第13話『異形なる使徒』

 

 聖都一番街。エイルside



 地下下水道から市街地に出たエイルだったが、市街地は火の手がまわり、人々が逃げ惑っていた。

 見ると、先程エイルが倒した人工使徒と同じ様な姿の個体が、騎士の小隊と交戦していた。

 人工使徒は騎士を素手で殴り潰すと、騎士の持っていた剣を取り、騎士達に斬りかかり始めた。


「まずい!助けないと!」


 エイルは斬られそうになった騎士の前に素早く入り、人工使徒の剣を腕ごと斬り飛ばして騎士を救うと すぐ様、剣尖けんさきを人工使徒に向ける。


「ここは任せて他へ行って下さい!」


「あ、ああ……誰だか知らないが助かった!」


 騎士達にこの場を退かせてから人工使徒の首と胴を斬り捨て辺りを警戒すると、物陰からメンゲルスが現れた。


「ヒッヒッヒッ……さすがはオリジナル。ワシの紛い物では比較にならんと見える」


「メンゲルス!街にあんなバケモノ放つなんて馬鹿かお前!今すぐやめろ!」


 エイルの言葉などまるで聞こえていないかのようにメンゲルスは語る。


「ならば……あれならどうだ?さっきの紛い物よりは手こずるのではないか?」


 ズズ……ズズ……


 まるで何か大きな物体が地を這う音が近付いて来る。

 それは、高さ10メートルはある巨大な姿の生物の様だった。顔が幾つもあり、腕がまばらに五本生えた怪物。

 複数ある顔は人の形をしていた。


「なんだこれ……これも使徒だって言うのかよ!これじゃまるでただの……」

「モンスター……とでも言うつもりか?オリジナル。これは、同じ魔素の溜まった鍋にいくつかの素体をじっくりコトコト……」

「へぇー……どうでもいいよ。そんな説明」


「何だと?貴様、この様な姿にされた騎士達の事とかはどうでもいいのか?どう考えても鬼畜すぎる所業に貴様が怒りを露わにして、ワシに対して、このイカれたマッドサイエンティストめ!とか言う場面じゃないのか?」


「いや、だって知り合いとかじゃないし。考えて見たら、その騎士とかだって椿ちゃんを襲って返り討ちになったヤツらだろ?因果なんとかってやつだよ。ざまぁだよ。それにお前は何か?俺に怒って欲しいの?罵られたいの?変態かよ!」


「いや、別にそういうわけじゃ……」


「だったらいいじゃん。その変なバケモンぶった斬るだけだし」


 メンゲルスが口を開けて唖然としている。

 彼は自分の研究に何の驚きも見せないエイルに科学者としてのプライドを傷つけられた。

 元より、称賛される様な研究では無い事は自覚している。それどころか非人道的な実験を繰り返し、表沙汰になれば、非難される研究である。

 そんな非人道的な研究に手を染めてまで、成果を出したのに、エイルの反応が薄い。


「ワシの……研究を馬鹿にしおって!ワシは、ワシは自分の手で天使を造りたかったんじゃ!」


「天使をそんなんと同じにするなよ。全国の天使に謝れ!ってかあんまいないけど……」


「もういい……貴様を殺して研究の材料にしてやる……この実験体に殺されてしまえ!ヒャハハ……」


 その瞬間。

 メンゲルスの首が飛んだ。高らかに笑いながら、くるくると、ボールみたいに回転しながら地に転がった。


 メンゲルスは自身の造りだした実験体に殺されてしまった。実験体の腕が触手の様に伸び、鞭の如くメンゲルスの首をはらった。


「うわっ!制御出来てないのかよ!バカか!」


 異形の実験体は腕を鞭の様にしならせて上からエイルを叩き潰そうとする。


「よっ」


 それを高く跳躍して躱すと、打ち下ろされた場所の石畳が爆ぜ、辺りに砂塵と砕かれた石畳が吹き飛ぶ。


「たいした破壊力だな!」


 辺りの建物は住宅は少ないため、住人は既に他へ非難されているのか人の気配は無いが、街のあらゆる箇所で火災が発生していた。


「まず、腕から斬るか……」


 八本の腕を持つ異形の使徒に暴れられると、近隣の建物に被害が及ぶのを懸念するエイル。本当の所は別に建物破壊されても良いけど、自分のせいにされるのが、嫌だったりするのだ。


「でやぁっ!」


 跳躍から下降しつつ、異形の使徒の腕を魔剣で斬り落とす。すると、すぐに異形の使徒の腕が切断面から再生を始めた。


「マジか!再生すんの?ずるくない?」


 見た目こそ人の形を成していないが、自己再生能力は天族の持つスキルである。酷い精製のされ方をした人工使徒であるが、メンゲルス博士の実験体は一種の成功なのかもしれない。


「試してみるか……よっ!」


 異形の使徒の伸びる腕の雑な攻撃を避けながら、握る魔剣に魔力を込める。

 すると魔剣の切先に赤黒い炎を纏う。


「あれ?なんか色おかしいけど……まぁいいか」


 エイルは剣聖ウメの『火剣ほむら』を再現したつもりだが、少し違った。魔女ノアの適当に造った魔剣である。闇属性の魔法が付与されている為、炎も闇属性に変化した。

 とりあえず斬って焼けば再生しないんじゃないか?

 と言う発想に至ったエイルだった。普段は回転の悪い頭だが、こう言う時は知恵が回るらしい。


「火剣、焔っ!」


 エイルは魔剣を両手に握り変え、剣聖ウメから得た『火剣焔』で異形の使徒に斬りこむ。

 下方からの切り上げで、腕を斬り飛ばすと狙い通り切断面に黒炎がまとわりついて再生は始まらない。


 それを確認したエイルは一度魔剣を鞘に戻すと異形の使徒の懐に飛び込んだ。


「吹っ飛べコラァ!」


『ドラゴンブロウ』で異形の使徒の身体を抉る様に強烈なアッパーカットで、その巨体を高く舞い上げた。


 舞い上げられた異形の使徒の巨体より先にエイルが抜刀術の体勢で待ち構える。

 その神速から抜刀術と火剣焔の合わせ技で異形の使徒を真一文字に両断。


 両断された巨体は黒炎に包まれながら、聖教教会本部の高層へと吹っ飛んで行った―――




 ◇



 三番街。シュリside



 人工使徒と遭遇したシュリは巨大な鎌を振り回し、既に二体の人工使徒を撃破していた。

 だが、次から次へと現れる人工使徒に徐々に体力を削がれて行く。


「そんなに何人も相手出来ないんだよ!」


 シュリとて無尽蔵の体力の持ち主ではない。

 小柄な身体で超重量の武器を扱うにも限度がある。

 既に周りに居た騎士達も戦闘不能に陥り、ただシュリと人工使徒の戦いを見守るだけであった。


 黒翼がマシンガンの様にシュリに乱れ飛ぶと、迂闊にも脚に被弾してしまい、地に膝を着く。


「あぁんっ!」


 相変わらず艶っぽい声を発してしまうシュリだが、余裕はない。

 そこに人工使徒の剣が振り下ろされ背中を大きく切り裂かれた。


「んぁぁっ!」


 更に容赦なく振り下ろされる剣を、素早く身体を反転させ大鎌で押し返すと、後方に跳躍して逃れた。


 背中を斬られ大鎌を杖にし、立ち上がるシュリの足元に大量の血液が落ちる。


「血……出てる……?」


 自身の血を見たシュリの顔が豹変する。

 いつもヘラヘラと笑っている笑顔は消え、目は座り、口角が上がる。


「ぶち殺したらァ!」


 聖都潜入のため、魔族の姿を隠蔽していたシュリは激怒により、悪魔の様相へと戻る。

 頭には角、背に翼、そして尾が姿を表す。


「あ、悪魔……」


 周りに居た騎士達が驚愕する。

 突然のシュリの変化に咄嗟に出た言葉は悪魔。

 実際にはシュリは淫魔だが、人族からしたら違いなど分からない。


 シュリは構える大鎌を回転させ、人工使徒に向けて投げた。人工使徒は剣で大鎌を叩き落とすが、その前には既にシュリの姿は無く、視界から消えた。


 するとシュリは人工使徒の後ろに素早く周り込み、背後からしがみつく。

 腕を人工使徒の首に回し締めていく。


「その首へし折ってやんよ!おらぁ!」


 ミシミシと人工使徒の首があらぬ方向へと向いて行くと、骨が折れる音がして首を引きちぎった。


 首の無くなった人工使徒がヨロヨロと数歩歩んだが、そのまま地に伏せた。

 引きちぎった首を無造作にシュリが放り投げると、騎士達の所に人工使徒の首が転がった。


「ひ、ヒィィィ!こ、殺さないでくれ!」


 恐怖に顔を歪め、騎士達は懇願するが、シュリは多量の出血で意識が薄れ、その場に倒れた。


「……あぁ、私逝っちゃうかも……」



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