18話『 更に闘う者達1』
ミカエルの奇襲により、建物を破壊しながら吹っ飛ばされた勇者リュウタロウが瓦礫から這い上がるが、目前に『炎弾』が無数に迫る。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!」
ミカさんの追撃が激しい。
まるで過剰な害虫駆除をしているかの様です。
「おいおい、いきなり酷いんじゃないの結城さん?」
リュウタロウが俺たちの真後ろからスタスタと歩いて来る。どうやら転移で脱出したみたいだ。まるで効いている風ではない。
「チッ!クソが!」
「相変わらず口と足クセ悪いよねキミは。しかし随分と見た目が変わっているじゃないか?魔王化って奴?」
「お前は変わらず陰キャ顔過ぎてキモいわね!」
ミカさんがらそう言いながら、無詠唱で『氷弾』をリュウタロウに飛ばすが躱される。
「おー怖い。ところで体調悪そうだけど大丈夫?ひょっとしてあの日だったりするの?アハハ」
「私は絶好調だよ!皆んな!コイツをフルボッコにするわよ!」
「オイッス!」「当然だな」「なのです!」「はいぃ……」
皆がリュウタロウを囲む様にしてそれぞれの武器を構える。
ここで決着をつける……事が出来るのだろうか?
緊張で手が震える。
「あのさぁ……キミ達卑怯じゃあないかい?ボク一人に対して六人ってさぁ!プライド無いの?大体、魔王がパーティー組むなよ。逆だろ普通。ロープレやった事ある?あるよね?因みにボクはまだ本気を出してないけどさァ!」
「本気出す前に死ね!『ブラックアウト』!」
ミカさんが闇属性魔法『ブラックアウト』を発動すると黒い霧にリュウタロウが包まれ、霧は直ぐに消えた。
「な、なんだ?おい!ボクに何をした!」
闇属性魔法『ブラックアウト』
視覚を完全に奪う上級魔法。
対象は周りが全く見えず、且つ気配も遮断されているが、対象以外からは丸見えだ。
「今よ!」
「死ねなのです!」
ミカさんの合図でリオが飛び込み、渾身のボディーブローでリュウタロウがくの字になる。
「ぐぼぉあっ!!」
更にミカさんがリュウタロウの後頭部を釘バットで豪快にどつくと『ゴッ』と鈍い音がした。アレは痛い。
「がっ!!」
視覚を完全に奪われた状態での攻撃は肉体的ダメージよりも、何をされるか分からない恐怖の方が大きい。
頭に袋被らされてリンチされる様なものだ。俺されなくて良かった。
「あんた達も殺りなさい!ボーナスタイムよ!」
イジメの主犯格みたいなセリフを嬉しそうな笑顔で言うミカさん。
「よし!俺はミカン投げる!」
何して良いか分からなかったので、異空間収納からミカンを取り出した。
「エイル!ミカンなんて投げても意味無いし、食べ物はやめなさい!」
ミカさんは食べ物に対して厳しいのです。
「じゃあウチはウンコ投げるッス!」
「マリン、ウンコ持ってんの?」
「今から産むッス!」
マリンがそう言うとしゃがみ始めるとティファが必死に抑える。
「マリンさんっ!こんな所でダメですよぅ!」
「ちょっとあんた達真面目に殺りなさいよ!ウンコが私に被弾したら殺すわよ!エイルもいちいち付き合わない!」
「ごめんなさい……」
ミカさんに怒られた。
「マリン!ウンコの代わりにティファでも投げなさい!」
「ち、ちょっとそれどういう事ですかぁ?」
「何ってそのままの意味よ。ウンコの代わり。代便」
「なんですかその扱い!私はウンコ以下ですかぁ?酷いですよぅ!ミカエルさんはさっき死にかけていて私が助けたのにウンコ扱いするんですか!ウンコより大事にして下さいよぅ!」
随分低いハードルに設定したティファはともかく、セリスが痺れを切らしたのかムスッとした顔でやって来た。
「お前たち!女が街中でウンコとか言うな!トイレ行け!」
セリスも言ってるよ!しかも問題はそこじゃない!
そんなやり取りをしていたらリュウタロウにかかっていた『ブラックアウト』が切れた。
「キミたちね……さっきからウンコウンコ五月蝿いんだよっ!……怖かった……本当に投げられるかもしれないと思ったんだ!ウンコ投げられる側の気分が分かるか?許さんぞ!もう手加減なんてしてやらないからな!ジワジワとなぶり殺しにしてやるっ!くらえっ!『シャイニング』!」
リュウタロウから眩い光が溢れ出し、辺り一面が光に包まれる。あれか?太〇拳的な奴か?
ほんの一瞬だけど、長い一瞬。
視界が戻った時に目に入ったのは、リュウタロウの聖剣がリオの腹部を貫いている光景だった。
そのまま振り払う様にしてリオを飛ばした。
「リオ!」
「はっはは……先ずはさっきボクを思い切り殴ったガキからだ。順番に殺す次は……」
「貴様ァ!」
セリスがリュウタロウに二丁の銃口を向け後方に飛びながら距離をとって火を噴く。
「皆離れろ!風の大精霊ジン!力を貸せ!『
リュウタロウの周りに巨大な竜巻が出現し、リュウタロウを天高く巻いあげて行く。
「うわっ!なんだ?精霊魔法か!」
突如吹き荒れる旋風に驚くリュウタロウだが、もっと驚いたのは俺とミカさんだった。
「「セリスが精霊魔法?!」」
セリスと言えば、精霊が寄り付かない体質で方向音痴と言うエルフ族としてはかなり残念な部類に入る仲間だ。
その上、脳筋だったりする。
一体セリスに何があったのだろう?
セリスとリオは魔女ノアと共に刀鍛冶が居るとされる妖精の国ミストリアを訪れた。
何かを得て来たのだろうけど、精霊魔法とは驚きだ。
ミカさんが何故か悔しそうな顔していた。
仲間の成長を素直に喜べないミカさんらしい。
「くっそ!残念エルフのクセに生意気よ!ティファ!ボサっとしてないでリオを回復!」
「は、はいぃぃ!」
ティファがリオに駆け寄る。
「させるか!光刃!」
リュウタロウが空中に飛ばされながらもティファ目掛けて光の斬撃を飛ばす。
「風刃!」
セリスが風の刃でリュウタロウの『光刃』を弾き飛ばした。なんかセリスかっけー!
「ヒール!」
ティファの回復魔法でリオは心配なさそうだ。
「
ティファが仲間全員にステータス向上の最上級聖魔法を展開する。テンション上がる!
「うおっしゃァ!神速、秘剣乱れ雪月花!」
神速で飛び込みリュウタロウ目掛けて連続の刺突を繰り出す突進型の剣。
「チィっ!」
リュウタロウの聖剣と俺の神刀タケミカヅチがぶつかり合うたびに火花と言うには激しすぎる発光と衝撃波が大気を揺らす。
神速で打ち合いリュウタロウを通過していく。そこに間髪入れずにミカさんの『獄炎』がリュウタロウ目掛けて放たれる。
「爆ぜろクソ野郎っ!」
リュウタロウを中心に爆撃されたみたいに大爆発が起きる。すかさずマリンが『シールド』を展開して俺たちに被害が来ない様に防ぐ。ナイス連携だ!
「いけるぞぉ!」
「まだよ!油断しない!」
爆風の中からリュウタロウが出て来る。
「本当に……ムカつく奴らだなキミたちは!」
まだまだ余力がありそうだが、リュウタロウの額から血が流れている。
効いている。このまま総力戦なら勝てるかもしれない。
その時だった。
後ろから何者かが歩いて来る。
「手が必要ですか?リュウタロウ」
白銀の鎧に身を包む騎士だ。紫色の髪で長身の美丈夫と言ったところ。前髪がくねっとしている。
「アルゴか。お前の助けなんて要らない……と言いたい所だが、折角だから手伝わせてあげるよ」
アルゴ?どっかで聞いた事ある様な気がするけど忘れた。
「……最悪ね」
「ミカさん知ってんの?」
「ちょっとめんどくさい邪神の使徒よ」
勇者と使徒。
敵に回すには絶望的な状況かもしれない。
だけど逃げる選択肢は今はない。
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