第6話『セイクリッド家』

 市街地を抜け、セイクリッド家の屋敷に到着すると、屋敷からメイドさんが一人出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。旦那様が中でお待ちしております」


「あ、どうもっス……じゃなかった。あ、よろしく」


 屋敷の中に入ると、まず正面にアチナの肖像画が飾ってあった。普段とは違うアチナの凛々しい姿の絵だ。

 最早、トレードマークのアホ毛もしっかり描かれていたのだが、髪の色とかが少し違う。若いからか?


「なんか……不思議とエイルに似てるわね」


「髪型が似てるせいかな?」


 セブールに潜入する際に髪の長いカツラを着用している。不思議な事にアチナに少し似ていたのだ。

 血は繋がってないはずなんだけど。


 メイドさんに通され、リビングと言うよりは食堂と言った方が良いかもしれない部屋に入ると、貴族の家定番の長いテーブルがあり、その奥の席には40歳くらいの男性と、中央付近には若い女性が席に着いていて、こちらを不快そうに睨んでいた。


 メイドさんにエスコートされて手前の席に着いた。


「ようこそ、セイクリッド家へ、長旅で疲れたであろう。私が当主ファビオ・セイクリッド、そしてそこのが、娘のアイナだ。仲良くしてやってくれ」


「あ、えーとエイルです。よろしくお願いいたします」


 ミカさんは専属のメイドとして同行したので、席には付かず扉の横辺りで、こちらを見守っている。


 すると、当主のファビオが他のメイド達を部屋から追い出した。


「ちょっとお父様!いい加減説明して頂こうかしら!その娘とは、どんな関係?本当に隠し子じゃないわよね?お母様が亡くなってまだ五年ですよ!私は絶対認めませんですわ!」


 アイナだっけ?なんだか誤解されているみたいだが、いきなり拒絶されて俺ショックだな。

 まぁ、いきなり養子でこんな美少女来たら驚くよね。


「えーと、だな……エイル様、説明させて頂いても?」

「構いませんよ。その方がこっちも楽ですし……なんか睨まれてて怖いし」

「はぁ?お父様!なんでこんなちっさい子に様つけとかしてらっしゃるのですか?我がセイクリッド家は神聖セブール王国でも名家ですよ!言わば世界でも有数の大貴族です!現女神であるアチナ様を輩出した功績で未来永劫、格別の地位を賜り、何処へ行っても特別な待遇を受け、領地こそはありませんが、侯爵でございます!こんな何処の馬の骨とも分からない、容姿だけが取り柄の小娘に様付けどころか、同じ席に着く事すら腹ただしいですわ!」


 アイナの顔色が変わった途端、物凄い勢いで喋り始めた。なんか馬鹿にされたのは分かったけど。

 俺こういう人苦手なタイプなんだよね。


「まぁ、私アチナの娘なんですけどね」


「はぁ?な、何を言い出すかと思えば、アチナ様の娘とか、馬鹿じゃないかしら?アチナ様は独身だったはずなんだけど!しかも300年も昔の方でしょうに!貴方一体何百歳かしら!嘘も大概にしてほしいですわ!」


 はい。信じないね。まぁそうでしょうとは思ってたけど、ほんと良く喋る。


「アイナ。いい加減にしなさい!私がアチナ様に直接頼まれたのだよ。娘を頼みますと!」


「ですが、お父様!」


 納得させるしかないよね。


 俺は信じて貰う為に銀翼を展開してみせた。

「これで信じて貰えませんかね?」


「嘘……翼が……人じゃないの?」


「天族です。アチナの使徒とも言いますけど」


「使徒だなんて、おとぎ話だと思ってましたわ……一体何をしに当家に来たのかしら?」


 俺は二人にセブールに来た目的を話した。

 師匠である剣聖ツバキを殺った(死んでない)神殿騎士団と聖騎士団に仕返しをしたい事。

 教会本部にあるとされる『光の宝玉』を奪う事。


 全て隠さずに正直に話をした。嘘は苦手だし。

 信じてくれたのかは分からないが、その後はアイナも大人しくなった。



 ◇



 その晩、残念な事にと言うか当然の事ながら、ミカさんとは別室になってしまった。

 ミカさんはメイド扱いなので、寝室を一緒にするわけにはいかず、別々の部屋を与えられた。

 ミカさんも個室らしいが、俺の部屋よりもかなり狭い。

 使用人なので仕方ないのだが。

 俺は与えられた広い部屋の大きなベッドで寝間着姿でポツンと、なんだか寂しさを感じていた。


「一人で寝るって久しぶりだな……」


 思い返すと、常に誰かと寝ていた気がする。

 サンク市の宿と屋敷ではミカさんと常に一緒だった。

 王都の王宮でもミカさんと一緒。

 須弥山での修行中は椿つばきちゃんの抱き枕にされていた。心地よかったけど。

 北の大陸へ向かった戦艦ミカサの船室では何故かジスと一緒に寝ていた。


 人肌が恋しい……かも?

 俺って結構寂しがり屋さんなのかな?



 そんな事考えていたら、部屋の扉をそーっと開けミカさんがコソコソと入って来た。


「エイル起きてる?」

「うん……」


 ミカさんが露出の多い寝間着で現れ、ベッドに侵入して来る。薄いレースのキャミソールに黒いショーツだ。

 なんて格好ですか!そんな格好で屋敷内を彷徨いていたら痴女ですよ。


「どうしたの?」

「いや……エイルが寂しがってるんじゃないかなと。仕方ないから来てやったわけなの。嬉しい?」

 なんで俺はミカさんに子ども扱いされているんだろうと思うが……。

「うん。嬉しい」

 素直に嬉しいから良いのだ。


 ミカさんはデレっとした顔で微笑むと照れ隠しか、唇を重ねて来る。ミカさんの柔らかい唇が下唇を摘む様にして離れると、コツンと額と額を重ねて来る。


「ん、ちゅう♡」


 唇と唇で繋がり、息使いが荒くなってくる。

 胸の鼓動か激しくなり、緊張しつつも期待している自分。


「ミカさん……血ぃ、吸う?」

「うん。ではお言葉に甘えて……」


 スルスルとミカさんに寝間着をまくり挙げられ、裸体を晒す。なんだか少し恥ずかしいと感じるのは、女の子だからでしょうか?


 ミカさんの指が俺の唇に触れ、ツツっと下へと降りて行き、慎ましくも腫れ上がった部分を撫でる。


「んっ」


「静かにしないと、隣りに聞こえちゃうわよ♡」


 ニヤニヤと妖艶な顔付きで俺を弄ぶミカさん。

 逆らえない弱い自分がいる。


 さすっていた手が止まり、ミカさんがそこにかぶりついてくる。ミカさんの尖った牙が柔らかい部分に刺さるとじわりじわり血が溢れる。


「ん、チュー……んふ、こくん」


 俺の血液がミカさんに流れて行くと、下腹がキュンキュンと反応するのは何故なんだろう。


 部屋の中に小さな嬌声が響き、肌と肌を擦り合わせる様にしてミカさんに抱かれ聖都の夜を過ごした。




 ◇




 翌朝。


「エイル!起きなさい!」


 突然、部屋の扉を開けアイナが勢い良く入って来た。

 何事ですか?


「あ……おはようございます。アイナさん。いきなりなんですか?」


 既にベッドにはミカさんは居ないが、まだ寝ていたいのでベッドの中でまどろんでいた所だ。朝から元気だな。


「エイル!私の事は姉様と呼びなさい!貴方は天族で使徒でも、セイクリッド家の子になったんですから当然よね?」


 何だ急に。昨日の勢いの方向とはまた違う方向ですな!

 父親の不貞じゃなかったのと、女神の使徒が妹になったと言う事でテンション上げて来たのか?


「は、はい姉様……」


 仕方ない付き合ってやるか。


「うん。よろしい!じゃあエイル、学園に行くわよ!」


「はい?」

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