第16話『大天使エイル』
神聖王国セブール聖都セブンスヘブンに突如として現れた人工使徒の襲撃は王宮にも大混乱を招いた。
襲撃の狙いが分からぬ状況であり、聖騎士団長、各騎士団団長、戦列歩兵団長、魔術師団長、神殿騎士団長の顔ぶれが謁見の間に招集された。
「一体何が起きている。余に話せ」
「はっ!聖都各所に突然、魔族と思わしき者が十四体、内五体は既に討伐、捕縛一体であります」
「被害はどうか?」
「死傷者は1000人以上かと……ですが討伐戦は継続中の為、まだ増えるかと……」
「勇者リュウタロウはどうした?おらんのか?こんな時に」
必要な時に現れず、要らない時だけ金をせびりに来るリュウタロウだ。この状況で活躍でもすれば少しは国民の感情もリュウタロウに追い風になると言うのに残念な事である。
「私用で国を出ておりますが、じきに戻るかと……」
神殿騎士団長アルゴがそう言い繕うが、正直帰って来たところで戦うとは限らないのだ。助けをこうと、拒否する習性でもあるのか、頑なに拒否するリュウタロウなのだ。あれの扱いはスピカでないと理解出来ない。
「しかし、これが魔国の襲撃……となると休戦条約は無効になる。騎士団と戦列歩兵団は引き続き敵の掃討を最優先。神殿騎士団は教会本部周辺の防衛。魔術師団は王宮にて待機。ローラン聖騎士団長は捕縛した魔族を調べよ!以上だ」
「「「「はっ!」」」」
各団長が謁見の間を出て行き、ローラン聖騎士団長が一人になった所でスピカが声をかけた。
「ローランさん!ちょっといいですか?」
「スっ、スピカ様!ご無事でしたか!本日もお美しくて何よりでございますっ!」
スピカに声をかけられたローランは頬を赤く染めガチガチに緊張してしまう。
「あ、ありがとうございます……そんな事より大事なお話があるので……出来れば二人きりで」
「ふっ、二人きりでっ?分かりましたっ!で、ではこちらに!」
二人きりと言うワードに妙な勘違いが脳内を駆け巡る中、人気の無い場所へとスピカを案内する。
ローランはスピカの大ファンである。特にセブールでは絶大な人気の聖女スピカだ。
聖女スピカの容姿は勿論、その聖女たる振る舞い、誰にでも優しく接する姿など、ローランは心酔しきっている。忠誠を誓っている国王と天秤にかける訳にはいかないが、恐らく良い勝負だろう。
とはいえ、聖女スピカの裏の顔を知っていれば心酔などしないであろうが。
都合よく会議室が無人であり、付近に誰も居ないのを挙動不審に確認すると、スピカを先に部屋に入れた後急ぎ入室する。
「か、鍵は開けときますか?」
「開けておいて下さい。それで例の件ですが―――」
例の件と聞いて、ローランは少し落胆する。
二人きり……密室。もっと艶っぽい展開に胸を躍らせていたのだが違った。学院の潜入捜査の件だ。
これはローランがスピカに依頼したのであった。その件での報告らしい。
「あの……聞いてます?」
「えっ?あぁ、はい……」
スピカの報告によると、訓練生の失踪には教会が関与していると可能性と人工進化研究所が王宮と教会本部の地下に存在している事が分かった。
「それでその人工進化研究所と今現在の襲撃に関係があると言うのですね?」
「ええ……それでお願いなんですが、捕縛した魔族と言うのを拝見したいのですが……」
「構いませんよ。丁度回復役が必要な状況でしたので。重体で死にかけです」
「急ぎましょう!死なれては困ります!」
ローランは魔族にも優しいのだなと感心して、捕縛した魔族の少女のいる地下牢へと向かった。
その時、王宮が、いや大地が震える様な衝撃が一瞬走った。
「な、なんだ?地震か?」
「これは……?」
◇
まるで神の降臨かと見間違う程に神々しい光がメンゲルスの眼前に輝く。光が放射線状に発した瞬間、大地が、大気が震えた。ビリビリと肌に威圧感を感じ、恐怖と歓喜が入り混じり、光の中心にいる少女だった者の姿から目が離せない。
アチナの使徒エイルを名乗る少女が『大天使』と叫んだのを耳にした。背中の銀翼が輝きを増し、光輝く翼へと進化した。そして頭のアホ毛の周りを光の輪がくるくると回っている姿は正真正銘の天使そのものだった。アホ毛は余計だが。
「ふぅ……」
スキル『大天使』の発動で身体能力は数段上がったけど、凄い速さで魔力と体力が減って行くのを感じる。
あまり時間が無い。時間制限ありらしい。速いとこメンゲルスをぶっ飛ばさないとだな。それと意識は大丈夫そうだけど、妙に落ち着く感じだ。感情の昂りが全く無い。さっきまで怒っていたのに……。
「こ、小娘っ!死ねぇ!」
ぼーっとしていたらメンゲルスが斬りかかって来た。
避けるまでも無い遅い剣閃。なめてるのか?
素手でメンゲルスの聖剣を掴んで止めると聖剣が砕けた。あらら脆い剣だね。
「せ、聖剣がぁぁぁ!」
何やら驚いているな。気にするなよ。剣折ったくらいで慌て過ぎだよオッサン。
慌てるメンゲルスにゆっくり歩いて近付く、見えてないのか無防備だったので軽く肩を叩くと、メンゲルスが地面に沈んだ。
「ごっふぉああぁぁっ!」
あらあら地面が柔らかいのね。
でも地面に沈んだままじゃお話も出来ませんので、引っ張り出してあげます。するとメンゲルスが今度は空高く舞い上がってしまい、落ちて来るのに少し待った。
落ちて来たメンゲルスが産まれたての小鹿のものまねをしていたので、声をかけた。
「何してんの?あはは♡」
「ひ、ヒィィィっ!すまなかったァァァ!ワシが悪かった!許してくれ!ほら、この通りだ!」
メンゲルスが両手を上げて降参してくる。なんだつまらない奴だな。小鹿のものまねはもういいの?
「あっそう」
少しガッカリな顔をした後、空を見上げると結界が無くなっているのに気付いた。あぁ、そうか……マリンが(壊したんだな。
その時メンゲルスが隠し持っていた短剣で斬りかかって来た。
「なーんて降参などするか馬鹿め!」
「やると思ったよ」
悪い奴って必ずそれするよね。ある意味死亡フラグだと思うけど。
メンゲルスが醜い表情して襲いかかって来る。まぁ元自分の顔なんだけど、醜く見えた。
反射的にビンタしてしまったら顔だけじゃなく体ごと人形みたいにクルクル回転して地に伏せた。5回転くらいしたな。ウケる。
軽く魔剣で胴体を逆袈裟に斬ると裂けた甲冑から血が噴き出した。でも直ぐに止まった。傷の再生は速いみたいだ。
「ぎゃああああッ!……ふぅっ、ふぅ、貴様ァァァ」
痛覚はあるらしい。でも再生はめんどくさいね。
「再生するんだね。これじゃ死なないね」
「はっははっ!そうじゃ!い、いくら斬ったところで無駄じゃ!あ、諦めろ……」
「じゃあ……たくさん斬っても大丈夫だね♡」
「そ……そんなっ!」
メンゲルスが悲鳴を挙げる間すら与えない様にあらゆる所を切断しない様に手加減して切り刻んだ。
傷は再生しても、血液までは再生しないのか、見る見るうちにメンゲルス、いや咲野大河の顔が血色を失って行く。斬るの飽きたので、刺してみたりしながら人工使徒のコア?を探す。メンゲルス曰く魔素を凝縮した結晶が体内の何処かにある。
「見つけた。なぁ、メンゲルス。この魔素の塊みたいの突いていい?」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉッ!魔魂だけは勘弁して……っ!」
突いちゃった。
すると、魔魂とか言うのが割れて魔素が水蒸気みたいに噴き出して行き、メンゲルスは喋らなくなった。
残ったのは血だらけの咲野大河の死体だけだった。
「くうっ!」
突然頭に激痛と脱力感が襲う。
どうやら限界みたいだ。この『大天使』の使用リミットを超えたらしい。10分も使えてないのだけど体への負担が大きい。不便だな。とりあえずメンゲルスは懲らしめたので良いとしよう。
『大天使』を解除すると、フラフラと膝をついた。
「はぁ、はぁ……キッついなこれは……」
『大天使』発動中は体力と魔力の消耗と、感情の欠落。
強くなるけど危ないスキルだ。
元自分の体さえ、切り刻んだ事に躊躇しなかった。
周りの事など考えずに目的だけ果たしてしまおうとさえする思考があった。国ごと消しても良いと思っていた。
危険過ぎる……取り扱い注意だな!
とりあえずこの場は何とかなった?ので、混乱に乗じて教会本部にでも行くかと思っていたら、招かれざる客が現れる。ほんとに今会いたくなかったよ。
「久しぶりだねエイル……いや、咲野と言った方がいいのかい?」
「リュウタロウっ!」
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