第5章
第1話 『再来の王都①』
俺とミカさんは神聖王国セブールに潜入する為に一度ファミリア王国の王都へ向かった。
ファミリア王国の一応貴族の爵位を持っているため、セブールにあるアチナの実家、セイクリッド家への養子として扱い、正規ルートで堂々と入国するつもりだ。
なので、ユリウス国王にその旨を伝えに来たのだ。
久しぶりの王都。
大通りの車道には馬車が行き交い歩道には人が多く賑わう。道行く種族は様々で亜人やエルフも多く、多種族国家である。
「エイル様だ!」
あっ、バレた。
流石に着物着てる人は少ないので、目立つらしい。
加えてファミリア王国では、最上位勲章の銀十字勲章を叙勲しているので、英雄扱いだ。
街が少し騒ぎになったが、無事に王宮の正門に着いた。
「あのー、エイルだけどユリウス国王いる?」
突然近所の子どもが友達に会いに来たみたいな軽いノリで門番の兵士に問いかけると、本来なら入城予定の無い騎士爵程度の来客など、追い返される所だが、ファミリアの人気者エイルである。
門番も驚くがそこは
「早急に確認して参りますので、お待ちください!」
と言って、スキップしながら城内に消えた。
暫くして王宮の一室に通され、待つように言われる。
お菓子と茶が出された。
「あっ、これ美味しい……モグモグ」
「あまり食べ過ぎて太らないでよ。一応私の体なんだから……」
太ると言う概念を忘れてたけど、太るのだろうか?時間の経過で成長する感が無いし。寿命ないし。
「ミカさんは食べ過ぎると太るの?」
「太るわよ!」
なんか怒らせたみたい?
でもミカさんも細いと思う。
手足長いし、出る所は出てるし。この体とは大違いである。
バン!と勢い良く部屋の扉が開くと、ユリウス国王が入って来た。
「エイル!やっと帰って来たんだね!一体今まで何処に行ってたんだ!」
心配性のオカンかよ!
「あー……まぁちょっと北の大陸とか?でも、剣の修行で椿ちゃんの所行くって言ったろ?あとセリスから色々聞いてないの?」
「あぁ、聞いたよ。セイコマルクでもやらかしたみたいだな!剣聖ウメを叩きのめしたり、神獣と戦って都市を半壊させたとかな!」
「えへへ……」
「褒めてないよ!大体あの亜人の子!リオだったか?セイコマルクの王族だったって?」
「そうそう。驚いたよねー。ま、別に問題ないでしょ」
「大問題だよ!他国の王族がうちの士官学校に在籍してるとか!扱いを変えないとならないんだよ!」
そうなんだ。まぁ、知らん。
「大変だね。頑張ってね」
「それだけじゃないぞ!エイル!君の事だ」
「えっ?私の事って何それ?」
なんだろう、ひょっとしてセブールのセイクリッド家へ養子として行く事を既に知っている?
これから言うつもりだったのだけど……
いや、それは無い筈だ。ユリウス国王の情報源がセリス経由ならば、知っている筈は無い。
この件を知ってる人はアチナとノアさんとミカさんだけである。
「君の処遇についてだ。この話にはベルド騎士団長も同席して貰う。ベルド、入れ」
ユリウス国王に呼ばれると直ぐにベルド騎士団長が入室して来た。部屋の前で待機していたらしい。
「お久しゅうございますエイル様!」
筋骨隆々で長身のベルド騎士団長に圧の強い挨拶をされると少しビビる。顔も怖いし。それに、明らかに身分がベルド騎士団長の方が上なので、様付けされるとなんか困るのだ。
「あ、あどぅもベルドさん。お元気そうでなによりです!」
思わず敬礼してしまった!
「エイル。なんで僕には、そう言う態度になれないのかな?僕は国王なんだけどな……」
ユリウス国王がなんか拗ねてる。
「ほ、ほらユリくんは友達だから、さ」
「エイルにとってユリウスなんて、その辺の雑草程度って事よ。会話させているだけで感謝しなさい!」
ミカさんが余計な事言って、より一層ユリウス国王が落ち込んだ。
「もういい……ベルド。エイルに説明してくれ……」
「承知致しました!」
勢いの良い返事をすると、ユリウス国王の隣りへ座り、丁度俺の正面になった。
「エイル様の処遇について、ユリウス陛下と私で議論をした結果。エイル様には騎士団総長と言う肩書きでご在位して頂く事になりました!」
「騎士団総長?」
なんだ?ちょっとカッコイイ響きじゃないか!
俺が総長……。
「ちょっと何勝手に決めてんのよ!エイルはこの国出てセブールに行くのよ!」
「なんだって?ど、どど、どういう事だよ?聞いてないぞ!セブールに行くだって?そんなの許せるわけないじゃないか!ボクは認めないぞ!なぁベルド!」
「も、勿論です!既に一部の貴族を除いて合意を得ております故、是非にお考え下さい!エイル様!」
「えと……実はかくかくしかじかな理由でセブールに行くのね。だから総長とかは無理なのね」
「かくかくしかじかじゃ分からないよ!ちゃんと話せ!あっ。ごめん。ちゃんと話してくれないか?」
さて困ったな。どこから話して良いものか。
とりあえず俺は邪神の使徒が暗躍していて、封印を解くために剣聖の結界石を奪われた事。
更には椿ちゃんが、セブールの聖騎士と神殿騎士に襲われた事を話した。
「そ、それはつまり……教会が邪神の使徒と繋がっていると言う事なのか?」
「間違いないわ。それに勇者も」
「勇者リュウタロウもだと!」
「うん。それで俺たちは教会に潜入して、証拠を掴むと同時に、光の宝玉だっけ?あれを奪う」
「なんて事を!だが、セブールに入るのは難しいはずだよ?」
「まぁ、それでセイクリッド家の養子として堂々と入国するつもりなんだよね。だから許可取りにユリくんトコ来たんだけど……ダメぇ?」
「セイクリッド家だって!?」
え?何?その驚き様は!
「そうだけど……なんかヤバい家?」
「セイクリッド家と言ったら、セブールでも三大貴族と言われている名家じゃないか!聖女アチナ様を輩出し、更には現女神にまでなられたアチナ様の生家。政治的な権限は与えられていないが、由緒ある名家である事は間違いない。よく伝手があったね!誰の伝手だい?」
そんな名家だったのか!
アチナ本人の紹介とは言いにくいのだけど……
「ノア様の紹介よ。今回ノア様の助言を頂いているの。セイクリッド家には迷惑かけるかもしれないけど、セブールに行くわ。だからユリウス。お願い。エイルを送り出してやって!戻ったら総長でもやらせればいいわ」
「ち、ちょっとミカさん!」
総長とか無理……。
ユリウスは暫し腕を組んで俯き、ゆっくりと顔を上げた。
「……分かった。許可しよう……だけど必ず戻ると約束してくれ。エイル……君は既にファミリアの至宝なんだ。その事を充分理解してくれ」
うわ!なんか重い……。
「ありがとう!ユリくん!」
「では!セブールにお輿入れの際には是非共、護衛の役を我が騎士団に!」
「そうだな!騎士団1000人くらいで、盛大に送ろう!」
ベルドさんとユリウス国王が、とんでもない事を言い始めた。
ええ?!それはなんか目立つからお断りしたい!
馬鹿なの? おかしいよね? 1000人? 大名行列みたいになっちゃうよ!
そんな物々しい入国なんて目立ってしまうし、恥ずかしい。自分の身は自分で守れる。
以前、近衛騎士の人達に護衛してもらった失敗が思い出されるのだ。
絶対に断ろう。
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