第14話『ミカエルVS咲野大河?』

「咲野くん!」


 白銀の鎧に身を包み、剣を構える騎士は見間違えるわけも無い。私がこの世界に転生した理由そのもの。

 紛れもない咲野大河だ。

 君が私の前で殺されてから16年だよ。

 だけど君の姿はあの時と変わらない咲野大河が目の前にいる。


 でも……これは一体どういう事かしら?

 私が再会した咲野くんは前世の結城美佳の身体で転生したエイルのはず。

 女神アチナのうっかりで魂の依代を間違え、女性へと変わってしまって、今では愛してやまないエイルが咲野くんだ。


 そうなると、この咲野くんは魂の無い肉体だけの咲野くんである事は間違いない。

 やっぱりあの時に咲野くんは召喚されていた。

 だけど魂の無い肉体は死体だ。

 どうやって動かしているの?死霊術の類いであれば術者が近くに居るか、術式が刻まれた何かがある。

 だけど、死体と言うには状態が良好だ。生きているかのようだ。


 咲野大河の剣撃を釘バットで受けると強烈な衝撃波でミカエルがグラ着く。

「くうっ!重いっ!」


 その剣撃は鋭い上に強烈。ミカエルも防戦一方の戦いを余儀なくされていた。

 身体能力は同等か、それ以上かもしれない。

 咲野大河の剣閃がミカエルの顔を掠め頬に一筋の傷を負った。


「血が……」


 ミカエルの頬から赤い血が顎をつたい垂れる。

 自身を傷付けられた事にフツフツと怒りが増すミカエル。その傷が中々再生しない事も不思議であったが、何より咲野大河に斬られた事が非常に腹立たしいのか、ミカエルの中で何かがキレた。


「咲野ぉ……私に傷をつけるとかありえないんだけど!私の恐さ思い出しなさい!」


 ミカエルが咲野大河の真後ろに一瞬で回り込み釘バットを真上から振り下ろし後頭部を思いっきり殴打する。

 ゴッと鈍い音を立て、咲野大河が地に沈む。

 相手が咲野大河だろうが、手加減て言葉を知らないミカエルだった。


 更にミカエルの攻撃は止まらない。

 数十メートル真上に飛び、魔力を左手に集中させると、高熱の火炎が膨れ上がってゆく。


「ここで火葬してあげる!『煉獄インフェルノ』!」


 直径5メートル程の超高温度の火炎が辺り一帯の大気を蒸発させながら咲野大河に向かって落ちて行く。


「ふはははっ!もっかい死ね!」


 火炎が地面に到達する瞬間。光輝く聖剣が火炎を切り裂き消滅した。

 その斬撃がミカエルまで届くと胸から腰にかけ大きく切り刻まれ、血飛沫が舞う。


「きゃぁぁぁっ!」


 そのまま落下するが立ち上がり咲野大河を睨み付ける。


「くっ……マジでむかつくわ!」


(おかしい。斬られた傷の再生が遅いわ!聖剣の力?それとも咲野くんの力?)


 ミカエルが魔王としての力を解放する。

暗黒闘気ダークネスオーラ!」


 潜入の為の人族偽装を解除し、ミカエル本来の姿へと変貌して行く。黒髪は右半分が銀髪に、紅い瞳は左目が金色に変わり、背には黒い翼が広がる。そして矢の様に先の尖った尾が生えた。

 因みに服装はメイド服のままである。着替えは異空間収納から出せばなんとかなるが、敵前で着替える程ミカエルは馬鹿ではない。そんな事するのはエイルくらいだ。


 解放された魔王の覇気に聖都の大気がビリビリと震え、石畳に亀裂が入る。


「もうお前なんか必要ない」


 瞬時に咲野大河の顔面を掴み地面に引き摺り回しロイター板の様に咲野大河を思い切り踏み台にして宙を舞う。

 が、咲野大河の右手がミカエルの足を掴み逃がさない。

 そのままトカゲの尻尾を掴み投げる様にミカエルを教会本部の壁へと投げつける。


「〜〜〜〜っ!」


 教会本部の壁を幾つかぶち破り瓦礫の中に埋もれるミカエルだが、その瓦礫の山を直ぐ様重力魔法で咲野大河に向け放つ。咲野大河が瓦礫を聖剣で切り裂こうとすると、瓦礫の後ろからミカエルが足で瓦礫を押すようにして加速し、咲野大河の脳天を直撃。

 そのまま両脚で咲野大河の首を蟹ばさみして回転し、頭から叩き落として地面に沈めた。


「私の顔面騎乗よ!光栄に思いなさい!そして死ね!」


 既に死んでいる相手にそんな事言っても意味ないのだが、更にミカエルの追い討ちは続く。


「地獄の火炎!」


 二十個程の火弾を容赦なく放り込み、完全に火葬モードだ。気付けば辺りに飛び火して火災が発生していた。

 迷惑な話である。


 それでも咲野大河は無表情のまま、ゆっくりと立ち上がり聖剣を構える。身体は致命傷とはいかないまでも、相当なダメージを受けているはずであるが、痛覚などないのであろう。その身体が動くまで全力の力を持って対象を破壊する狂戦士と化している。


「ホントしつこい奴……嫌い」


 咲野大河が神速の連続突きでミカエルを襲う。


 剣閃は鋭いが、ミカエルは全てを見切り躱していく。

 ミカエルは咲野大河の弱点に気付いていた。

 それは身体能力の高さから繰り出される攻撃が全て正確な動きをしている事だ。

 速く重い攻撃だが、腕や身体の動きから正確に剣を振る様にインプットされた人形でしかない。

 ミカエルからすれば、バッティングセンターの球を打つ様なものである。生きた球では無い。タイミングさえ掴めば、どうということはない。


 故に、隙も正確に生まれる。

 そこを突く。


 咲野大河の自己再生よりも重い一撃を狙い、ミカエルは咲野大河の剣閃を全て躱す。


「今!」


 その隙を見極め、渾身のフルスイングで釘バットを咲野大河の腰目掛け打つ。

 聖剣がミカエルの頭の上を掠めるが、ミカエルは軸足を落とし釘バットを振り切る。


「うおりゃあああああああッ!」


 咲野大河の腰を捉え、くの字にひしゃげりながら弾丸ライナーで咲野大河は教会本部の上層階へと吹っ飛んで行った。


「しゃァァァッ!」


 ホームランを確信したミカエルは左手を小さくガッツポーズした。



 ◇



 エイルが異形の使徒を両断した直後、聖教教会本部の上層階が爆発し崩れ落ちるのを見た。


「うわっ!なんだ?教会本部が!この感じはミカさんだ!」


 とりあえず異形の使徒は何とかなったし、ミカさんと合流しないと!

 このまま、どさくさに紛れ教会本部に入り込めば何とかなるかな?なるといいな。


 俺は銀翼は出さずに屋根をつたい、教会本部に向かった。


 教会本部周辺は、火の手が周り悲惨な光景になっていたけど、ミカさんは無事で良かった。


「ミカさーん!」


「エイル!無事だったのね!」


 ミカさんが俺を見るなり飛び付いて来た。

 抱きしめらた力が強くて骨がミシミシと悲鳴をあげる。


「痛いっ!死ぬぅ!」

「あっごめん……エイルは……咲野くんなんだよね?」


 何言ってんの?今更。と質問の意図が分からない。

 だけどミカさんの顔は真剣だった。


「そう……だけど、駄目?」

「駄目じゃない!……好き。今のエイルが好き」


 いきなり好きって言われても……一体どうしたんだろ?


「俺もミカさんが……」


 そう言いかけた時だった。

 瓦礫の中から一筋の光が走りミカさんを貫いた。


「ミカさんっ!」

「――――――っ!」


 そのまま力なくミカさんが倒れる。

「ごふっ!」


 腹部を貫通して大量の血が流れ出て行く。

 口からの血も止まらない。再生が始まらない!

 ミカさんには自己再生がある筈なのに!

 何か無いか!そうだ回復魔法!


回復ヒール!」


 傷が深いのと何らかの力が作用しているのか、回復が追いつかない。このままだとミカさんが危ない!


回復ヒール回復ヒール回復ヒールぅ!」


 俺のにわか回復魔法じゃ救えない!誰か!誰か助けて!



 瓦礫の中から出て来た騎士は、咲野大河……俺だった。


「え……?俺?なのか?なんで?どうして……」



「フゥ……やっと接続出来たわい。さっきぶりだなオリジナル!ヒッヒッヒッ……」


 光る剣を持った騎士……咲野大河がゆっくりと近づいて来た。その声は違うが、間違いない。メンゲルス博士の喋り方だった。



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