第15話『エイル、かつての自分と戦う。』

 

「メンゲルス……?」


「その通りだオリジナルぅ!私の実験は成功した!魂の移植。予め私の魂を魔素化して、この素体に埋め込んで、本体の器が死を迎えた事で新たな身体を得る。魔素とは魂の一部と言う仮説はやはり正しかったのだ!天才!これは最早、神の所業だとは思わんかね?」


 そんな事より、なんで俺の身体があるんだ?

 状況が全く理解できないのだけど、とりあえずコイツは敵で、ミカさんを傷付けた。それだけだ。


「ミカさん……大丈夫?」

「……んっ」


 コクコクと頷くだけだが、出血が止まらない。

 このままではまずい。


「ミカさん気休め程度かもしれないけど、これ飲んで」


 俺は異空間収納からポーションを取り出して、瓶の口をミカさんに飲ませようとしたが、飲む力が無いのか入っていかない。やむを得ないので口移しで飲ませる。


「んっ……」

「んぐっ……こくん」


 ポーションをミカさんの口の中へと舌で流し込む。

 少しずつだが、飲んでくれた。

 傷口にも直接ポーションをかけて見ると、出血が少し治まった。時間かせぎにはなるだろう。だけど余裕はない。

「あっそうだ!ずっと忘れてたんだけど北の大陸のお土産」

 アルテミス城の宝物庫から持って来た指輪を異空間収納から取り出し、ミカさんに見せる。


「エイル……この状況……で……?」

「いや、なんか今かな……って」


 指輪をミカさんの薬指にはめる。サイズは問題ないみたいだ。うん。良かった。


「ひょっとして……プロポーズかしら?」

「えっ?うーん……ぽいやつ……かも?」


「エイル……死亡フラグみたいで嫌なんだけど」

「じゃ、じゃあこの戦いが終わったら……」


「そ、それも死亡フラグなんだけど……まぁいいわ。とりあえず勝ってからちゃんとしてね」

「はい……」


「おーい。ワシの話しは聞いてたのかー?二人の世界入るなァァァ!」


「うるさいな……お前の話なんか興味ないよ。今から殺してやるから黙ってろよ」




「エイル……チューして……」

「え……今?この状況で?」

「今されたい……」


 俺はミカさんを抱え唇をミカさんの唇に近付けた。

 その時!


「いたっス!ご主人様ァァァ!マリン参上ッス!」


 マリンが突然現れた。なんか久しぶりだけどタイミング良過ぎない?


「マリン!なんでここに?ってかどうやって聖都に入って来れたの?」


 入国すら容易ではないセブールの聖都だ。身元不明で住所不定のマリンが入国するなど無理なはずだし。

 とにかく色々聞きたい事が山ほどあるが……。


「来たッス」


 ただの一言で返された。

 うん。マリンに常識など通用しないし、まぁいいか。

 マリンがムードを壊しに来たのか、助太刀に来たのかは、とりあえず置いておこう。


「私もいますよぅ!」


 マリンの後ろからひょこっと姿を表したのは、栗色の髪が少しくせっ毛のある法衣を来た人物。


「…………ティファ!」

「エイルさん!今の間はなんですか?寂しいですよぅ!」


『銀の翼』のモブヒーラー、ティファだ。

 いつもは別にいてもいなくても良いが、今は役に立ちそうだ。これでミカさんが助かる。


「ティファ!説明は後だ!今はミカさんを頼む!」


「分かりましたよぅ!……ミカエルさん、死にかけてますねぇ……何か言う事ありませんかぁ?ねぇ?ミカエルさぁん?」

「くっ……このモブっ!……お、お願い……た、助けて……」

 ミカさんがとても素直とはいえないが、ティファに救いを求めた。仲悪いからな。仲間なのに。ミカさんって大抵の人と仲悪いよね。


「ティファ達はミカさん連れて、ここは引いてシュリと合流してくれコイツは俺が殺る」


「分かりましたよぅ。でもマリンさんは別行動ですよぅ」

「ウチは結界塔の破壊ッス!ノア様からの命令ッス!」


 結界塔の破壊?何だかよく分からないが、ノアさんの言いつけなら仕方ないな。そこはマリンに任せるとする。


「エイル!また……後でね……」


 妙にしおらしいミカさんだ。色々心配なのだろうが、必ずコイツを何とかする。コイツだけは俺が何とかしなければならない。だって俺自身なんだから。


 向かい合う姿はまるで鏡を見ている感覚にすら陥る。

 相変わらずナイスガイだなと思うけど、あまりモテた記憶はない。身長178センチ、体重62キロ。特技は運動全般。それが咲野大河だ。


「クックック……あぁ、なんと素晴らしい肉体だ!若さ溢れるとはこの事か!私は今、永遠の若さを手に入れたのだ!スペックも申し分ない。あの魔王を退ける程の力ァァァ!顔は……まぁ微妙だが……」


「微妙とか言うな!俺に失礼だぞ!」


「はて?オリジナル……このプロトゼロを知っているのか?確かこの素体は異世界人であるが……」


「お前には教えてやらない……よっ!」


 会話途中の奇襲だが、渾身の一撃をメンゲルス改め咲野大河に放つ。

 神速の突進から抜刀し、横薙ぎに一閃―――が、さすがは俺、じゃなかった。咲野大河は聖剣で難なく受けた。


「ほっほ!かなり速い不意討ちじゃが、見える!見えるぞぉ!これが達人の域か!素晴らしいっ!」


「その顔で……その声で……その口調キモイんだよっ!」


 ギリギリと剣と刀の鎬を削る状態で押し飛ばそうとするが、押し返せない。なんつー馬鹿力だ。元俺だけど。


「そりゃっ!」


 咲野大河が聖剣を振り払うと剣圧と言うか大気が震える様な衝撃波で軽い体の俺は吹き飛ばされた。

 クソっ!力では向こうが上か!


 だったら速さで勝負だ!


「神速、秘剣木枯らしっ!」


 剣聖シズカさんの剣技だ。突風に吹かれた葉が渦を巻く様に剣閃が相手を削る連続剣。


 だが、咲野大河の周りに剣閃の交わる火花が飛ぶ。

 全て弾かれて行く。だったら―――


「神速、暴れ太鼓九連撃!」


 中空に舞い上がり、回転剣舞から剣撃を放つ剣聖ウメの剣技だ。踊る様な特殊な剣閃で相手を切り刻む。

 本来は二刀剣術だが、神速で二刀分をカバー出来る。


「むぅ!」


 先程とは違う剣と剣のぶつかり合う金属音と衝撃波が辺りに響く。一撃一撃の剣撃の重さで、受ける度に咲野大河の足元の石畳が砕け、土が掘られて行く。


「うるさいハエめ!聖剣技、スターダストブレイバー!」


 咲野大河がなんかよくわからない事言いつつ、聖剣を発光させると光の刃が放たれる。


「銀翼!」


 至近距離からの飛び道具に咄嗟に銀翼を展開させ、光の刃を防ぐ。銀翼が深く切り裂かれたが、何とか防げた。

 危ない危ない。


「おおっ!遂に出したか!美しい……なんと美しい翼……良いぞ!良いぞぅ!ハァハァ……」


 えっ?やだ気持ち悪い。変態か?俺の身体でやめてくれ!


「オリジナルぅ!そうだ!ワシの妻にしてやろう!二人で永遠を生きようではないか!そして真の天族を量産してくれまいか?」


 何言ってんのコイツ。俺に子ども産ませるつもりか?

 考えただけでも気持ち悪い。身体は女の子だけど、マジで無理。


「気持ち悪いんだよ!」


 銀翼の翼をマシンガンの様に飛ばす。効かないのは分かっていたけど、なんかほら勢い的に?です。


「無駄な事を……オリジナル、貴様ではワシに勝てんぞ!ならば従うのが道理であろう?そうだ!あの魔王も一緒に私の妻にしてやっても良いぞ!ヒッヒッヒッ……」


「あ?誰がお前に勝てないって?」


 どこか、相手が元自分の身体だからか、本気で殺そうと言う気にはなれてなかったかもしれない。

 だけど決別の時だ。コイツにミカさんを妻にするとか言われて無性に腹が立った。


「ミカさんは渡さないっ!」


 制御出来るかは分からないが『大天使』を発動した。




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