法を施したスピカが肩の力を抜き一息着くと、シュリが顔を上げた。


「あ……あれ?まだ生きているみたいなんだよ?えーとスピカさん?」

「はい。もう大丈夫ですよー!さて、ここから出ましょうか!」


「ちょ、ちょっとお待ちくださいスピカ様!いくら何でも解放は容認出来ませんよ!この魔族は襲撃の首謀者かもしれないのですよ!」

「そこをなんとかしてください」

「いやいや、無理です。いくらスピカ様の頼みでも、こればかりは何ともなりません。聖都襲撃。不法潜入。それに魔国の密偵。それだけでも死罪は免れない重罪なんです」

 ローランが慌てふためきながらも、脱獄させようとするスピカを宥める。いくら好意を寄せてはいるスピカ相手でも、無理なものは無理と言えるローランは騎士団長野鏡だ。

「デート1回ていうのはどうでしょうか?」

「今すぐこの子を連れて出ましょう!ささ、急ぎましょう!」

 割りと簡単に寝返った。


 ―――

 ――――――

 ―――――――――


 ローランはシュリを担ぎ、スピカと共に城の地下水路を歩き脱出を試みていた。

 流石に投獄されていたシュリを連れて正門から出る等は不可能に近い。故に人目を避けるには地下を行く必要があったのである。


 この水路は王宮所属のある一定以上の階級の者だけが通れる仕組みになっている為、警備上の問題は殆どない。

 王族の緊急脱出路の様な所である。

 その為、誰かに出会うなど無かった筈ではあったのだが―――


「うっ!」

「ローランさん!」


 シュリを担ぎ前を行くローランが突如倒れる。

 スピカがローランの首に針の様な物が刺さっているのを確認すると、瞬時に察した。


「マリーさん?」


 スピカが水路の先に松明を向けるとマリーの姿を確認した。

「あんまり勝手に行動してるとアルゴっちに怒られるよスピカちん」

「どうして此処に?……アルゴの命令ですか」

「まぁ……そゆこと。アルゴっちの屋敷に連れてくよ」


「断ったら?」


「……それは言わなくても分かる……よね?」


 スピカが銀翼の広がり、手には剣が握らていた。



 ◇教会本部前



 鋭い剣閃の応襲。エイルとリュウタロウの闘いは神速の交わり。ぶつかり合う衝撃はビリビリと大気と大地を揺るがし、空を切る波動が物質を塵に変える。

 今のエイルの刃の鋭さは神速の頂きにあると言っても過言ではない。

 だがしかし、その刃をリュウタロウは紙一重ではありながらも防ぎ、そして躱していく。

 勇者と言う圧倒的チート故か。


「はっ、ハハッ。無駄だよ!ボクには君の剣が全て見えてる!なんでだか分かるかな?」


「……っく!」


 いくら刀を降ってもその先にリュウタロウの剣が待ち構えている様な感覚。なんでだ?


「魔眼だよ!頭の悪いお前に教えてあげるよ。この魔眼は一瞬先の未来が見えるんだ。お前が何処を狙ってるのかは魔眼の未来視が教えてくれるんだよ!アハハっ!異世界あるあるだろ!本当に便利な能力だよ!しかもこの魔眼は相手の情報まで見えるんだよ」


「み、未来視?」


 なるほど、つまり先読みが出来てしまうと言うわけだ。

 ズルい……。


「どれどれ……エイルのスリーサイズは……78、50、80か!見た目通りに薄いプロポーションだな!……しかも処女らしいな!僕が大人にしてやろうか?あっははは!」


「だっ、誰がお前なんかに処女やるか!ぺっ!ぺぺっ!」

 攻撃は続けながら、なんか腹立つので唾を飛ばしですやった。意味ないけど。


「うわっ!汚ったないな!やることがいちいち幼稚なんだよ!」


 とはいえ……先を見られているのでは、斬り倒す事が出来ない。このままだとこっちの身体が持たない。

 何かないか?未来視……?あれ?変だぞ……

 未来が見えているなら、今までのミカさんやリオの攻撃も全て読まれてしまう筈だ。

 だけど、防がれていない。あっ、そうか!


 コイツはあくまでも目に映る攻撃しか見えていないんだ。つまり、不意打ちは未来視出来ない。だったら。


(ミカさん!ミカさん!)

(ん……分かってる。隙を伺っている所よ)

(目いっぱいリュウタロウの意識を引きつけるから!頼む!)

(分かったわ!)


 ミカさんとの念話で未来視対策を試す事になった。

 絶対に倒す!俺とミカさん二人でだ!


「二刀流、暴れ太鼓9連撃!」


「二刀で、手数を増やすか!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!」


 ただひたすらに二刀で、連撃を繰り返していく。

 全てリュウタロウの剣で防がれ、剣のぶつかる音が虚しく響く。


「だから全部見えてるって!」


「何が見えてるのかしら?」

「なっ!」


 リュウタロウの意識が全て俺に向いている隙にミカさんが、リュウタロウの背後を取り、渾身の一撃を入れる。

 ……筈だったんだけど。


 ミカさんがリュウタロウに後ろから抱きつき、両足はカニばさみ状態になる。


「エイル!コイツの動きは封じたわ!思いきり斬りなさい!」

「くそっ!離せっ!」

 リュウタロウが暴れるもミカさんを振りほどけない。

 ミカさんのカニばさみは強力だ。あれはほどけない。


 ミカさんがリュウタロウの耳元で囁く。

「言ったでしょ?必ず殺すってさ」

「やめろ!こんな事したらお前も唯じゃ済まないぞ!死にたいのか?」

「命奪っておいて何言ってるの?一度死んでみれば分かるかもよ♡」

「お、おい!エイル!やめるんだ!ミカエル諸共殺すとかはお前も望んでないだろ?」


「……言いたい事はそれだけか?」


 神刀タケミカヅチを天に向け、天魔法『ヘブンクロス』をその刀身に宿し、切っ先をリュウタロウに向ける。

 恐らく最後になるであろう一撃だ。

『大天使』による消耗が限界に近い。体力と魔力が既に二桁をきった。

 後は……命を燃やしてリュウタロウを斬る!


「雷天ノ太刀!」


 リュウタロウ目掛け渾身の一撃。紫電の如く貫く一閃は聖都に響く雷鳴となり、そしてその後に静寂をもたらす。


 リュウタロウとミカエルを貫通して行った閃光は一瞬ではあったが、その衝撃は辺り一帯に爆風を与えた。


 ミカエルは雷天ノ太刀に腹部を貫かれ倒れる。

 上半身と下半身は最早繋がっているとは言えない状態であった。


「ミカエル!」


 そのミカエルの状態を見たセリスがアルゴとの戦闘を避け駆け寄り抱きあげる。


「せ、セリス?……ごめん……エイルは?リュウタロウはどうなったかな?……何も見えないや……なんか凄く寒いね……」


「ミカエル!しっかりしろ!エイルは……大丈夫だ!リュウタロウも倒した!だから死ぬな!」


 セリスから見てもミカエルの状態は助からないと分かる程に悲惨な状態であった。

 エイルとリュウタロウについては嘘をついた。


 リュウタロウは腹を貫かれた状態ではあったが、ミカエルよりは浅く、吐血して地に伏せているが、存命の様だ。


 エイルは……神刀タケミカヅチを握ったまま、時が止まってしまったかのようにピクリとも動かない。

 翼は崩壊が始まり、頭部の天使の輪が崩れ落ち、砂の様に消えて行く。


 全てを使いきった肉体は既に命の灯火が消えていた。


 その中で、立ち上がったのは勇者リュウタロウだった。

 セリス達はその姿に絶望する。


 エイルとミカエルが命をかけてまで放った渾身の一撃。

 勇者リュウタロウを倒す事叶わなかった。


「ぐはっ……くそっ!なんで僕がこんな目に……っ!はぁっ…はぁ…だけど、僕の勝ちみたいだなっ!ゴホッゴホッ」


 そこにふわりとアルゴが現れる。


「リュウタロウ……無事とは言いきれないですね。もう充分でしょう。帰りましょう」

「まだだ!エイルに……トドメを刺さないと……」


「既に死んでる様に見えますが……まぁ好きにして下さい」


「ご主人様はまだ死んでないッス!殺らせないッス!」


「うるさい黙れっ!速度低下スロウ!」


 マリンの動きを封じ、エイルに聖剣を向けリュウタロウが近付く。


「がっ!や、やめろッス……」


「さぁ……終わりだエイル……また死ね!」


 リュウタロウが聖剣を構え、エイルに振り落とそうとしたその時―――


 光の槍がリュウタロウを捕えて刺さった。




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