第17話『VSリュウタロウ』

 

 西洋騎士風の装いで現れた黒髪の目付きの悪い男は忘れるはずもなく、俺とミカさんを殺害した張本人。

 犯行後に突然現れた魔法陣で異世界に逃亡。

 召喚された勇者として扱われている。

 その立場を利用して、好き勝手やっているらしく、お手付きになった女性は三桁を超えているらしい。

 聖都でも勇者リュウタロウの評判は頗る悪い。


「ここで会ったが何とやらだね」


 気味の悪い目付きで俺を舐める様に見てそう言った。

 背中にゾクゾクとオカンが走る、いや悪寒だった。

 オカンが走ってどうすんねん!とか思っている場合じゃなく……。


「何とやらじゃなくて100年目じゃないの?馬鹿かよ」


「知ってるよ!そこをあえて言わない様にしたんだ!分かれよ!」


「いや、それ以前にそのセリフをリアルで言う奴初めて見たよ。ウケる」


 体力と魔力の回復にはまだ時間がかかりそうだ。

 出来るだけ会話で時間を稼がないとならない。


「一々癇に障る野郎だな!お前は!……エイルところで、先程話しは聞かせてもらったよ。咲野だったみたいだね。するとやはりあの黒髪の女が結城さんか?」


 コイツいつから居たんだ?全く気付かなかった。


「……そうだよ!俺が咲野大河で結城さんがミカさんだ!」


「はははっ!咲野ざまぁないな!女に転生?あれか、TSって奴ぅ?なぁ、どんな気分なんだ?雌落ちした気分は?」

「め、雌落ちなんてしてないし!もう慣れたし!」


 してない……と思う。


「ところで……エイル。お前、ファミリア王都に屋敷あったよな?」

「ん?あるけど、それがどうした?」


 なんでリュウタロウが知っているんだろう?

 あの屋敷もらってまだ、対して日が経っていないし、そもそも殆ど住んでない。


「あの屋敷にあった財産は僕のだ。よこせ」


「は?何言ってんのお前!お前の財産なわけないだろう!あげねーよ!ハゲ!」


「正確にはアメリヤのものだが、アメリヤは僕の女だから、僕に所有権がある。それに僕はハゲてない」


 リュウタロウはそう言って鬱陶しい前髪を手の払うと、やや広い額が見えた。

 ちょっと来てないですか?


「お前アメリヤさんにも手を出しているのか!何人女の子を手篭めにすれば気が済むんだよ!」


「そんなのお前には関係ない。僕は勇者だからね。向こうから寄って来るのさ。羨ましいだろ?」


 正直羨ましい。だけど多分嘘だな!

 こんな奴がモテるわけが無い。モテてたまるかってんだ!畜生!


「だからさ、素直に財産を渡せば金輪際エイル達には手出ししないよ。僕だって異世界来てまで犯罪者になりたくはないんだ。そもそも最初から殺すつもりは無かったんだよ」


「殺す気は無かっただと?……ふざけんな!実際殺したじゃないか!ミカさんも!」


「君が笑ったからだろうが!」


 あ、逆ギレされた。


「いや、普通笑うでしょ?ストッキングよ?古いコントかと思うじゃん?笑わない方がおかしいだろ!」


「強盗だぞ!普通ならビビって金出すだろう?」

「え?なんでビビるの?ストッキングに」


「あー……ダメだ。お前と話していると馬鹿が伝染る。やはり、殺すしかないみたいだな!」


 やべぇ。なんか気に触る事したらしい。ストッキングを褒めて欲しかったのだろうか?


「こっちでも人を殺すんだ。結局お前は犯罪者だよ!」


「ふっ……人殺しじゃあない。この国では人族意外は人として扱わない。だから翼の生えたお前は人じゃないんだよ!ただのモンスター1匹だ」


 セブールは人族国家であるのは知っている。

 亜人種族が入国出来ないくらいに人族意外を軽視しているのも知っている。

 だけど、モンスター呼ばわりされるのは心外である。


「ふざけやがっ―――」


 その瞬間、全く無警戒だった場所から黒い影がリュウタロウを襲った。


「ふがっ!」


 リュウタロウも不意をつかれ、その影に顔面を思い切り殴られ、その威力凄まじく。宙に浮きながらブサイクな顔を晒していた。


「殴ってやったなのです!エイル無事なのです?」


 リオだ。ギミックスーツに身を包んだ牙狼族の少女だ。

 久方ぶりに会う姿は逞しく成長した戦士となっていた。

 既に身長も胸も先を行ってしまっていて少し悔しい。

 いや、悔しくなんてないもん!


「リオ!」


「リオ達が時間を作るなのです!」


「達?って事は……」


 起き上がったリュウタロウに遠方からの弾雨が降る。


「くっ!狙撃だと?どこだ!」


 狙撃は教会本部の高層からだった。

 そしてその狙撃手は狙撃場所が知られる前に高々と飛んだ。


「とうっ!」


 高層から飛び立った影は、風に乗る様にふわりと着地した。

「すまないエイル。遅くなった」


「セリス!大丈夫か?」


 久しぶりの再会よりも高所から飛び降りて平気な方が驚きなんだけど!どんな仕組みなの?フワッとしてたよ!


「問題ない。それよりこれを受け取れ。そのために来た」


 セリスが背中に背負っていた一振りの刀を差し出され受け取る。

 見た感じは普通の刀だが、手に馴染む感じは雷電丸の様にも感じた。

 折れてしまった雷電丸とアルテミスの剣を素材に打たれた刀だ。刀身は約60センチのやや短め。小柄な俺には丁度良い長さだ。反りは浅いが問題ない。

 刃紋はまるで雲の様にも見え、淡い翠色に輝いていた。

 刀身の色は黒色で雷の様な紋様がうつる。

 鞘にもアルテミスの剣の素材が使われているらしく、鞘の鯉口からも天属性の魔力が溢れている。

 鞘からの魔力放出による抜刀速度を上げる効果があるらしい。


「刀の名前どうしよっか?雷電丸マークIIとかどうかな?セリス」

「エイル、既に銘は打った鍛冶師が付けてある」

「あっそうなんだ……残念」


「神刀タケミカヅチ。それがその剣の銘だそうだ」

「タケミカヅチ……変な名前だけど有難く使わせていただきます……誰が打ったか知らないけど」


 今度ちゃんと礼をしに行かないとだな。


「ちょっと僕の事忘れてないかい?」

 リュウタロウが瓦礫の中から出てくる。全くと言って良いほど無傷だ。


「まだ居たんだ?」

「リオ一人だと抑えきれないなのです……」


 如何にリオが成長していても、さすがにリュウタロウ相手は厳しい様だ。


「その獣の子どもの相手も飽きたよ……エイル、お終いにしよう。ここで殺して上げるよ!」


 リュウタロウが聖剣を構え、飛び出そうとした矢先。リュウタロウの周辺の地面が割れて沈んだ。


「なっ?体がっ!……重力魔法かっ?」


「潰れろッス!」


 珍しく空気読んだタイミングでマリンの『海龍の逆鱗』がリュウタロウにかかる。

 特定の対象付近を超重力で押し潰すスキルだ。マリンの十八番と言ってもいい。並の人間ならぺしゃんこになってしまうらしいよ。多分だけど。


「か、体が……う、動か、ない!」


 リュウタロウが『海龍の逆鱗』で動きを封じられている今は好機だ!


「今だ!総攻撃をかける!」


 セリスが対魔物用ガトリング砲をリュウタロウに向けて撃ち込む。


「銀翼!」


 全力の銀翼をリュウタロウに放つ。


 リオは飛び道具が無いので総攻撃後に備え、突撃準備の構えだ。


「はぁぁぁァッス!」


 マリンが『海龍の逆鱗』をかけ続けてリュウタロウを封じる。辺りの地盤がクレーター化しつつ沈む。


「うわぁぁぁっ!くっそぉぉぉ!」


 リュウタロウが悔しそうな顔を浮かべこちらを睨むが……。


「なんてね……反転!」


 リュウタロウが『反転』と呟いた瞬間、地に押されていた体が嘘の様に跳ね上がり高く翔んだ―――


「馬鹿共め!その程度でこの勇者リュウタロウを倒せるものか!はっはっはっー……」


 空に舞い上がり、してやったり顔のリュウタロウが笑い叫んだ時―――

 そのリュウタロウの頭を強烈な飛び蹴りで踏みつける様にしてミカさんが雷鳴の如く現れる。


「死ねゴラァ!」


 ミカさんに踏まれたリュウタロウは人間魚雷みたいに吹っ飛んで建物に突っ込んで消えた。


「ミカさん!」


 聖教教会本部に『銀の翼』が集結した。





「ちょ、ちょっと……私も居ますよぅ!」


 ティファも来た。





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