第10話『人工進化研究所』
セイクリッド邸
屋敷のリビングにはメイドに扮した魔王ミカエルと、シュリ、そして聖女スピカがいた。
「ところでミカエルさん……この茶菓子美味しいですね〜」
「それはカステラって言うのだけど……って、あんた何しに来たのよ?私これでも忙しいんだから、要件を早く言いなさい!」
「とても忙しいようには見えないんですけど、仕方ないので、お伝えしますね。……エイルさんが行方不明になりました」
「え?マジ?」
「はい。マジです。訓練中に行方が分からなくなったとの事ですが、さて何処にいるのやらです。ミカエルさん分かりませんか?」
「知らないわよ!て言うかのんびりお茶してる場合じゃないじゃない!」
「いやぁ、ミカエルさんなら愛の力みたいなので、エイルさんの居所くらい出来るかと、思ってたのですが出来ませんか……そうですか」
「何よ!やれるし!エイルの居場所……そうだわ、念話で……」
(エイル!エイル!お願い気付いて!)
(ミカさん?あっ、これ念話か……)
(エイル!無事なのね!今何処にいるか分かる?)
(……いや、何か施設みたいな場所だけど……場所は分からない……今……戦闘中ッ!あっ、そうだ!人口進化研究所ッ!)
(分かったわ!スピカに聞いてみるわ!必ず行くから!)
「スピカ!人口進化研究所にエイルが!」
「人口進化研究所?……いえ、分からないですね……」
「使えねぇなおい!シュリ地図出して!早くっ!」
「地図?ちょっと待って下さいなんだよ〜♡」
鞄の中から聖都の地図を出し机に広げる。
するとミカエルが意識を集中させて念話時の魔力を感知して方角を定めると、地図の向きを合わせて行く。
すると教会本部と王宮の中間地点辺りを指さした。
「ここ辺りなんだけど……これだと王宮なのか、教会本部か分からないわね。どうする?」
「二手に分かれて行きましょう。私は王宮に行きます。ミカエルさんは教会本部へ!」
「分かったわ!シュリ!分かっているわね?」
「はぁい♡ケーキ作って待ってればいいのかな?」
シュリが笑顔で返すが……。
「違うわよ!警備の目を教会から外に向けるの!陽動しろっての!」
「なぁんだ。街で暴れればいいんだね♡」
「あの……くれぐれもやり過ぎないようにお願いしますね」
笑顔で人を殺しそうなシュリに不安を感じるスピカだった。
◇
人口進化研究所内部
「馬鹿な!使徒化した実験体をこうもあっさり倒すなど、有り得ん!……なんだ?何なんだお前は!この実験体は元は騎士の素体で、使徒化によって三倍の身体能力向上しておるのだぞ!訓練生如きに倒せるはずなど……!」
メンゲルス博士が驚きを隠せないのか頭を抱えながら、別室の窓から何やら騒いでいるけど……元騎士の素体ってなんだ?
「よくぞ聞いてくれましたッ!……ちょっと着替えるから向こう向いててくれ」
空間収納から着物を取り出して着替える。
「ほう……異空間収納か」
「見るなって言ったし!一応、女の子だから着替える所は見るな!」
「子どもの着替えなんぞに興味無いわい、ほれ早くしろ」
「子ども言うな!」
―――
――――――
―――――――――
「もう良いか?」
「ある時は謎の女学生……またある時は剣聖椿ちゃんの一番弟子。……そしてその正体は……ファミリアに咲く一輪の花、アチナの使徒、エイル……だッ!」
「……」
「何か言えよ!黙られると恥ずかしいだろ!」
「なるほど……実に素晴らしい日ではないかッ!剣聖ツバキの弟子の登場に、オリジナルの天族。まさか現存する個体がおるなぞ!……だが、貴様が剣聖ツバキの弟子ならば、あの方の指示に従い、我が天族達を街に放とう。貴様が本当に天族なら、その力見せて見るが良い!」
この天族の出来損ないを街に放つ。メンゲルス博士は確かにそう言った。こんな自我のない怪物みたいなやつを街に出したらと考えるまでも無く、大惨事になる。
何故?そんな事して何の意味があるのだろうか?
狂気の沙汰としか思えない。こんな常軌を逸した事を顔色変えずに言い放つなんてヤバい奴だ。
ミカさんくらいにヤバい。
するとメンゲルス博士は別室の先へと去って行くと、俺のいる部屋の扉が開く。
この先に進めと言うのか?現在地が分からないから行くしかない。
◇
扉の先を抜け、螺旋階段をひたすら登ると再び扉があったので開けてみると、下水道に出た。
「地上はこの上か……しかし、臭いな。早く出ないと」
別に臭いから出たいとかじゃなくて、ほら街が大変かもしれないからだよ。本当だよ。
しばらく歩くと地上に出るハシゴを見つけたので登り、ようやく地上に出た。
直ぐ目の前に高い建物……聖教会本部だ。
やはり教会の地下だったらしい。するって事は研究所は教会が裏でなんかこう……上手く言えないけど、まぁそんな感じって事で。
街中に警報の鐘がカンカンと鳴り響いていて、兵士達が慌ただしい。あらゆるところで火の手も見える。
「敵襲ー!三番街にて狐と交戦中!応援急げ!」
三番街に狐?あれ?使徒の出来損ないじゃなくて?
何が起こっているのだろう。
◇
聖都三番街。
「狐発見!」
夜の聖都に大鎌を構えた狐面で顔を覆ったメイド姿のシュリがセブール兵士と対峙する。
だが、その間に黒翼の魔人が姿を現す。
「あれぇ?変な奴が出て来たんだよ?困ったなぁ。でも邪魔するなら、首チョンパしちゃうんだよ♡」
「な、なんだあれは!魔物の襲撃か!全員かかれぇ!」
兵士達が黒翼の魔人に一斉に斬り掛かる。
すると魔人の両翼が拡がり石つぶての如く兵士達を襲う。
「ぐわっ!」「ゲフッ!」「腕がァァァ!」
「顎が砕けたァァァっ!」
案の定、不用意に近付いたために、見事な殺られっぷりを見せる兵士達だ。まだ死んではいないが。
その様子を見て、シュリはこの魔人の強さを認識出来たと言ってよい。ありがとう兵士達。とほんの少しだけ感謝するシュリだった。
魔人の戦闘能力をある程度理解した上で、シュリが身の丈よりも大きな大鎌を構える。
シュリはミカエル親衛隊『桜花』の中でも一番に小柄である。エイルとさほど変わらない位だ。
故に超重量武器である大鎌も軽々と使いこなす。
「私から行くよッ♡」
軽やかに、まるで恋人に走りよるかの様な接近で魔人を間合いにとらえると大鎌を回旋させて足を狙った。
魔人は後方に避けつつ両翼を飛ばす。
「あっは♡」
―――
――――――
「いやぁん♡凄いぃ、あっ、はぁん♡」
「乱暴にしないでぇ♡優しくしてくれないとッ!」
「はぁ、んっ♡やぁッ♡あ、やだぁ、らめぇぇ♡」
夜の聖都に艶やかなシュリの吐息の様な声が響く。
魔人との戦闘中である。
無駄に色っぽく淫らな声に聞こえてしまうのは、シュリだからだと思われる。
すると、そんな不謹慎な声に騙された兵士達が、何事かと、次々に現われ始める。
「この非常時にけしからん!」「注意しに行かねば」
などと言いながら、嬌声響くシュリの元へと集まり、その数五十名を呼び込んだ。
「なんと!女の子が魔物に襲われているであります!隊長ぉ!我々はどうすれば良いですか?」
「総員、女の子を救えぇぇっ!」
シュリの声に呼ばれたスケベ野郎共はまんまと、シュリの陽動にかかり、教会本部周辺の警備は手薄になった。
「上手くいったんだよ♡」
シュリ三番街にて魔人と交戦中。
ついでに陽動作戦継続中。
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