第5話『聖都セブンスヘブン』
異世界の車窓から
皆さんこんにちわ。エイルです。
ファミリア王国の王都から馬車で三日程走り、現在はセブール領内の街道を北上している。
「エイル見て見て!」
ミカさんの膝枕でゴロゴロしていると、メイド姿のミカさんが何やら馬車の外を指さしている。
「あれが聖都?」
「そうよ!ムカつくけど、この世界の中心都市ね」
馬車の窓から見える巨大な城みたいな都市。
堅牢な外壁は高く、魔物の侵入を許さない。
都市は円形状になっていて、外壁には8つの塔が建っている。それぞれの塔から結界の魔法が展開されていて、空からの侵入も不可能とされている。
「エイル。起きているか?そろそろ着くからな。しゃんとしてろよ」
馬車の外を馬で並走しているフレオニールが窓越しに現れた。
今回の護衛にはフレオニールと騎士団から数名参加している。応募が殺到したらしいが、フレオニールが居てくれてるだけで安心だ。
「うん。分かったよパパ♡」
「お前の父親になったつもりはない!」
アチナとの仲は進展しているようなので少しからかってみた。
「なんか高い建物が二つあるね。あれ何?お城?」
「左側の低い方が王宮。右が教会本部よ。ま、見ての通り教会の方が権威ある感じね」
「じゃあ右のやつぶっ壊せばいいんだよね?」
「ダメよ。私達の目的は潜入して光の宝玉を盗む事でしょ?ぶっ壊すのは、その後よ」
「……お前ら何しでかすつもりなんだ?」
フレオニールの心配等はスルーしておいて、問題はどう潜入するかである。
都市自体が厳重なセキュリティである。教会本部はもっと厳重であろう事は容易に想像つくのだ。
「エイル。そろそろ着くから髪直してあげるわ。寝癖ついてるわよ」
「ありがとう」
道中する事ないので車内でゴロゴロしてたり、ミカさんの膝枕を堪能してたりしたので、髪はボサボサだ。
実はカツラをつけている。変装用に長い銀髪のカツラを用意してもらったのだが、うっとうしくて堪らない。
挙句、着物から貴族令嬢風なドレスに身を包み、コルセットが窮屈で腹いっぱい食べれない。女の子は大変だ。
「なんでカツラなのに、このアホ毛は直らないの!?」
「……遺伝?」
どんな仕組みか知らんけど、女神アチナの使徒になった時からアホ毛が出来た。
カツラをしてもアホ毛が現れる強制力は神の力か。髪だけに。一体何の意味が……まさか!
アンテナの役割りだったりして?
そんなわけないか……。
◇
神聖王国セブール
建国1000年を越す大国は勇者召喚のできる唯一の国であり、人界の中心的な王国であるらしい。
帝国よりも人族至上主義である事から、人族意外の人種は入国不可である。
それ故に奴隷制度はなく、国内では差別も無いのではあるが、階級社会と言う差別的な部分がより濃く出ていると言われている。
聖都の入口にしても、貴族と平民では別である。
入国管理の厳しさには違いは無いが、扱いが全然違うらしい。
平民用の入口は長蛇の列が出来ており、入国に時間がかかりそうな事間違いない。
対する貴族用は待ち時間等なく、スイスイと入国出来る。まぁ、数の差だけどね。
フレオニール達とは、ここでお別れだ。護衛であっても、入国の許可証までは持っていない。
「フレオニール!ありがとう助かったよ!ユリウス陛下にもよろしく言っておいてくれ」
「承知した。お前らも、あまり問題起こしてくれるなよ?ユリウス陛下にも迷惑がかかるかもしれんからな」
「約束は出来ないけど、そこは何とかしてみるよ」
フレオニール達と別れた。
ここから先は見知らぬ土地だ。今まではフレオニールやユリウスに世話になっていたが……セイクリッド家か。
一体どんな人達なんだろうか?
◇
セイクリッド邸
屋敷内は数日前より妙に慌ただしくメイドと、この屋敷の主であるファビオ・セイクリッド(42)が新調した家具を入れたりと動いていた。
その様子を冷ややかな眼で眺める少女がいた。
セイクリッド家次女アイナ(17)だ。
普段は父親である当主ファビオを尊敬しており、父が忙しくしていれば「何かお手伝いさせて下さい」と気の聞く娘であったのだが、今は手伝おうなんて事はしないのだ。絶対に。
この、父と娘の仲違いの発端は昨日の夕食の席で起こった。
「父さんな、仕事クビになっちゃった」
なんて理由なら、心配はするが、軽蔑したりはしない。むしろ力になりたいとさえ思うのが家族だ。
だが、
「えー、我が家に養子が来ます。明日来る予定です。仲良くしてあげて下さい……以上」
なんだそれは!となるのは当然の事。
養子?何の為に?
時期当主は兄のレオンで決まっているはずなのだ。
「どういうことでしょうか?お父様。我が家に養子等必要ありませんわ!そうですよね?兄様!」
「あ、ああ、父上様、私には家督を譲れないということでしょうか?」
「い、いや、そのだな……養子と言っても女の子なんだが……」
なるほど。女の子ならば家督云々の話ではないのではあったのだが、どうにも歯切れ悪い父上の返答が気になる。もしや……?
隠し子?でしょうか?
養子が女の子と聞いて、食卓は静まりかえる。誰も沈黙と破れずにいた。
察したのである。おそらくは父ファビオが、何処ぞの娘との間に作ってしまった子なのだろうと。
納得するしかなかった。貴族ではよく聞く話だ。
むしろ、メイドとの間に出来たなんて話しも聞いた事もあるだけに、マシな方かもしれない。
それでも嫌なものは嫌なのだ。
聞けば歳は16歳だそうだ。何故、今更養子に迎えるのかも理解出来ないが、そんなに前から父が不貞を働いていた事の方がショックだったりする。
仲良くなんて出来そうにないのだ。
一体どこの平民だか分からない娘を妹として扱う気にもなれず、アイナは不機嫌そのものだった。
◇
入国審査も問題なく終わり、無事に聖都セブンスヘブン入りを果たした。城塞の様な門を抜け片側二車線の大通りには、数々の商店が並び、歩道には人で賑わっていた。道行く人は全て人族。ファミリア王都みたいに亜人が居たりはしない。
人族一の大都会なのである。街並みは綺麗に区画整理されていて、都市の中心部には王宮と教会本部に大聖堂と言った具合で、この国の力関係が丸わかりだ。
とにかく街が広い。東京ドーム何個分とか言われても分からない程だ。
これくらい広い街なら、普通に見つかったりとかはしないだろう。
「凄い都会だね!ミカさん!後で街探索しようよ!」
「そうね。後でシュリと合流してからにしましょ。多分向こうから接触して来てくれるとは思うけど……」
ミカエル親衛隊『桜花』のメンバーであるシュリは単独で潜入中だそうだ。
どうやって潜入したのか、ミカさんに聞いたところ、女の子の武器。としか言ってくれなかった。
あまり追求しない方が良さそうだ。
セイクリッド家の屋敷は中心部から30分程離れた住宅街の中にあった。
名家と言われてはいるが、さほど大きな屋敷ではなかった。二階建てだ。
アチナの実家である。実家と言うとなんか近しい感じだけど、実際この屋敷で生まれ育ったわけではないらしい。アチナが人間だったのは300年も前の事だ。
現在のセイクリッド家はアチナの姉妹の子孫に当たる。
アチナは独身だからな。
ようやく俺たちはセイクリッド邸に到着した。
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