第3話 『再来の王都③』

 

「ヒャッハー!」

「エイル様ァァァ!」


「よし!お前ら並べ!順番守れよ!」


 何故か俺が、騎士団の訓練をする様な流れになってしまっているのだけど……?

 見ると一列に並び、一人ずつ向き合う形となっている。なんでだ?


「え、エイル様宜しくお願いますっ!」


「え?何これ?ベルドさぁん。ちょっといいですか?」

「なんでしょうか?」

「いや、これだと酷く面倒なので、全員一気に相手したいんですけど……ダメ?」


 ベルドさんが勘違いに気付いたのが、大口を開け唖然としていた。


「な、なるほど!そうでしたか!分かりました。おい!お前ら!全員同時に相手して下さるそうだ!喜べ!」


 ようやく理解してくれたみたいで良かった!


 安全のため、木刀を使う事にした。

 まぁ木刀も当たると痛いのだけど……。



 ◇



 さてと、一対多数戦術の基本とかは知らないけど、どう戦うべきだろうか?

 本日お相手して下さるファミリア王国騎士団の皆さんは約500人。実際はもっといるらしいのだけど、王宮警備や、サンク市防衛隊等などで、少ないらしい。

 相手にとって不足なしだ。


 いくら相手が多くても、500人が同時に斬りこんでくるわけじゃない。

 一度に斬りこんで来るのは精々三人だ。


 一太刀で三人斬れば良いのだけど、木刀だから斬れない。手数を増やすしかない。とりあえずやってみるか。


 木刀を青眼に構える。

 目の前には武装した騎士団数百人だ。


「はじめっ!」


 合図と共に凄い勢いで突進して来るが、やはり足の速い順で接近して来るみたいだ。


「エイル様覚悟ぉ!」


 ご丁寧に掛け声かけて打ち込んで来る騎士の剣をさばいて蹴飛ばすと、遠くに飛んで行った。


 更に次々に切りこんで来る騎士達。

 切り下げを木刀で受けると、背後に回った騎士がすかさず、横払いで打ってくる。

 受けていた剣を払い飛ばし、横払いを躱すが、次から次へと剣撃がやって来る。

 これはまずいのでは?フルボッコにされそうだ。


「くっ!」


 手数が足らなくなる。二刀流なら手数が増えて対応出来そうだけど、椿ちゃんは一刀で二万の敵と戦ったのだ。

 なので、一刀でなんとかしてみたい。


 壁際とかであれば、背後を気にする事なく前方の敵を斬れば良いのだが、やがて破綻する。

 円の様に囲まれてる状況で、なんとか凌いでいても、斬った人の死体が邪魔になり、動けなくなり、やがて捕まる。ならば――


「動くしかないっ」


 エイルは囲まれている中心から跳躍し、円の外へと脱出した。だが直ぐに騎士達が向かって来る。

 それに対してエイルの行動は――


「行くぞっ」


 集団に対して逃げる事なく、突進し、正面の相手を斬り、更に走り、斬った。それを一直線ではなく多方向に行う事で、集団を散開させ、修練場をめいっぱいに使い走っては斬りを繰り返して行くと、面白い様に騎士達が減った。


「これが正解かな?」


 走っては斬りを繰り返し、徐々に速度を上げて行くと騎士団はエイルを完全に見失い、目で追うことが出来なくなると、足が止まる。

 後はただ止まっている相手を斬るだけの簡単なお仕事の様にパタパタと倒れて行くだけだ。


「まさか、これ程とはな……」


 騎士団長ベルドもエイルの強さはある程度は分かっていたつもりではあったが、予想の遥か上だった。

 以前に模擬戦をした時とは格段に速くなっているエイルに驚く。仮にこれが、実戦ならばと考えるとゾッとする。なんとしても騎士団総長の座に着いてもらい味方でありたいと思うベルドだった。


「いいように使われておりますね閣下」


 ベルドの背後から、長身の騎士が声をかける。


「おぉ!フレオニールか!久しいな。まぁ、見ての通りだ。エイル様には手が付けられん。まったく規格外だよ」


「まぁ、それは……」


 エイルは天族であり、神の子の様な者だ。エイルの正体を知っているフレオニールは、エイルが本当に規格外であるのは承知しているが、あまり口外出来ない件のため、何とも微妙な顔をする。


「陣形整えろ!密集して隙間を作るな!」


 フレオニールが騎士団に指示を出すと、バラバラだった騎士達が、統制のとれた動きに変わる。


「動ける奴は立てよ!エイルを捕まえるまで離脱は許さんぞ!……そういうわけだ。エイル!覚悟しろ!」


「えっ!?フレオニール?なんであんたが此処に?」


「説明は後だ、訓練には俺も参加させて貰う」


 マジっすか?


「それと、エイルはコレを背負ってやれ」


 フレオニールから何か沢山入ったバックパックを渡されると、ズシリと重い。


「砂が目いっぱい入ってるからな、30キロ位はある。ハンデだ」


「えぇ〜?こんなん背負ってたら……」


「訓練なんだろ?だったらつべこべ言わずにやれよ銀十字」


「むっ!分かったよ!」


 なんて意地悪なおじさんなんだ!仕方ない、正直500人程度なら楽過ぎると、思っていた所ではある。

 後でアチナに言いつけてやろう。俺は悪い子なのだ。


 という訳で、フレオニールから勝手にルール変更がされた訓練が始まった。

 俺は30キロのハンデと、魔法使用不可。

 騎士団は体力ある限り何度でも復帰が可能。

 俺を捕まえたら、騎士団の勝ち。だそうです。

 鬼ごっこみたいだ。


「お前ら、エイルを殺すつもりでかかれ!大丈夫だ、そう簡単には死なん」


 勝手に決めないで!


 先程とは違い、騎士団の突撃もバラバラではなく、足並み揃えた突撃だ。点では無く、面で襲いかかって来る。


「そっち行ったぞ!回り込め!槍で押さえ込め!」


 いつの間にか槍が導入されています。

 しかし、槍って結構戦いづらい。間合いが完全に負けているから、躱してから懐に飛びこまないといけない。


 ……この重いのを背負って。


 直線的な進路は塞がれたが、上は空いてるので、跳躍して飛び越えざまに、打ち込み、後ろをとり、陣形を崩して行く。

 神速とはいかないまでも、速さではまだこちらが数段上だ。



 それから2時間程、鬼ごっこを繰り返していた。

 流石に騎士団の人達も、立ち上がれなくなっていた。


 そんな俺も、肩で息する程には疲れてはいた。

 500人の騎士団を相手に、30キロの重り付きで10回転位はやったはずだ。延べ人数は5000人位と戦闘した事になる。そこに……。


「そろそろ俺の出番の様だな。どうだ?これが戦場なら、疲労困憊、満身創痍、且つ負傷した仲間を背負っている様な状況だな……エイル、お前がこれから何と戦うつもりかは聞かんが、お前が戦おうとしている相手は、この状況よりも困難なはずだ。分かるな?」


 なんだかグサッとくる。

 勇者を敵にまわす時点で、人族を敵にする様な事だ。

 ミカさんは魔王だし、必然的にそうなる。

 フレオニールはそれを言っている……そんな気がした。


 フレオニールが長剣を構え、腰を落とす。

 剣先がこちらを向き、訓練だと言うのに殺気が伝わってくる。

 身の丈程の長剣。何かどこかで見た事が……あれ?

 長剣と言うより刀だ。長刀だ。


「フレオニール。その刀……ひょっとしてアチナに貰った?」


「……そうだ。どうしてもと、押し付けられてな。仕方なく頂戴した」


 やっぱりそうか!確か天界で武器を適当に選んだ時にあった刀だ。長すぎて諦めたマサムネ。

 切れ味抜群らしい。ていうか訓練にマサムネ使うなよ!


「ズルくない?」


「殺す気で行く。凌いでみせろ」


 目が本気だ怖い。


「ミカさんを、背負ってるつもりで戦うよ。ミカさんは30キロよりも重いけどな!」


「フッ。その意気だ」


「誰が重いって?」


「「!?」」


 声のした方を見ると……ミカさんが怒り顔で立っておりました。


「あ、えーと、あの……」


「帰りが遅いから、心配して来てみれば……何してんの?」


 悪魔が、鬼の形相で近付いて来る。

 胸ぐらを掴まれ、気絶する程の強烈な往復ビンタをされ、意識を失ったエイルを担ぎ、ミカエルは去って行った。


 エイルと騎士団の鬼ごっこは、本当の鬼の登場で幕を閉じた。

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