第12話『リュウタロウとアメリア』
ゲスマルク侯爵の隠し財産を探しに、ファミリア王都へと向かったリュウタロウとアメリア。
「リュウタロウ様!ファミリア王都が見えて来ましたよ!起きて下さいッ」
馬車の荷台で眠るリュウタロウを揺すって起こすアメリア。道中、ファミリア行きの馬車の護衛も兼ねて同行していた。
「ん……やっと着いたか」
「ええ……ファミリアです。私、帰ってこれたんだ……本当にありがとうございます……うぅ」
アメリアが心からの感謝を述べると感極まったのか、瞳から涙が零れた。
ゲスマルク家が取り潰しになり、家族は離散。アメリアは帝国で奴隷落ちして約一年。久方ぶりの故郷である。
もう二度と戻れずに、奴隷のまま死ぬと思っていただけに、感激のあまり涙を流す。そんなアメリアを見て、リュウタロウは後ろから抱きしめて囁く。
「財産あると良いな。もし、あったら王都で贅沢三昧させてやる」
「はい……ありがとうございます」
アメリアの複雑な気持ちなどさほど興味無いリュウタロウは財産の行方の方が興味あるのだ。
そもそも、アメリアを助けた条件がゲスマルク侯爵の隠し財産である。本来の利用価値など金だけであった。
そうで無ければ失明していた奴隷なんて助ける義務も無かった。
リュウタロウの望みは財産を手に入れ、働かずに生活する事だけである。勇者として世界のために戦うのは、神聖王国から金が貰えるからであって、決して誰かのためではない。
そのため、現在はスピカやアルゴの言いなりになりつつ、勇者業を仕事としてやっているのだ。
アメリアの言う隠し財産が手に入れば、勇者なんて辞めて、辺境でハーレムでも作って引きこもる考えだ。
◇
ファミリア王都の北門に到着したリュウタロウ達を待っていたのは入国審査だった。
そこで問題が生じた。
「あぁん?てめぇはクソ勇者リュウタロウじゃねぇか!お前は出入り禁止だよ!死ね!」
人の良さそうな顔立ちの衛兵がリュウタロウを見た途端に鬼の形相に変わり、リュウタロウの入国を拒否した。
「なんだと!僕は勇者だぞ!世界を救う天翔る英雄様だ!サイン書いてやるから入国させろ」
「要らねぇよサインなんか!お前が王女殿下とエイル様にした事忘れたか?それに国王陛下の命令で、勇者リュウタロウは入国させるなと言われているんだ!とっとと失せるか死ね!」
今にも飛びかかって来そうな衛兵だが、まさか入国不可だとは思っていなかったリュウタロウは焦る。
「クソッ、なんでこんな扱いを受けなきゃいけないんだ!僕は勇者だぞ!」
「り、リュウタロウ様、ここは一旦引きましょう!」
無理にでも入国してしまいそうなリュウタロウを宥め、アメリアは一旦王都から離れた場所まで歩いた。
「こ、困りましたね……リュウタロウ様一体何をされたのでしょうか?まさか入国不可なんて……」
リュウタロウは以前スピカとファミリア王都に来た時の事を語った。
「それは……入国を拒否されても仕方ないですね……投獄されないだけまだマシです」
王女誘拐だけでも処刑されても文句言えないどころか、エイルを半年に渡り拉致監禁。
ファミリア国民の感情としては殺しても殺し足りないくらいの所業なのだ。
エイル拉致監禁事件は神聖王国セブールとファミリア王国の武力衝突寸前までいったらしい。
現在も同盟こそ結んでいるものの、反セブール感情は国民に深く残っている現状だ。
リュウタロウ自身も王女誘拐、エイル拉致監禁の罪で、勇者剥奪を一度されている身である。
帝国の革命を主導した功で、勇者に戻れたのだが。
「それでどうします?」
「かまわん。夜になったら潜入すればいい。前に来たことあるからな。転移で入国する」
アメリアは驚いた。転移なんて魔法があるなら何故ここまで馬車で何日間もかけて来たのだろうか?
「て、転移魔法なんて使えたのでしたら、馬車で来た意味は一体……」
「別にどうだっていいだろ?たまには野営とかも悪くない。冒険してる感あったしな」
アメリアは好き好んで野営などしたいとは思わない。
何せ道中にトイレや、浴場は無いのだ。
女性であるがために、特に気を使う事が多い。
毎晩求めて来るリュウタロウの為に、清潔でありたいと思い、冷たい川の水で丁寧に身を清めたりした。
その様な女の苦労を理解してくれていないのでは無いかと内心不安になったアメリアだった。
◇
宵闇に辺りが包まれた頃、リュウタロウとアメリアは転移で王都に潜り込む事に成功した。
街灯は灯っていたが、リュウタロウの顔までハッキリとは道行く人には分からなかったようで無事に旧ゲスマルク邸の前にやって来れた。
「……デカイな。屋敷とか言うレベルじゃない。なんだこれは。金持ちか!」
「あ、えぇ……親が裕福な方でして……」
「いや、親が金持ちって言っても、その金で育ってんだから、アメリアも金持ちなんだよ!」
「すみません……」
「しかし、どうするか……一階に灯りがついていると言う事は既に人が住んでいるみたいだ」
「隠し部屋は屋根裏なので静かにすれば気が付かないかと……どれほどの人数が住んでるかは分かりませんが」
「……屋根裏か、四階から侵入するしかないな」
リュウタロウはアメリアを抱え、屋敷の屋根へと飛び移り、隠し部屋のある四階の書斎の窓を割り侵入した。
わりと大胆な犯行である。
「リュウタロウ様は泥棒の経験あるのですか?」
「無いな。だが書斎の床が絨毯で良かったな、これなら気付かれまい」
◇
この旧ゲスマルク邸、現在はエイル邸である。
だが、当のエイルは神聖王国セブールに行っているため、ミカエルの部下、エレンが一人で屋敷の管理をしていた。
「あぁ〜、気持ちいい……」
エレンは屋敷の大浴場で一人湯舟で大の字になり、プカプカと浮いていた。水面にはエレンの大きな島が二つたゆんと、顔を出している。
当主不在の屋敷で一人暮らしを満喫中の様だ。
「ついつい独り言が増えるものですね。こんな姿、誰にも見せられませんし」
ミカエル親衛隊『桜花』の中でも、真面目な性格であるエレンはメイドとしての業務はメンバー随一である。
戦闘能力で言えば、シズカが一番強い。次にジス。
シュリはいつもミカエルに怒られてばかりだ。それでもシュリ的には、ご褒美だと思っている特殊な性癖の持ち主だ。
一人の時くらいはハメを外しても良いだろうと、エレンは一人納得した。
その時エレンは屋敷に異変を感じた。
「……賊か?」
エルフの血が入っているエレンは耳が良い。屋敷の何処かでガラスの割れる音を感知した。
エレンは浴室を退室してバスローブを羽織った。
◇
「無い……ここに父が貯め込んでいた財産が在ったはずなんです!」
屋根裏部屋はもぬけの殻であり、金貨の一枚も落ちてはいなかった。アメリアは落胆し、項垂れる。
「ふざけるな!何の為にわざわざ来たと思ってるんだ!この役立たずが!」
「すみません……」
二人は隠し部屋の階段を降り、書斎に戻るとそこには、
「ここをエイル様の屋敷と知っての狼藉か?賊め!」
その名を聞いたリュウタロウが、ピクと反応する。
「ほう……そうか。ここはエイルの屋敷か!おい女!エイルは何処にいる?」
「残念だが、今は神聖王国に行かれている。エイル様に用が有るのなら立ち去れ!」
「アメリア!ズラかるぞ!」
「は、はい!」
リュウタロウとアメリアは転移魔法で屋敷から消えた。
「フフ……エイルを倒せば財産はまだ手に入るチャンスがあるな!待ってろエイル!今度こそ従わせてやる!」
リュウタロウ、神聖王国へ―――
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