第7話『聖アチナ女学院』
突然、アイナ、いや改め姉様が学園に行くわよ!とか言い出しやがり、まさかの展開に驚愕した。
「アイナ、いや姉様、なんで学園なんですか?」
「何って……わたくしの友人に妹を紹介する為に決まってるじゃないの。せっかく可愛い妹が!しかもアチナ様の娘!自慢しないと損でしょう?」
「いやいやいや!だからお忍びで来てるんだから、そこバラしたら意味ないでしょう?それに私は学園とか嫌いなんで行きたくありません!教会に潜入する手段を考えたりとか忙しいのです。学園はマジで嫌なので勘弁して下さい!」
「でもその学園が教会に隣接しているのですけど?」
「むぅ……」
アイナの通う学園は『聖アチナ女学院』エロゲに出て来そうな名前だが、真っ当な学園だ。
主に貴族階級の令嬢や、特別な能力を持った者であれば平民も可能だそうだ。
因みに男子は騎士学校に通うのが、貴族階級の常識なんだそうだ。
教会に隣接しているのであれば、上手く行けばちょちょいと潜入する事が可能かもしれない。
この誘い……乗るべきかな?
「……お願いいたします姉様!」
行く事にした。
別に学園の友人に会わされるだけだ。通うわけではないから良いだろう。学校なんて二度と行きたくないのだ。
◇
2日後
そして何故か今俺は聖アチナ女学院の教室で入学試験を受けている……。
「どうしてこうなった?!」
「はい。試験中は静かにして下さいね。エイルさん」
試験官に怒られました。
なんでこんな事になったかと言うと……アイナのせいである。
あの日、アイナに連れられ、アイナの学友の貴族令嬢に紹介された。そこまでは良いのだ。
流石に急に妹を紹介された学友が、今まで何してたのかと聞いてくる。そりゃ当然だ。
そこでアイナがついた嘘は……病弱で親戚の屋敷で療養していたけど、回復して出歩ける様になった。アチナの再来かもしれないから大切に育てて来たのだとか、余計過ぎる嘘をベラベラと語り始め、ならいっそのこと学園に入ってみてはと学友に勧められた挙句、「勿論そのつもりよ!今日は見学しに来たの!」と更に余計な嘘を付き、結果、試験を受ける羽目になった。
いっそ病弱のままにしておいてくれれば病弱を理由に逃げれたものを!アイナめ!
その勢いで入学試験を中途で受ける事になってしまった。来年にすれば良くない?と言ってみたものの、学園側が、セイクリッド家の御息女ですから大歓迎とばかりに、急遽試験を2日後にしてくれやがる事に。
アイナが更に吹聴して、アチナ様の再来、生まれ変わり。とか言うもんだから、過度な期待を学園に与え、一層ハードルが上がった。アチナは生きてるからね!
ミカさんは「この世界の勉強は遅れているから、義務教育程度の知識あれば大丈夫よ。一応大卒よね?」
なんて小馬鹿にされたのだが、不安で仕方ない。
試験は数学、歴史、魔法学、薬学、運動。
数学はパスだ。歴史は全く知らないのでパス。
魔法学ってなんですか?薬学?ポーションしか知らないよ。
運動一択しかないらしい。
早々に諦めていた筆記は、すんなり終わった。
全てを賭けた運動の試験は、教室から移動して運動場と言うか、修練所みたいな広場で行う事になった。
剣術の試験みたいな感じなのか、刃引きされた両刃の剣を渡されると、騎士風の教員が剣を構える。
運動の試験なので、剣術で勝ち負けを決めるわけではないらしい。後衛の神官でも、我が身を自分で守る事が出来るかを計る試験の様です。
つまり、回避能力と防御能力という事だ。
「それでは斬りかかりますので、防いで下さい。制限時間は5分間です。続行不可能と判断した場合は、こちらで判断して試験終了となります。良いですか?」
「あっ、はい。いつでもどうぞ」
騎士風の教員の初太刀は、避けろと言わんばかりの大振りの横薙ぎだった。
恐らくは、怪我をさせてはならない為だろう。
徐々に難易度を上げて、回避能力を計るつもりの様だ。
初太刀は余裕で躱す。太刀筋を見るまでもない。
次に上段切り落としだが、これも半歩下がれば躱せる。
数分後
試験会場に騎士風の教員の剣の風切り音だけが響く。
教員の表情は真剣そのもので、息使いも荒くなっている。開始時とは違い、連続技を繰り出しているが、全てを躱している。
「くっそぉぉぉっ!」
騎士風の教員が本気で斬り込むが、全てギリギリの所で回避しているのが腹ただしいのか、鬼気迫る表情だ。
もうすぐ5分間経つかな?
最後は刺突を打ち払い、教員の剣を弾き飛ばして試験は終了した。
教員の男は、悔しそうな顔をしていたが、とりあえずクリアしたかな?
「ありがとうございましたっ!」
挨拶を済ませ、会場を後にした。
◇
「例のセイクリッド家の三女の試験結果はどうでしたか?」
「はぁ……それが、全教科合わせても102点で、とても我が学園に相応しいとは言えない有り様です」
「困りましたな……」
数日後、セイクリッド家の屋敷に合格通知が届いた。
後から聞いた話だが、運動教員の熱烈なゴリ押しで辛うじて合格になったらしい。
そして、学園登校初日の朝を迎えた。
「エイル。あくまでも潜入って事を忘れないでね。女学生とキャッキャウフフしてる場合じゃないのよ」
「分かってるよミカさん。少しでも有力な情報を持ち帰れる様に頑張るよ。じゃ、行って来ます」
そう言って、俺はアイナと一緒に馬車に乗り、学園へと向かった。
アイナは学年が違うので、学園内では単独行動がとれそうだ。
「エイル、制服似合ってるじゃない。困った事があったら姉様に相談するのよ?」
「はい……姉様」
むしろ一番相談したくない相手となったアイナだ。
コイツと居るとめんどくさい事に巻き込まれそうで不安だ。コイツのせいで異世界で女学生になったわけです。
制服まで着る事になるとは……人生分からないものだ。
スカートが短くて困る。女子しかいないから別にパンツ見えても問題ないけど。
◇
学園にはクラス分けとかは無く、一学年一クラスだった。いきなりSクラスだったら俺目立っちゃう!なんて心配していたのだけど杞憂に終わった。
基本的に共通授業と専門授業に別れるらしい。
聖女コース、魔術コース、騎士コースの三つだ。
試験の結果で振り分けられるので、希望は受け付けないみたいです。
俺は……騎士コースでした。
聖魔法とか爆裂魔法とか覚えたかったのに……残念だ。
騎士コースで何を学べと言うのだろう。
いや、別に学ばんで良いのか。潜入だし。暴れる予定だし?
教室に入り、簡単に自己紹介して席についた。
セイクリッド家と言う事で少しざわついたが、席につく前の足を引っ掛けられる展開は無かったので、ちょっと寂しい。授業はチンプンカンプンです。
授業中はひたすらボーッとして過ごしていたのだけど、今日の最後の授業でとんでもない事態に陥った。
「皆さんはじめまして、本日より臨時教員として、教壇に立つことになりました、スピカ・アストライアです」
「え?」
これはヤバい予感しかしない。
教室はスピカさんの登場にテンションがMAXになり、絶叫の渦だ。中には泣き出す生徒や、失神する生徒まで出る始末。現役の聖女の力はダテじゃない!
芸能人を見るような眼差しで皆さん、スピカさんを見ているが、その人極悪人ですよ?
授業は皆、真面目に聞いており、無事に終わった。
俺はとにかく存在を消す様に微動だにせず、空気になっていたから大丈夫だろう。こんな所でスピカさんに見つかる訳には行かないのです。
授業が終わり、そそくさと教室を出ようとしたのだが……。
「えーっと、エイル・セイクリッドさん。お話しがありますので、面談室に来て下さい」
どうやら、バレていたのかな?
いや、まだバレているとは限らないよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます